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初めての

2日後、


ずっと馬車で移動している様だ。


相変わらず鉄格子の中ではあるが、俺の精神は大分落ち着いてきていた。

言葉が通じない不便さには慣れないが、そこはなんとかジェスチャーで乗り切ろうと考えている。


全身を使用してなんとか聞き出した女の子の名前は〔シアン〕と言うらしい。


シアンはいつでも微笑みを浮かべており、俺に優しく接してくれた。同情されているのかもしれないが、マジで惚れそうである。


だが感謝の気持ちを恋心に置き換える訳にはいかない。それに、俺には現在問題が発生している。


俺の記憶には人の顔がない。その状態で思い出そうとすると、全ての人の顔がシアンに置き変わってしまう。すでに嫁の顔、子供の顔どころか、親の顔までもがシアンになってしまった。

おかげでシアンに対して、重すぎる親愛の情が俺の心に燻っている。


頭が上がらないとは正にこの事だと思う。


その事に気付いてからは、あまり自分の過去について考えないようにしている。考えれば考えるほどシアンに対して申し訳ない気持ちになるし。


「そう、俺は過去に拘らない男だ。」




シアンは俺の側で不思議そうな顔をしている。





‥‥‥すいません、言ってみただけです




そんなこんなで現在馬車に揺られている。


どうやらこの馬車は3人の男に護衛されながらどこかに向かっている様だ。

はっきりした事は分からないが、男達がシアンに対して、頭を下げて何かを言っていたのを1度だけ見たことがある。


そんなシアンが俺と一緒に鉄格子の中に居ていいのだろうか?

俺の為かもしれない‥‥



ますますシアンに頭が上がらない。






☆☆☆☆☆




その日の夕食で、俺は初めて外に出して貰った。

改めて周りに頭を下げ「ありがとう」と、なんとか伝えた。

その後、男達の名前も頑張って聞いてみた。


まず1番話しかけやすい雰囲気の〔ウィン〕


くすんだ金髪で、猫耳が特徴的である。イケメンでモテそうな男であるが、3人の中では1番下っ端のようで、色々と雑用を押し付けられている。シアンに対して1番ペコペコしてるのもウィンだ。


2人目は背が高く2mくらいある〔ロット〕


眼光が鋭く、正に強面と云う印象だが、ガハハと笑いながら背中を叩いてくる所は父親のような雰囲気だ。灰色の髪を短くきりそろえ、頭に付いた可愛い垂れ耳が凄い違和感を醸し出している。‥‥ちなみに俺が縋り付いたのもこの人だ。


最後は小柄な男で〔シルド〕という


シルドの身長はロットの半分くらいで、料理番の様だ。髭が濃く、口周りはフサフサだが頭はスキンヘッドだ。ゲーム知識にあるドワーフがハゲたらこんな感じだろう。



ウィンが俺に暖かいスープを渡してくれる。具は少ないがホッとする優しい匂いだ。今日の夕食は干し肉と硬い黒パンにこのスープらしい。俺はこの世界で今日まで、まだ1度も食事をしていない。鉄格子の中でもパンの差し入れはあったが、食べられる様な精神状態ではなかったので、今日はシアンが気を使ってくれたのだろう。


俺はもう一度頭を下げてスープを口にした。


はっきり言って味が薄い。かろうじて塩味とジャガイモの様な野菜の甘みが感じられる程度だ。だけど体にゆっくり広がる温かさが、俺を癒してくれる気がした。俺を見る心配そうなシアンの顔を見て、嬉しかったり、恥ずかしかったり、色々な感情が混ざりあった複雑な感情で俺は笑みを浮かべた。






久々の食事を楽しんだ後、俺は再び戻った馬車の中で、シアンに言葉を教わっていた。幸いな事に鉄格子の中には入れられず、シアンの隣で子供用の絵本の様な物を読み聞かせて貰っている。まだ言葉も文字も全く分からないが、絵を見る限りでは勇者と魔王の物語のようで、勇者を指差してシアンがウットリした表情をしている。情けない事に、その絵に対して俺はムッとしてしまう。


30過ぎのオッサンが何をしてるんだか‥‥‥‥



その後、石や木、草などの単語を教えて貰いその日は就寝した。




☆☆☆☆☆





真夜中、俺は突然目を覚ました。馬車の外では怒声が飛び交っており、慌てて飛び出した。



その後見た事を俺は絶対に忘れられない。


ウィンとシルドが数人の男達に刺されて首を落とされていた。












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