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新しい記憶

化物の腹から引き摺り出された。


なぜもっと早く助けてくれなかったのか、もう少し、あと少しでも早ければ、自分の大切な物を忘れる事もなかったのに‥‥‥。


次はどんな記憶を食われるのか。怯え、生温かく全身にグニャリと纏わりつく抗い様の無い恐怖の記憶が俺を形造っていた。


全てを無くした訳では無い。記憶としては色々な事を思い出す事が出来る。

子供がいた事、家族がいた事、友人、知人、その他の人、それどころか、初めてバイクに乗った事、新居に引っ越した日の事まで‥‥‥


だがどの記憶も人の顔が思い出せない。自分の顔さえも‥‥


全ての記憶に色が無く、その時に感じた感情、匂い、感触が無い。


貼り付けられた絵のような記憶は、まるで興味の無い本を読んでいる様で‥‥‥


だが解る。

此れは間違い無く自分の記憶だと。


それを理解できる理性と思考が残っている事実、それが俺を絶望の淵に押し出して行く




そんな俺にあの腕が伸びてくる。俺は夢中で縋り付いた。何かに触れていなければ自分が消えてしまう、そんな脅迫観念に駆られて。


俺の意識は闇に溶けて行く


縋り付いた腕の持ち主からかけられた言葉を聴きながら



「◆◆◆◆◆◆、◆、◆◆◆◆◆?」



ここは異世界。


世界が違えば言語も違う


そんな現実を受け止める事が出来なかった








☆☆☆☆☆






気を失ってからどれくらいたっただろう。

額に置かれた冷たい感触で俺は目を覚ました。


身体を起こすと、1人の男がこちらに気付き向かってくる。


俺は縋り付きたくなる気持ちを抑え、取り敢えず感謝の言葉を口にした。


「あの、‥‥‥ありがとうございます。あのままだと俺は‥」


「◆◆◆?◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆?◆◆!◆!」


男は困惑した顔で答えるが、俺にはその言葉が理解できなかった。

ある程度は覚悟していた。見た事も無い化物、ありえない程デカイ月、男の頭に付いた犬の様な垂れ耳、ここは異世界なのだと。

それなら言葉が通じるのがテンプレだ。心の何処かで通じる様な気がしていた。だが現実はどこまでも俺に厳しい。


俺は我慢出来なくなり、男に手を伸ばし触れようとした。何かに触れないと今度こそ俺は消えると思った。


あと少しで触れられる。そんな所で、男は飛び退き、俺と距離を置き剣を構える。


俺は耐えられなくなりその場で奇声を発しながら頭を掻き毟る。


そんな俺に男は容赦なく剣を打ち込み、俺の意識はまた途絶えた。





次に気付いた時、俺は鉄格子の中に入れられ馬車に乗っていた。側には猫耳の女の子が居り、どこか怯えた顔で俺を見下ろしていた。


俺は女の子が視界に入るや否や、慌てて抱き付く。 何かを考えた行動ではない、力任せに抵抗できない様押さえ込もうとした。


驚いた様子の女の子は身体を震わせていたが、意外にも抵抗はせず、力いっぱい抱き付いた俺の頭を撫でてくれた。


そのまま1時間程経ち、次第に落ち着いてきたが、この状況を正確に理解するにつれて俺は焦ってきた。


いきなり抱き付いた女の子は何も言わず、今も俺の頭を撫でている。俺はここからどうすればいい?いやいや何この状況?俺凄い迷惑な奴だよな?えっ?なんでこんな優しいの?


などと頭はパニックだったが、このまま抱き付いている訳にもいかず、深呼吸して身体を起こす。その際、女の子の甘い香りが鼻腔をくすぐり、途端に恥ずかくなって顔を隠した。


「◆◆◆◆?◆◆◆◆◆◆◆。」


女の子が声をかけてくれるが理解は出来ない。ただ声の調子と表情で優しい言葉だとは伝わった。改めてまともに見た女の子は14歳位だろうか。目鼻立ちはとても整っているが、どこか気が弱そうな印象だ。山百合のような優しい微笑みを浮かべて真っ直ぐに見つめる瞳に俺は安心感を貰っていた。


全ての人の顔を忘れた俺だが、初めて記憶したのがこの子で良かった。神に祈る気持ちでこの記憶を大切にしたいと思った。


俺は女の子の手を握って頭を下げる。



今は何も解からないが、俺はこの子に救われた。せめて感謝の気持ちだけでも伝わればと思い「ありがとう」と声を出した。

ここまで読んでくれてありがとうございます。


次話からやっと名前を付けていきます


長いプロローグのようでしたが今後も暖かく見守って頂けると幸いです

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