マジで絶望5秒前
これまでのあらすじ
・変な木に怒られる
・目覚めて妄想爆発
・化物に丸呑みされる←今ココ
飲み込まれてから体感で1時間程か。
徐々に消化される恐怖で気が狂いそうだったが、どうもそのような事は無いらしい。こいつの体内は空洞になっており、立ち上がれる程のスペースは無いが、座るくらいは問題無い。流石に横になる事は出来ないが、出来たとしても、今の状況で寝るほど俺はバカではないつもりだ。
‥まぁ眠くなったら分からんが。
兎に角、幸いな事に消化液の類いも無ければ異臭もない。一先ず安心だと思っていいだろう。‥‥‥安全で無くとも出口らしきものが見当たらないので今の状態では此処から出る事も出来ないが。
そんなこんなで、取り敢えず俺は今の状況を自分なりに整理してみる事にした。
はぁ〜、何コレ?こんな状況に対応出来るような鋼鉄の精神してないんだけど。
そもそも此処は何処だ?少なくともこんな化物は俺の知識にはいない、それどころか生物としてありえない。体内に居るから分かるがこいつは植物だ。体温も感じなければ鼓動も感じない、手触りは正に植物の蔓であり、匂いも草っぽい。
やっぱ妄想通り異世界?まだ情報が何もない為判断が出来ないが。
だとしたら‥‥‥一応嫁も子供も居るんだけどなぁ〜。保険には入ってたからお金は心配ないだろうけど‥‥
と、そこまで考えて気付いた。子供の名前が思い出せない。それどころか自分の名前すらも分からない。
(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はっ?)
他の色々な事は思い出せるが、総じて人の名前だけが思い出せず、唯一思い出せた自分のアダ名が、俺が1番嫌いな《ハデマル(ハゲで出っ歯で丸メガネ)》だった事に安堵し、こんな事しか分からない事に絶望した。
その事実に気付いた時、俺はなんとかここから脱出しなければならないと感じ、必死で出口を探したが、願い叶わず脱出は出来そうになかった。
1時間程もがいたが、全く糸口が見つからない為、一旦脱出を諦め、もう一度自分の記憶を探ってみた。思い出せない事が本当に名前だけなのか、確信が持てなかったからだ。だいたい名前が思い出せない事を、おかしいと感じたのはたまたまだ。これが名前以外の記憶であれば、おかしいとすら感じないハズだ。そう考えた時、俺はこれまでで1番の恐怖を感じた。1番嫌いなアダ名に縋り付きたくなる程に‥‥‥。
だがそれは遅かったようだ。
ついにアダ名が思い出せなくなった。
そこで初めて俺は理解した。この化物は俺の記憶を食っている。
自分を形造るのは、これまでの人生の記憶だ。記憶を元に人格が形成され、記憶があるから自分が自分であると理解できる。記憶を食われる事は俺の存在を食らう事に等しい。
俺は少しずつ自分の存在が消える恐怖に発狂しそうになりながら、なんとか脱出しようと涙を流して助けを求めた。
「たったっ助けてくれー!嫌だ!俺は消えたくない!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だーーー‼︎‼︎‼︎」
どれくらい叫んだだろう
もう涙は枯れ声も出ない
子供や嫁の事も、少しずつ思い出せなくなっている気がする‥‥‥
恐怖と絶望で俺の精神は限界だった。今すぐ死ねば楽になれると思いながらも、そんな勇気は無い。もう嫌だ‥‥‥
俺は目を閉じた。今眠ればこの恐怖の記憶もこの化物が食べてくれると信じて。
『ゴギャラァアァアアァアアァ』
暫くして化物の声が耳に響く
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥今更遅いよ」
薄暗い中に光が差し込む
俺は野太い腕に引っ張られ、太陽の下に引き摺り出された。
読んでくれてありがとうございます。
少し暗い話しになりましたが、やっと他の人間が登場しました。
初めての投稿ですので、感想等など頂けるとありがたいです。読みにくい等は修正しますのでどんどんお願いいたします。
間を空けずに更新して参ります