魔法世界イデア
初の小説投稿になります!
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
よろしくお願いします!
■1章
村で一番の魔法の才能の持ち主であるセラがついに名門、王立魔法学園への入学を決めた。
村は総出でセラを祝い、幼馴染のクロノは男であり魔法の才能のない自分にはがゆい思いをしながらもセラを祝った。
しかしクロノもセラに負けず劣らずの才能の持ち主で、剣の腕に関しては、大の大人が数人がかりで相手にならないほどの腕前なのである。
そんなクロノだが、やはりこの世界イデアでは魔法の才能が全てであり、魔法を使えるものが皆からの羨望を集めることを理解していた。
この世界では魔法が全て。ユグドラシルの恩恵を強く受けられる人間が、人の上に立つことができるのだ。
そういう風なことを考えていると、ふと視界の先にセラが映った。
皆に囲まれながら、笑うセラから目が離せなくなった。羨ましいとか、妬ましいとか、そういう気持ちではない。
ずっと今まで一緒にいたセラが遠くに行ってしまい、今後、村でいる時は一人になる自分を想像すると、違和感を感じえなかったのだ。
「あ、クロノ〜!あんたもこっちに来なさいよ!今日はお酒が飲めるのよ!お・さ・けー!」
こっちの気持ちなど露知らずか、セラは呑気にクロノに酒をすすめてくる。
さっきの違和感がなんだったのかはわからないクロノだったが、今はセラの飲みに付き合ってあげることを優先しようと思い、
少し重く感じた腰を上げ、セラに向かって歩いていった。
数日後、セラはクロノにとっておきの魔法を見せてあげるといい、クロノを村はずれの森の奥に誘った。
森は黒々としていて、今にも野獣が出そうな雰囲気であったが、そこはセラ。
野獣が出てきても自分の魔法でイチコロだと考えているような素振りで、どんどん森を進んで行く。
クロノの剣の腕を信用してくれての、この勢いだったらまだ可愛げがあったが、セラはどうやらそういう類には入らないらしい。
「よし!この辺でいいかしらね」
位置取りが決まったのか、嬉々とした声をセラが上げる。
しかしその声に反して、クロノの声はあまり乗り気な空気をはらんではいなかった。
「ねえ?やっぱりやめとかない?日常生活以上の魔法はご法度だよ」
そう、王国で決められている国家憲法。一定以上の魔法を扱うのには、魔法学校を卒業し、魔法使いとして認められてからなのだ。
しかしセラはまだ入学すらしていない。入学を控えている身だ。
そうクロノが心配していると、セラからまたしても嬉々とした声が上がった。
「何言ってんの?私は天才なのよ!天才の私は王立学園に入学を決めた時点で、卒業しているようなものなの!」
・・・・ここまで自信過剰になれる人間も珍しいだろう。
こうなっては止まらないとわかっているクロノは、せめて大したことにはならないことを願いつつセラを見守ることに決めた。
「ふぅ・・・・まぁ、いいけどさ。どんな魔法を使うのさ」
「とっておきって言ったらとっておきよん!」
語尾に音符がつきそうな勢いでセラがはしゃいでいる。
いつになく今日は機嫌がいいようで、いつもなら見ているこっちも楽しくなってくるのだが、
今日は何か起こらないように見守る気持ちでセラについてきている。
「危ないのだけは勘弁してよ。巻き添えは嫌だからさー」
「むっ。あんた私の腕を信用してないわけ?いいわよ、だったら見せてやろうじゃない!わたしのとっておきをね!」
言うが早いか、セラは両手を手前に突き出し、両の手のひらを開き合わせ、詠唱に入った。
すると、セラの周囲に一気に光があふれ、黒々としていた森は、朝の日差しを浴びるかのように爛々と光を帯びた。
常人では考えられない速度と濃度で魔力が構成され、セラの腰まである金の髪が魔力の波動で宙を舞う。
実際にセラは周囲も認める天才なのである。このくらいは朝飯前なのかもしれないが、それにしても早すぎる。
クロノが普段村で見ている魔法は火を灯すだけでも、1分は要しているのに対し、セラの魔法は同レベルの魔法なら、
一秒も要していない速さだ。
「ん・・・・?ちょっと待てセラ。なんだその魔力は。ちょっ、ちょ、待てって!魔力がでかすぎる!
さすがにまずいって!」
「あーん?さっきも言ったでしょ、この私はもう卒業しているようなものだって!いくわよ〜!はぁーーーー!せいっ!!」
止めるべきだった━━━宙に浮いた魔力の塊は暴走を初め、外側ではなく内側であるセラ自身へと跳ね返った。
盛大な爆発音と共に砂煙が舞い上がり、視界を覆い隠す。
視界が回復したころ、そこにはクロの以外誰もいなかった。
「あー!もうなんなのよ!この私が失敗!?ありえないわ!」
誰もいない・・・・誰もいないと思っていたが、どこからともなく・・・というか足元からセラらしき声が聞こえてくる。
「セ・・・・セラ?」
動揺を隠せないクロノの前に現れたのは、背丈が10分の一程になったセラだった。
まだセラ自身は気づいていないようだが、今のセラの姿は童話に出てくる小人そのもとなっていた。
「ん?何?あんたなんかでかくない?・・・・ってわああああ虫っっ!でか!!」
「いや・・セラが小さくなったんだよ・・・・」
あんですってー!!と握りこぶしを作りいつもの様にクロノを殴ろうとするセラだが、
ようやく冷静になってきたのか状況がつかめたようだ。
「って私が小さくなってるんじゃない!!どういうこと!?」
ようやく事態を理解したセラが慌てだす。
今まで見たことの無い慌てぶりだったが、ふと動きを止め不適に笑い出す。
「ふ、ふふふ・・小人になったのなら元に戻せばいいだけじゃない。だって私は天才魔法使いなんだから」
たった今魔法を失敗したばかりだというのに、セラの鼻っ柱は折れるどころか、伸びに伸びきっている。
そしてそう言葉を放ったセラがまたしても魔力を集中させ始め、自分自身に解除の魔法をかけ始める。
しかし━━━
「なぁんで失敗するのよーーー!!?」
セラの姿は元に戻ることはなく、小人の姿を維持したままだった。
私の魔法で治せないなら、誰が治せるのよ!?と相変わらずの自信で、自分自身の姿に怒っている。
「でもセラ、まずいことになったよ。さっきの魔力の暴走は、たぶん魔力塔からも観測されてるよ」
と慌てるクロノ。
魔力塔とは、魔法使いの資格を持たない一般市民が、生活に必要な魔法以上の魔法を使わないように監視するための塔である。
魔力は有限であり、大樹ユグドラシルからの恩恵であるから、国の法律によって定められた規則がある。
「・・・・・・う〜ん・・・・」
唸りだすセラ。何かを考えているようだ。
とそこでまた不適な笑みのセラが見え、嫌な予感がするクロノ。
「・・・・・・私を死んだことにする。どうせこのまま見つかっても、極刑は決まっているし、いっそ死んだことにしたほうが都合がいいわ」
不思議がるクロノ。何が都合がいいのだろうか?と考えてしまう。
「クロノ、あんた私の代わりに、魔法学園に入学するのよ。あんたなら顔立ちも女に近いし女装すればどうとでもなるでしょ」
「む・・・・無茶苦茶だよ!セラの変わりに僕が入学ってさすがに無理あるよ!」
「魔力の暴走で亡くなった、セラ・リンド・フラウの遺志をついで入学するという美しい話の流れで誤魔化すのよ」
「それに僕、騎士団に入りたいんだけど。」
「ならその夢は今日で終わりね。大丈夫よ、学園自体も私が入らない分の欠員補充も必要になるだろうから、楽勝でしょ!」
「えーー!そんな今回ばかりは無茶すぎるよ〜・・!それになんでそこまでして学園に入学する必要があるのさ」
もっともな疑問である。セラが死んだ今、学園側に欠員が出たとして、別にそれは放っておけばいいだけの話なのである。
そう考えていると、セラから奇妙な笑い声が聞こえてきた。
「ふふふ・・今の私には無い知識があそこには貯蔵されているからよ。現状の知識で元の体に戻せないのなら、
学園に入学して、そこに貯蔵されている無数の知識で、元に戻る方法を探すのみよ!」
前向きすぎる。もう元に戻らず、このままにしておいたほうが世のためなんじゃないだろうかと、クロノは真剣に考えた。
「それに僕でどうやって学園の試験に受かるのさ?・・・・どう考えても無理だよ」
「そこはあれよ。あんたが試験監の前まで行けば、あとは私がちゃちゃっと魔法でどうにかしてやるわよ」
とまた滅茶苦茶なことを言う・・・・。
結局その無茶な案は何故か上手く成功し、クロノ・セル・ウェイは女として王立魔法学園に入学することとなった。
ただし一匹・・いや一人の小人を連れてだが・・・・。