始まり
開いていただき感謝
青年は森の中を走っていた。
その走りは決して速いとは言えないまでも、彼の現状を鑑みればそれは全速力といっても良い速度であった。
燃える様な鮮烈な紅い髪は煤で見る影も無く。
精悍な顔には所々に切り傷や擦り傷が目立ち、先月新調したばかりの防具は所々に皹が入っていた。
「…………くっ」
漏れそうになる嗚咽を噛み殺し、意地となけなしのプライドだけで足を前へ運ぶ。
まだ昼過ぎだというのに森の中は薄暗く、青年が踏みしめる落ち葉の音だけが不気味に響く。
「うわっ――!?」
青年は木の根に躓き、どうにかバランスをとろうと一歩踏み出すが、抱えていたものと共に地面へとその身を投げ出した。
「う――っ。くぅ――――」
受身も取れずに盛大に投げ出した肢体は思い出したように痛みを訴え始め、それに堪えながら眼前へと投げ出してしまったモノへと視線を向ける。
そこに横たわっているのは少女であった。
少女の身長よりも長い白銀の髪を地面へと盛大に散らし、その上に横たわる少女の顔は、一流の職人が作り上げた人形の様に歪みが無い。肌は透き通るように白く、投げ出されてしまった時に付いたであろう汚れさえ、その作品の一部であるように違和感を感じさせない。
歳は12、3歳と言ったところだろう。
未発達な体に付けられた首輪や腕輪、足枷が痛々しく、服装でさえ罪人が着るようなボロボロの布である。
発見した時には売れば高くなりそうな人形だと勘違いしたのは、今は懐かしい記憶であるが僅かに上下する胸元が生きた人間であると主張していた。
「クソがああああああああああ!!!」
挫けそうになるココロに活を入れ、少女を抱えなおした青年は再び走り出す。
やはりその走りは決して速いものではなかったが、先程までと比べればその足取りは若干力を込めたものになっていた。
そして青年は走り続ける。
あいつらが作り出した僅かな時間を、一秒でも無駄にしないために。
あの恐怖から、一歩でも遠のく為に。
読んでいただき感謝
次の更新は4月13日(日)です。
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