ピッキングの話
ピッキングの話し
すっきりとした青空と顔を包む暖かな陽気が気持ちいい。
花や草の匂いがわずかに溶け込んだ、やわらかい空気を胸いっぱいに吸い込むと、すっかっと心が広がっていくような気分が心地いい。
「機嫌が良さそうだな」
そりゃあ、こんなに天気が良ければ気分も健やかになる。
「まぁ、雄二が気に入ったなら企画した私とても満足だな」
「おう。結構楽しいな」
ゴールデンウィークにいきなり早苗にメールで「部活をするから明日空けろ」と言われた時はせっかくの休日を潰してくれたら許さないと思ったけど。
自然公園にこんな天気のいい日に来るんなんて、一人じゃやらないだろうし、割と楽しい。
「うん、それは良かった」
早苗も手提げを抱えながら、満足そうにウキウキと歩く。
コイツも案外外出は嫌いじゃないのかもしれない。
「それでだ」
「うん?」
前方にある小高い丘に目をやりながら適当に返事をする。
「これは、いったい何をしていることになると思う?」
……質問の意味が分からない。
「だから私は雄二に、ここに来て弁当を食べたり軽く運動しようと言ったな?」
ああ、ぶっきらぼうなメールだった。
「それは、名称を付けるならば何になるかと言う話だ」
それはまぁ……
「……デート」
「バカ言ってんじゃねーよっ!」
中指を突き立てて反論する早苗。
小学生かよ。
「何が言いたいんだよ? んなもん、ハイキングとかピクニックとか、そんなんだろ」
「そうだ。だから、それがどちらかという話だ」
えー。こんないい天気で、こんな気持ちのいいところで、いつもの部室での言葉遊びなんかしたくないんだけど。
せっかくなんだから、普通に楽しめばいいのに。
「今回の活動目的を見失うなよ」
「ハイキングとピクニックの違いを見つける活動目的だなんて今知ったんだが」
「察しろ」
無茶だろ。
「弁当を食べるのが目的ならピクニックというのを聞いた気がする」
「お前、今日弁当が目的で来ているか?」
いや。特に何も考えないできた。
「ハイキングは大人数ってイメージがあるな」
「何人からだ? 家族四人でピクニック。クラスメート三・四人でハイキング。どっちが正解だ?」
どっちも言いそうだな。
「もう、そこに境界線はないんじゃないか? 本人たちが『はい、今日はピクニックです』と言えばピクニックだし。ハイキングと言えばハイキングになるってことでいいだろ」
ぶっちゃけ、そこまで名前なんか問題にならないからな。
「……ピッキング」
「は?」
「今日私たちがピッキングに来ている! 今日はいいピッキング日和だな雄二」
おっとっと。名前意外と重要だな。
いやー、ゴールデンウィークは部活の仲間とピッキングに行ってきたんだけど天気がいいとピッキングが楽しいよな? 今度一緒に行くか? ……ダメだ、これじゃあ泥棒かストーカーの会話じゃないか。
「ピッキングはやめようぜ」
「雄二、私は今日は弁当を作ってきている。この後是非食べたい。しかし、その他のこともやりたい。フリスビーとか」
なら、ハイキングともピクニック言いきれないな。
「ピッキングという名前にしない場合は……」
ほう、珍しく代案があるんですか?
「私たちは、自然公園にデートしに来ていることになるが」
「まぁ、いいんじゃないのか?」
別に、付き合ってなきゃデートじゃないってわけもないだろうし。
「……雄二、なんだかよく分からないけど自然いっぱいの所で、いい天気だなぁーとか考えながらデートしたって恥ずかしくないか?」
「………………今日、俺たちはピッキングに来ている」