涙
次の日も朝からメールが届いた。
《タクちゃん、おはよう!美咲も今日からまた学校だぁ…でも今週は3日行ったらお休みだから頑張るねー!!それに今週はユニバだしっ!!タクちゃんもお仕事頑張ってね!!世界で1番大好きだよー!!》
美咲からの可愛いメールだった。
《おう。頑張る!美咲もしっかり勉強頑張れよ!!》
久しぶりにメールを返してオレは仕事に行った。
仕事中もメールはたくさん届いた。その中に《今日は本を買いに行ってくるね》と書いてあった。
…オレもそろそろ調べないとな…ふと、ユニバの事が頭に浮かんだ。
明後日また美咲に会うからその時までにチケットを取って新幹線の予約もしようと思った。
夕方になって、今日の仕事はいつもより早めに終わった。また美咲からのメールはいっぱい溜まっていた。
《今ね、本屋だよー!どれにしようか迷うなぁー!!めっちゃ楽しみっ!!早く帰って読みたいなぁー!!
タクちゃん、今日もお仕事お疲れ様でした。いい子いい子。また夜に電話しようね!!》
メールを見ながらオレは家に帰った。
家に着くと風呂に入ってご飯を食べて、ソファーでゴロゴロしながらパソコンをつついた。いろいろ調べているとあっという間に時間がたって、気が付いたらいつも美咲と電話をする時間を過ぎていた。
オレは慌ててケータイを見た。いつもならメールが来てるはずなのに、美咲からのメールは1通も無かった。
…本でも夢中で読んでいるのか?美咲は子どもだからな。…
そう思いながら電話をかけてみた。
…プルル…プルル…プルル…
繋がらない。
…風呂でも入っているのか?…
《おーい。何かあった?電話に出ないから心配なんだけど。時間が空いてら連絡してな。》
オレはメールを送ってみた。
しかし、しばらくしても美咲からは何の連絡もなかった。
…寝てるのかなぁ…
オレがパソコンに夢中になっていたせいだと思った。
何度か電話を掛けてみたが繋がらず、結局美咲からの連絡も来なかった。
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朝になったが、美咲からの連絡が無かったことが気になってあまり寝れなかった。
オレはいつものように仕事の支度をして、家を出た。
職場に着いて車の中で美咲からのメールを待ったが来なかった。時間ギリギリまでケータイを見ていたけど、ケータイがピンクに光ることはなかった。
…やっぱり変だ。美咲からメールが来なかった事はない。…
《おはよう!!美咲?何かあった?
仕事行ってくるな!美咲も勉強頑張れよ!》
オレはそう送って仕事に行った。
昼休憩になって、すぐにケータイを手に取った。メールは1通も届いていない。
…メールが来ないって淋しいな。美咲もオレがメール送らないから淋しかったのかな?もしかしてオレに意地悪でもしてるのか?…
いろいろ考えた。
今日の仕事も終わり、結局美咲からの
メールは全くなかった。さすがに心配になってすぐに電話をした。
…プルル…プルル…プルル…
繋がらない。オレは不安になって何度も連絡をした。
…プルル…プルル…
『…はい。』
電話が繋がったかと思うと、男の声がした。
『え…??誰??このケータイは美咲のだよな??』
よく分からないが電話に出たのは美咲じゃない事だけは分かった。
『そうだよ。これは美咲のケータイだよ。』
男が応えた。一瞬、美咲の元カレが出たのかと思ってびっくりした。
『え??誰お前??美咲に代わってくれ。』
『…』
何も応えなかった。
『おい!聞こえてる?ちょっと美咲に変わってくれ。』
オレは少し強い口調で言った。
『姉ちゃんはもう電話に出れない。』
…姉ちゃん??あっ…美咲の弟?…
前に美咲の家族の話しをした時に、弟がいると言っていた事を思い出した。
『え??何で??』
何で弟が電話を取っているのか分からなかった。
しばらく沈黙が続き、電話の向こうで弟が泣いているのが聞こえた。
『姉ちゃんは…
昨日…
交通事故で死んだから…
もう電話に出る事が出来ない…』
オレは理解するのに時間がかかった。
『え??美咲が??交通事故…??』
嘘だろうと思ったが、身体が固まって動かなかった。
『いつ?どこで?』
オレはいろんな事が聞きたかった。
『昨日…本屋に行った帰りだったらしい…詳しい事はまだ聞けてないけど…病気に運ばれた時には…もう…息をしてなかったみたいで…』
弟は泣きながらいろいろ教えてくれた。
…嘘だ…そんな事はない…美咲が死んだ??…
『え…?』
オレの頭の中は真っ白になった。
昨日までワイワイ話しをしていたのに。昨日まであんなに笑顔でいたのに。昨日までいっぱいメール来てたのに。昨日まで…
それ以上何を話したか覚えていない。
電話を切った後も、その場から動けなかった。
どれくらい時間がたったのか分からないが、オレはまだ車の中にいた。
ケータイを手にすると、また美咲からメールが届くんじゃないかって何度もセンターに問い合わせをした。もう二度と来る事はないのに…
オレは初めて美咲からのメールを読み返した。毎日欠かさず送って来たメールは受信フォルダがいっぱいになるほどあった。当たり前だと思っていたメールは、どれも優しくて美咲らしいメールばかりだった。オレを元気にさせてくれたり、笑わせてくれたり、励ましてくれるメールばかりだった。
そしていつも最後に“タクちゃん大好きだよ”って言葉が書かれてあった。
…オレはまだ大好きだよって言ってないのに…美咲にオレの気持ちを伝えてないのに…
そう思うと涙が出て来た。
涙が止まらなかった。
初めて声を出して大泣きをした。
…あれ程楽しみにしてたユニバ、一緒に行くんじゃなかったのかよ…オレ、約束終わったら美咲の事本気で好きになったから告白するつもりだったんだぞ…もう出来ないじゃん…
今の現実と信じたくない気持ちがオレの中で葛藤していた。
オレは今の状況を嘘だと信じ込ませ、
家に向かって車を走らせることにした。でも、それもすぐにその思いは解かれ涙が溢れてきた。
やっと家に着いたが何もする気にもなれず、ただまた美咲から連絡が来るんじゃないかって待っていた。
いつものソファーで、いつものように横になっていたら、またかかってくるんじゃないかって…
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