Battle.0
ここは全生徒が朝・昼・晩の食事を取ったり、チームで会議などをする為に建設された食堂内。
この学園――日本国立武装魔術学園は日本の中心に建てられた学園である。
生徒数は約1000人を超える。その数を納める為にはおよそ普通教育科学校の体育館2つ分の広さは必要。故に広大だ。
そんな数の生徒がいることにより、常に食堂は騒々しいほどの賑いがある。
メニューを選ぶ者達。団体席に座っては雑談するだけの者達。予約の取り合いをする者達。
利用の仕方は様々ではあるが、ここまでは普通教育科の食堂とさほどの変わりはない。
だが、大きな違いはここからだ。……それは生徒達の格好。
黒を基調とし、赤いラインが入った制服一式。左胸には騎士をモチーフとしたエンブレムが付いている。
生徒1人ひとりが制服の上に鉄製の胸当てや鎧。頭には兜。腰には直剣や曲剣。背には弓や斧などを担いだ――あまりにも物騒な姿をしている。
一般人からすると信じられない光景だが。
……これが国立武装魔術学園で学ぶ者達の義務。
『普通じゃない』学園の由来。文字通りの〝武装〟だ。
極めつきは――
「醤油ラーメン一丁あがり! B席の2番の子は手を振りなー」
「おばちゃん、こっちこっち!」
カウンターから大声で呼ぶエプロン姿の婦人。
それに反応し、少し離れた席に座っていた男子生徒が手を振るなりカウンターの方へ向く。
すると――
「あいよ! 落とすんじゃないよ」
婦人はラーメンが入った丼に蓋をして――力いっぱい投げた。
丼は綺麗な放物線を描きながら宙を飛ぶ。
だが、距離が全然足りない。除々に丼は床へと向かっていく。
男子生徒はそれを凝視した後、片手を突き出す。
その瞬間に丼は時が止まったかの様に空中に留まった。
突き出した手を丼に集中させながら、微かだが少年は口を動かす。
周りの音に紛れ、何を発してるのかはわからない。
手をゆっくり引くと、丼もゆっくりその生徒に向かっていった。
――この少年がやってみせた行為は世間でいう『手品』とはまた違う。
これがこの学園のもう1つの『普通じゃない』――
「……はぁ、〝魔術〟って本当に便利だなー」
さきほどまでの光景を見ていた宗哉はテーブルに突っ伏す。
今はメニューが来るのを待っているところだ。
「おいおい、人に飯取らせに行かせといて何寝ようとしてんだよ」
「魔術使いてえと願いながら伏せてただけだ」
両手に盆を持って話かけて来る少年。宗哉は彼を悪友と称し、彼は宗哉を親友と呼ぶ。
彼の名は双葉龍貴。
見ているこちらの目が疲れるほどの金色でカールがかった髪が良く目立つ。
ちなみに髪型や髪染め、生徒の姿などにこれといった規制はない。
「浮遊が出来たって別に良い事ねえぞ? 無駄に集中力いるし。ほらよ」
片方の盆を宗哉の前に置き、腰に提げた2本の刀をテーブルの横に掛け、席に座る。
宗哉は身を起こし、盆に乗ってる物を見た途端に目を輝かせた。
「おっ、大好物のからあげが入ったB定食じゃんか! お前、これどうしたんだよ。Dクラスの俺達には豪勢過ぎるぞ」
「ふっ、こういう事もあろうかとな、色々コネ使ってきたんだよ。食堂のおばちゃんとはもう仲良しさ」
歯と親指をどうだとばかりに輝かせて見せ付ける龍貴。
宗哉には眩しいぐらいのナイスガイに見えた……気がした。
――武装魔術学園では、生徒1人ひとりの強さや魔術をどれほど上手く操れるかでAかDまでのクラス分けをしている。……少々、授業態度や意欲も条件に入っているそうだが。
Aが最も強く・優秀の分類で、Dはその逆。全てが最低だ。
『強さこそ全て』がこの学園の校訓。
それに遵い、優劣による差別がある。……Dクラスは卵焼きと味噌汁に白いご飯が出れば良い方。
そして、今目の前にあるB定食は名の通り、Bクラス以上の者しか食せないメニュー。からあげやサラダにパスタ等などが入っている。
……Dクラスの宗哉にとっては十分過ぎるほどに豪勢だ。
(ああ、こんなメニュー何年ぶりだろうか! 生きてて良かったぜ)
「やっぱ、持つべきものは親友だよなー」
宗哉は心の中で感激した後、箸を持つ。
さりげなく龍貴が悪友から親友にランクアップした。
「よせやい、今更。……ところで、よくこんな良い席取れたな」
2人が座っている所は、A席の団体用。あと3人分の空席がある。
普段溢れかえるほどの生徒がいる中、こんなに空いてる席はそうはない。
……それに、周りには誰も近付こうとしない。この席を囲む様に円状の空白が出来ている。
「オレ達、誰も近付かないほど有名になったのか。悲しいな」
「いやーたぶん違うとは言い難いが……そこ、見てみ」
ため息を零す龍貴に宗哉は箸で指し示す。
その先には――『チーム英雄の雄叫び《ヒーローズ・ロァ》が予約中』と書かれた1枚のプレートが置いてあった。
それを見た龍貴は心底から長いため息を吐く。
――この席に座った事が、この学園に衝撃を与える……ほんの序章だとは、誰も思いはしなかっただろう。