第3話 ハジメテだらけ 前編
「さぁ、全員揃ったしそろそろ良い時間ね・・・。」
鈴原先生が黒板の上にある無駄に豪華な時計を見上げた。
「”良い時間”ってなんですかぁ??せんせー」
桜が手を挙げてダルそうに言うと
「良い時間って・・・これから入学式よ??まさか春咲さん、忘れてた?」
鈴原先生が何かニヤニヤしながら桜に尋ねた。
「・・・ぅ・・・。」
先生の予想は当たっていた。桜は天然&物忘れが激しい性格だ。
まるで若干年老いたおばぁちゃんみたいだ。
だがいつも男子は「可愛いから許す」と軽く言って少しでも桜に気に入ってもらおうと地味にアピールしたりしている。
「じゃあ出席番号順に名前を言っていくからそれに従って並んでいってね」
そう言って先生が出席簿をペラペラとめくり、
「えっと・・・最初は赤井さん・・・・」
と順に言っていく。
「・・・・で次は春咲さん、でその後ろが冬里さん」
桜の後ろに雪が行く。
そして最後まで言い切ると
「・・・では体育館に行きましょう。みんな、私に着いて来て~」
ぞろぞろとみんなが階段を降りていって、少し歩いて寮のすぐ隣にある体育館に着いた。
(・・・なんか、中学の時の卒業式より緊張してきたよぉ・・・)
桜はだんだん自分の心臓の鼓動がはやくなってくるのが分かった。
「次は音楽科、2組の新入生の入場です」
司会の人が落ち着いた感じで言う。
「じゃ行くわよ」
先生を先頭にみんなが体育館の中に入っていく。
(やっやばぃ・・・!!!次私だぁ・・・)
桜はゆっくり、スゥーーと息を吸って真剣な表情で歩き出す。
桜が入った瞬間、左右には保護者が沢山座っている。
思わず桜は顔がかぁっと熱くなった。
(うぅ・・・はっ恥ずかしい・・・)
みんなは指定された席に座る。
桜の隣には雪が、後ろには春亮がいた。
「国歌斉唱。みなさまご起立ください。」
今座ったばっかりなのに・・・とみんな思いながらも起立する。
「きーみーがーぁーよーぉーはー・・・」
さすが、音楽科の生徒達の辺りが一番歌声が綺麗に大きく聞こえる。
「むーぅーーすーぅーーまぁーぁぁでぇー・・・みなさまご着席ください。」
ぞろぞろと全員が座る。
「つづいては学校長のお話です。生徒たちは姿勢を正して、礼」
ここから校長の長ーーーーい話が始まった。
やっぱりどこの学校の校長も話は長いだろう。
桜は話を真剣に聞いているフリをして寝かけていた。
でも不意に後ろから桜の耳元に
「校長、話長いよなぁ・・・聞いてるだけで疲れてくる。」
ヒソヒソっと耳元に囁いてきたのは春亮だった。
そのくすぐったさのあまり桜は思いっきり目が覚めた。
そして桜は小さく頷いた。
「だよなぁー」
春亮がニッと笑った。
数時間後....
「あぁーーーー疲れたぁ!!!ホント、校長話長すぎるよぉー」
桜は海、楓、雪、そして春亮と共に寮の廊下を歩いていた。
そして四つ角の付近にきてからみんなは
「うち、こっちだから。じゃっまた夕飯の時にね。」
「あっ私もこっちだから!じゃまた後で。行こっ!海」
海と楓は右に曲がって
「私はこっちなの。また夕飯に。」
雪は左に曲がって
「・・・お前はどっちだ?」
「ん?真っ直ぐ。」
「俺と一緒か。」
と言ってスタスタと歩き始めた。
「え!?あっ ちょっ待って!!」
桜が春亮のあとを追った。
それから少し、沈黙が続いて・・・
「はっ春咲はどこ中だったんだ??」
桜はぼーっとしていて気づかなかった。
「おい、・・・おい!!」
少し大きめの声で春亮が言うと桜ははっと気づいて
「えっあっ・・・私は南冥星中だよ。」
「ってことは・・・夏原たちもか?」
「うん」
桜が言うとまた沈黙が続いた。
そして少し歩いたあと桜の部屋前で止まった。
「私、ここの部屋だから。じゃあね」
桜が扉を開けようとすると
「あっ待って」
春亮が桜の腕を掴む。
「えっ・・・なっなに!?」
少し微笑んで、でもちょっと真剣な顔をして
「俺、隣の部屋だから。・・・じゃまた夕飯で」
春亮がゆっくりやさしく腕を放す。
「あっごめん。急に腕掴んだりして。」
申し訳なさそうに春亮が謝った。
桜は少し戸惑ったが笑顔で
「いいよ。また夕飯で。」
桜は鍵を開けて部屋へ入っていった。
「・・・・・・・。」
春亮は少し顔が赤くなりながら桜の部屋の前につっ立っていた。
一方、桜も部屋に入ったドアの前でつっ立っていた。
「・・・・・・・・・・。」
(・・・何?この微妙な気持ちは・・・嬉しいのか・・・嫌なのか・・・)
桜は相当な・・・アホですね。
まぁ私も桜と同じくらいアホですけどね。
後半に続く...