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灰森の巣竜  作者: AI太郎
ダンジョン誕生
37/46

合流

交易都市オルカは、まだ生きている。


港には船が停泊し、街道には避難民の列が続く。だが空気は重い。灰森の方角を向く視線が増え、鐘は一日に何度も鳴る。


城門が開く。


少数の一団が入城する。武装は軽い。旗も掲げない。先頭を歩くのは、小柄な人物。銀灰の髪が風に揺れ、白い顔立ちはどこか儚い。鎧も重装ではなく、簡素な軽装。武器は持たない。兵が囁く。


「……あれが将軍?」


「子どもじゃないのか」


「拳で戦うって噂は聞いたが……」


騎士団が壊滅したばかりだ。兵の神経は張り詰めている。希望を求める反面、疑いも強い。その視線を意に介さず、エリスは城館へ向かう。謁見の間に、鎧を纏うセルガルドが立っている。幾分かやつれているが目は死んでいない。


二人の視線が交わる。


「久しいな、海割り」


セルガルドが口角を上げる。


「王都以来だな、灰森の盾」


エリスの声音は静かだ。


形式ばった挨拶はない。互いを知っている。


王都での大戦。北方蛮族討伐。港湾防衛戦。名を並べれば、どちらも英雄だ。だが今は、戦況が違う。


「騎士団は?」


「壊滅だ」


セルガルドは隠さない。


「ルーカス以下、帰還せず。杭も奪われた」


エリスの瞳がわずかに細まる。


「ダンジョンか」


「その通りだ」


背後で杖の音が鳴る。


イグレインが進み出る。


「お久しぶりです、エリス将軍」


「老いたな」


「あなたは変わりませんね」


兵が再びざわめく。イグレインは振り返り、静かに告げる。


「彼と私は同年だ。齢70を越えている」


場が凍る。


「海砕流の継承者。南海の海獣討伐三十七件。王都防衛戦にて単身で魔導巨兵を破壊。北方の氷狼王を拳で沈めた人物だ」


兵の喉が鳴る。


エリスは表情を変えない。


「戦歴は不要だ」


セルガルドが笑う。


「相変わらずだな」


空気が少しだけ和らぐ。

だがすぐに戻る。


「将軍」


セルガルドが地図を広げる。


「奴は竜の姿を取る。中層までは共生種の連動。深層に核がある」


エリスは一瞥するだけで理解する。


「私は竜を止める。」


セルガルドの目が鋭くなる。


「竜は強い。質量も力も、海獣とは比べ物にならん」


エリスはうなずく。


「だが、砕けぬ道理はない」


その声は静かだが、確信がある。


カイが一歩前へ出る。


「核は私が引き受けます。深層へは少数で」


セルガルドが首を振る。


「オルカの精鋭も同行する。私も出る」


場がざわめく。


「領主が前線に出るなど——」


「灰森は我が領だ」


セルガルドは断言する。


「逃げる理由はない」


イグレインが静かに補足する。


「私も同行します」


エリスがわずかに視線を向ける。


「老体で大丈夫か」


「まだ、魔力は枯れておりません」


視線が交差する。


この場にいる全員が理解している。


帰還は保証されない。


エリスが短く告げる。


「明朝、侵攻」


兵の背筋が伸びる。


少女のような姿の将軍が、静かに歩み出る。


その背を見ながら、兵はもう疑わない。


海割り。


拳で海を砕く男。


灰森へ向かう潮が、港町オルカから立ち上がる。

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