観測者達
灰森の上空に、月は出ていなかった。
それでも星はある。夜は黒く、深く、静まり返っている。
その静寂の外側で、観測は行われていた。
――酉。
それは塔ではない。巣でもない。山でもない。だが高みに在る。無数の光点が周囲を巡り、線となり、円となり、やがて幾何学を描く。
白い羽のようなものが宙に浮く。だがそれは羽ではない。光を分解する構造体だ。
「外縁、収束。陣地、消失。竜認識、拡散中」
声音は中性的。温度は低い。
酉は干渉しない。観測する。
「地核種、変異段階二。核安定。未成熟」
視線がわずかに動く。灰森の奥、ダンジョンの中心へ。
「面白い」
その言葉は感情ではない。評価だ。
――子。
暗い場所で、笑い声が小さく弾ける。
「やっぱり動いたね」
小柄な影が、盤面のような空間に駒を並べている。駒は人。駒は魔物。駒は杭。
「杭を揺らして、外へ逃がして、戻して、吸う」
笑う。
「ちゃんと“学んでる”」
子は干渉しない。ただ楽しむ。
「でもさ」
駒の一つに、王冠を乗せる。
「王都が動いたら、どうなる?」
指先が駒を弾く。駒はまだ動かない。
「楽しみだね」
――辰。
深い場所。
そこは封印でも、牢でもない。ただ、動かないだけだ。
巨大な影が、ゆっくりと呼吸している。鱗は古く、翼は畳まれ、瞼は閉じている。
だが、わずかに開く。
灰森の方角へ。
アメジスト色の光が、ほんの一瞬だけ宿る。
「……似ている」
低い声が、空間を震わせる。
「だが、まだ小さい」
瞼は再び閉じる。
干渉はしない。
観測だけ。
遠い海の向こう、マーレミア王国の王城でも、また別の観測が始まっていた。
だがそれは災冠ではない。
人間の観測。
王都が動く。
そして灰森では、ダンジョンが脈打っている。
世界は広い。
この戦いは、まだ序章にすぎない。




