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灰森の巣竜  作者: AI太郎
ダンジョン誕生
34/35

報告

夜明けとともに、灰森外縁は沈黙していた。


陣地は消えている。土嚢も杭も、見張り台もない。ただ大きく抉れた地面と、焼けた匂いと、消えた兵の痕跡だけが残っている。


偵察に出た騎士が、言葉を失った。


「……ありません」


副官が低く言う。


「何も」


陣地は壊滅ではない。消滅だ。


杭の残骸すら見当たらない。銀線も、先端石も、跡形もなく消えている。地面は不自然なほど均され、踏み固められている。


オルカへ報が届くまで、半日とかからなかった。


領主館は静まり返る。


「ルーカスは」


セルガルドの問いは短い。


副官は視線を落とす。


「確認できません」


「遺体は?」


「……ありません」


沈黙が落ちる。


イグレインがゆっくりと目を閉じる。魔力を探る。地脈は読める。杭の痕跡もわずかに残っている。だが――


「構造が、変わっています」


「どういう意味だ?」


「陣地の真下に大規模空洞。意図的な掘削。崩落誘導。杭は破壊ではなく、奪取された可能性が高い」


セルガルドの眉が動く。


「奪取?」


「はい。固定点ごと、取り込まれた」


書記が震える声で言う。


「十二災冠の記録に……ダンジョンが兵を喰らう、という記述が」


「黙れ...!」


セルガルドは怒鳴らない。だが空気が張り詰める。


「竜の目撃報告が複数上がっています。灰色。巨大。翼持ち」


イグレインは静かに首を振る。


「竜ではありません」


「では何だ」


「地核種の異常進化体。核を持つ構造体です」


その断言に、場が静まる。


「竜の伝承は、辰の災冠に由来します。今回のものは違う。」


セルガルドは窓の外を見る。灰森は変わらず静かだ。


「ならばどうする」


イグレインは答える。


「兵を集め直します。杭の再設計が必要です。単点固定ではなく、分散固定。共鳴を利用するのではなく、遮断する」


「時間は」


「足りません」


それが事実だ。


農村は二つ失われ、騎士団は主力を欠いた。冒険者も消耗している。だが灰森は沈黙している。拡張は目に見えてはいない。


セルガルドは静かに決める。


「防衛を優先する。森へはすぐには踏み込まない。だが放置もしない。情報を集めろ」


「承知しました」


イグレインは一瞬だけ目を細める。


「……あれは、学んでいます」


「何を?」


「こちらの戦術を」


地下では、灰殻騎士が立っている。


崩落した広間の上層、迎撃に適した位置へ自然と移動している。命令を待つわけではない。配置が最適化されている。


核が淡く告げる。


『防衛適性、正常。隊列構築パターン、再現可能』


灰色の巨体がそれを見下ろす。


翼がわずかに動く。


ダンジョンは拡張だけでなく“対人戦”を学んだ。


そして地上では、竜の噂が街を満たす。


「灰森の竜」


その名が広がるたび、恐れもまた広がる。


だがイグレインは一人、違う名で考えている。


「……地核種」


戦は終わっていない。形を変えただけだ。

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