表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰森の巣竜  作者: AI太郎
ダンジョン誕生
33/38

残響の騎士

崩落した陣地の残骸は、すでに素材へ変わりつつあった。


鎧は分解され、鉄は運ばれ、木材は骨縫菌に絡め取られる。影沼粘体が血を吸い、空洞は静かに再整形される。戦の痕跡は、保存ではなく再利用へ回る。


その中央で、ルーカスはまだ息をしていた。


重傷だ。鎖蛇に締められ、穿界蟲の突き上げを受け、骨は折れ、内臓も無事ではない。だが意識は途切れていない。理知は残っている。


灰色の巨体が近づく。


アメジストの眼が、彼を見下ろす。


敵意はない。評価だけがある。


地面がわずかに脈打つ。骨縫菌が、ルーカスの鎧の隙間へ細い糸を伸ばす。白い菌糸が傷口へ入り込む。痛みはある。だが悲鳴を上げる力はもうない。


ダンジョンの深層で、核が静かに告げる。


『高位個体。戦術思考保持。防衛適性、極めて高』


骨縫菌が神経へ触れる。記憶は読み取られない。奪われもしない。ただ、構造だけが抽出される。防衛線の組み方。退路の確保。隊列再編の優先順位。


ルーカスの視界が揺らぐ。

彼は最後に理解する。これは捕食ではない。転用だ。


菌糸が背骨に絡む。骨が軋む。灰色の硬質物が皮膚の下で広がる。鎧と肉の境界が曖昧になり、骨が外へ露出する。目の焦点が失われる。


意識は、消える。


瞳の光が消えた後、再び灯る。


だがそこに理知はない。


立ち上がったそれは、もはやルーカスではない。


全身は半ば骨質に覆われ、鎧は肉と癒着している。肩から背へかけて灰色の骨板が伸び、盾のように広がる。右腕は異様に肥大し、剣を握るためではなく、叩き潰すための形へ変わっている。左腕には鎖が巻き付き、それ自体が武器となる。


瞳は空洞。奥で淡い紫の光が揺れるだけ。


ダンジョンの防衛構造に、新たな中核が加わる。


『名称付与。灰殻騎士』


核の声は静かだ。


灰殻騎士は一歩踏み出す。足取りは重いが安定している。崩落した地面を確認し、自然と高所へ位置取る。防衛に適した場所へ立つ。


それは記憶ではない。適性だ。


マーサの亡骸は、別の用途へ回された。戦術価値が低いわけではない。だが構造化には適さなかった。ただ骨縫菌に包まれ、素材へ還る。


ダンジョンは感傷を持たない。


灰色の巨体がそれを見届ける。アメジストの眼が一瞬だけ灰殻騎士を映す。脅威ではない。戦力だ。


地上では、竜の噂が広がっていた。


だが地下では、竜の影の下に、騎士が立つ。


自我を失い、防衛のためだけに存在する騎士。


ダンジョンは拡張だけでなく、防衛も手に入れた。


そして核は、静かに次を見ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ