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灰森の巣竜  作者: AI太郎
ダンジョン誕生
32/35

ダンジョン戦線

崩落の衝撃が収まるより早く、空洞は再配置を始めていた。


落下した騎士たちが体勢を整える前に、影沼粘体が広間の床を薄く覆う。松明の光が吸われ、視界が鈍る。視界が奪われた瞬間を、鎖蛇は逃さない。地中から滑り出た黒灰色の体が一斉に絡みつき、足首、膝、盾の縁を締め上げる。重装は強い。だが重い。拘束には弱い。


「切り払え!」


ルーカスの声が響く。剣が振るわれ、鎖が断たれる。だが断った瞬間、別の蛇が絡む。複数個体が連動し、一本の太縄のように締め上げる。騎士が膝をつく。そこへ断層蛇が走らせた亀裂が足場を割る。踏み込みの力が抜ける。


地穿蛇が地中を旋回し、最短経路で背後へ回る。突き上げ。盾が弾かれ、列が裂ける。


ルーカスは前へ出る。灰色の巨体へ斬りかかり、棘の隙間を狙う。刃は鱗の縁を抉り、血ではなく灰色の粉を散らす。硬い。だが無敵ではない。


ダンジョンの主は踏み込む。前肢が地を叩き、衝撃が走る。直接当てない。地面を砕く。砕けた床から穿界蟲が飛び出し、転倒した騎士の鎧の隙間へ食い込む。短い悲鳴が闇に沈む。


広間の上層で、骨縫菌が崩れた支柱を縫い直す。天井の落とし節が軋む。賢緑鹿の衝撃波にも耐えた補強は、騎士の斬撃では崩れない。


ルーカスが再び斬り込む。今度は翼を狙う。骨板に刃が走り、火花が散る。硬質な音。だが翼は盾として畳まれ、衝撃を吸収する。その隙に影沼粘体が足元を沈ませる。踏み込みが浅くなる。


「足場を固めろ!」


だが足場は固まらない。影が吸い、蛇が裂き、地が動く。


マーサが背後を守る。槍を振るい、鎖蛇を払い、穿界蟲を踏み砕く。彼女は強い。だが視界が悪い。影沼粘体が光を削り、距離感が狂う。一瞬の遅れで、断層蛇が足元を割る。体勢が崩れる。


ダンジョンの主が翼を大きく広げる。空気が圧縮され、爆ぜる。土嚢の残骸が吹き飛び、騎士の列が乱れる。完全な飛翔ではない。だが浮力は十分だ。巨体が半歩、いや一歩分、空間を支配する。


アメジストの眼が戦場を測る。誰が中核か、どこが崩れやすいか、どの順で壊せば列が解けるか。


鎖蛇が三体同時に伸びる。ルーカスの左腕、右脚、腰を絡め取る。彼は力で引きちぎる。筋力は本物だ。だが引きちぎった瞬間、地穿蛇が背後から突き上げる。バランスが崩れる。


灰色の前肢が振り下ろされる。直撃ではない。地面を叩く。衝撃が円形に走り、円陣が崩れる。


兵が倒れる。鎖が締まる。影が沈む。


それでもルーカスは立つ。剣を拾い、最後の列を再構築する。最後まで指揮を失わない。


だがここは、戦場ではなく、ダンジョンだ。


天井が落ちる。骨縫菌で補強された節が正確に中央へ落下する。防御線が断ち切られる。穿界蟲が左右から突き上げ、鎖蛇が残る兵を引き倒す。


ダンジョンの主が一歩、前へ出る。灰色の巨体が視界を覆う。棘が影を落とす。アメジストの眼が、ルーカスを捉える。


最後の斬撃が翼に当たる。火花が散る。


次の瞬間、前肢が振るわれ、彼の剣が弾かれる。鎖蛇が腕を縛り、地穿蛇が足場を奪う。


戦は終わる。


空洞に残るのは、崩れた陣地と、静かな呼吸だけ。


ダンジョンは勝ったのではない。機能しただけだ。


灰色の巨体がゆっくりと息を吐く。骨の翼が静かに畳まれる。アメジストの眼は、もうこの場を見ていない。


選別の時間だ。

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