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灰森の巣竜  作者: AI太郎
ダンジョン誕生
30/36

苦戦

夜が明けても、灰森外縁は静まらなかった。


第二農村の中央広場で、騎士たちが円陣を敷いている。盾は傷だらけ、槍の穂先は赤く染まり、呼吸は荒い。灰王狼の死体が周囲に転がるが、群れは完全には崩れていない。中心個体がまだ生きている。


「押し返せる!」


若い騎士が叫ぶ。だがその声はかすれる。


副官が冷静に命じる。「前に出るな。列を崩すな」


灰王狼が低く唸る。統率が戻る。突進が再開される。盾が軋む。


一方、街道では賢緑鹿の群れが暴れていた。角から放たれる衝撃が石畳を割り、荷車を横転させる。冒険者の火球が角を焦がすが、完全には止まらない。衝撃波は術者を吹き飛ばし、後方の列が崩れる。


ブラックゴブリンは隙を狙う。彼らは狂暴だが、偶然に賢い。倒れた者を狙い、逃げる者を追う。数は多くないが、削る。


オルカ城壁では見張りが報告を叫ぶ。


「街道封鎖! 補給が滞っています!」


セルガルドは即座に命じる。「南門を閉じるな。避難民を通せ。兵を二手に分ける」


分断だ。


灰森への警戒と、浅域の鎮圧。兵は足りない。


領主館の奥で、イグレインは地図の上に指を滑らせている。封鎖杭の位置、農村の位置、地脈の流れ。彼の額に汗が浮かぶ。


「波形が読めない……」


杭は壊れていない。だが共鳴がわずかに乱れ続けている。外へ逃げた魔力が滞留し、圧をかけている。再調整すれば森側が揺れる。放置すれば浅域が削れる。


「二正面作戦か」


セルガルドが低く言う。


「森を抑えるための杭が、森を避けて浅域を荒らしている。皮肉だな」


イグレインは首を振る。「偶然ではありません」


その言葉は小さい。


「固定点が、読まれている可能性があります」


セルガルドの目が鋭くなる。「ダンジョンが、こちらを?」


「断定はできませんが...」


だが否定もできない。


灰森の地下では、流入した灰王狼のうち三頭が生き残っていた。影沼粘体に適応し、視界を補正し始めている。鎖蛇を振りほどき、断層蛇の亀裂を跳び越える。


『適応率、上昇。処理を提案』


巣の主は翼をわずかに動かす。落とし節が落ち、狼の一頭が潰れる。残る二頭は深部へ誘導される。穿界蟲が足元を突き、体勢を崩す。骨縫菌が死骸に絡む。


賢緑鹿の一頭が広間に侵入する。角から衝撃波が走る。壁が震えるが崩れない。影が濃くなり、鹿の視界が鈍る。鎖蛇が後脚を絡め取る。断層蛇が地を割る。鹿は落ち、穿界蟲が突き上げる。


ブラックゴブリンはもっと早く消えた。ダンジョンに対抗する術がない。


『素材取得、安定。外縁暴走、収束傾向』


核の声は以前より落ち着いている。未熟だが、制御は上がっている。


地上では、戦がようやく均衡へ向かう。灰王狼の中心個体が討たれ、群れが散る。賢緑鹿も数を減らし、衝撃波は弱まる。ブラックゴブリンは刃に倒れる。


だが被害は大きい。


農村二つが壊滅。街道は寸断。騎士は消耗。術者は魔力枯渇。冒険者は半数が負傷。


オルカは持ちこたえた。だが余裕はない。


セルガルドは静かに言う。


「灰森を放置すれば、また起こる」


イグレインはうなずく。


「杭の再調整には時間が必要です。その間、陣地を守らねば」


陣地。


ルーカスの陣。


だが彼らはまだ知らない。


地下では、影が整列を始めている。


影沼粘体が陣地の方向へ薄く伸びる。断層蛇が地盤をなぞる。鎖蛇が地中で輪を描く。


核が小さく明滅する。


『外縁、収束。次段階へ移行可能』


巣の主は翼を大きく広げる。


地面の下で、静かに空洞が広がる。


陣地の真下へと。

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