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灰森の巣竜  作者: AI太郎
ダンジョン誕生
29/37

襲撃

夜明け前、灰森外縁の農村はすでに半壊していた。


柵は内側から引き裂かれ、屋根は角の衝撃で吹き飛んでいる。地面には深い爪痕が刻まれ、血の匂いが霧に混じる。灰王狼の群れは統率されていた。中心に立つ個体が低く唸ると、左右に散開する。逃げ場を塞ぎ、追い立てる。暴走だが、無秩序ではない。


賢緑鹿が角を振るう。衝撃波が納屋の壁を砕き、木片が舞う。ブラックゴブリンはその隙間をすり抜け、刃を振るう。叫び声が重なり、やがて途切れる。


オルカの第二隊が到着する。先頭で馬を止めた騎士が状況を見渡す。副官が叫ぶ。「盾列を作れ! 狼を分断しろ!」


騎士たちは即座に半円陣を敷く。長盾が並び、槍が前へ出る。灰王狼の突進を正面で受け止め、横から槍が刺さる。狼は倒れるが、二頭目、三頭目が来る。群れの統率は崩れない。


賢緑鹿が角を振るう。衝撃波が盾を打ち、列が揺れる。だが崩れない。騎士たちは踏みとどまる。訓練は伊達ではない。


冒険者も合流する。火球が放たれ、ブラックゴブリンが焼かれる。だが数が多い。理性を削られた個体は恐れを知らず、斬られても退かない。


戦は均衡しない。押し戻せるが、止めきれない。


領主館では、報告が重なる。


「第一農村、壊滅。第二は持ちこたえていますが時間の問題かと」


セルガルドは机を叩かない。ただ地図を睨む。


「杭は?」


イグレインは目を閉じ、感覚を探る。


「まだ折れてはいません。固定は続いています。ですが、偏位が解消されない。外へ逃げた魔力が浅域に滞留しています」


「戻せないのか」


「今、無理に戻せば陣地が巻き込まれる」


セルガルドは短く息を吐く。「ならば浅域を叩く。騎士団は動かすな」


その判断も合理的だ。今森へ兵を回せば、杭が無防備になる。だが浅域を放置すれば街道が止まる。


灰森では、流入個体が境界を越え始めていた。


灰王狼の一群が影に足を踏み入れる。足場がわずかに沈む。影沼粘体が光を飲み、狼の視界が鈍る。鎖蛇が地中から絡みつき、前脚を引く。断層蛇が小さな亀裂を走らせ、群れを分断する。


『流入個体、適応率二十七。選別を開始』


巣の主は広間の縁からそれを見ている。翼は動かない。指揮もしない。構造が動く。


賢緑鹿が衝撃波を放つ。天井の落とし節が揺れ、骨縫菌で補強された柱が耐える。二撃目で節が落ち、鹿の背を打つ。倒れた個体に穿界蟲が突き上げ、地面へ引きずり込む。


ブラックゴブリンは奥へ進むが、影に足を取られ、鎖蛇に絡め取られる。断末魔は短い。


すべてが飲み込まれるわけではない。適応できぬ個体は崩れる。骨縫菌が静かに取り込む。


地下で、核が報告する。


『素材取得、増加。外縁暴走は継続。人類側対応、苦戦』


オルカでは、鐘が鳴り続ける。第二農村も炎に包まれる。騎士は持ちこたえるが、消耗は大きい。術者は魔力を削り、冒険者は血を流す。


セルガルドは立ち上がる。


「第三隊を出す。浅域を抑えろ。杭の再調整は?」


イグレインは静かに答える。


「時間をください。波形を読む」


人間は崩れていない。だが押されている。


灰森の地下で、核が小さく明滅する。


『二次波、収束中。次の位相は――』


巣の主は翼をわずかに広げる。


森は、まだ息を吐ききっていない。

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