当て馬こぞりて
灰森の浅域に、十人の盗賊団が足を踏み入れた。王の噂は聞いているが、狙いは別だ。商隊が森を避け始めている。洞穴を押さえれば稼げる。浅域なら問題はない。
先頭を歩く大柄な男が足を止める。剣の構えは安定し、目は静かだ。「火を絶やすな。足元を見ろ」
洞穴の入口は広く削られている。自然に見えなくもない。盗賊たちは迷わず入った。
最初の異変は小さい。通路がわずかに湿っている。先頭の一人が滑り、後続が支える。軽い笑いが漏れる。だが壁がざわめいた。甲殻虫が一斉に落ち、顔や腕にまとわりつく。火が振られ、虫が焦げる。連携は崩れない。
奥へ進むと、水の溜まりがある。浅い。踏み込んだ足が沈み、透明な塊が絡みつく。ディープスライムが水面を揺らす。火が投げ込まれるが、水中で勢いを失う。
「引き上げろ!」
即座に二人が引き、三人が前に出る。刃が水を裂き、粘体を散らす。完全には消えないが、道は開く。
広間に出る。陣形を整えた瞬間、地面が割れた。土を押し破って細長い影が躍り出る。土蛇種。土色の鱗、低い体勢。地中を泳ぐ。
最初の一撃で後衛の一人が引きずられ、叫びが途切れる。だがボスは迷わない。踏み込み、頭部を狙う。刃が深く入り、一匹を仕留める。確かな腕だ。
しかし地面が再び波打つ。別の個体が足元から突き上げる。弓が放たれ、一本が目に刺さる。暴れる土蛇。その隙に天井から粘性の膜が垂れ、火を包む。ロホスライム。灯りが弱まる。
中央の床が沈む。支柱が抜かれ、三人が落ちる。声が曲がり、届きにくい。甲殻虫が再び降る。
広間の縁に、巣の主が姿を現す。低く構え、踏み込まない。状況を読む。
ボスが目を合わせる。「出てきたか」
踏み込む。速い。刃は鱗の隙間を狙い、浅く血を滲ませる。通る。だが一撃で崩せる相手ではない。
足元がわずかに沈む。ディープスライムが薄く広がっている。踏み込みが一瞬遅れる。その遅れに合わせ、爪が肩を裂く。衝撃が膝を打つ。
土蛇が横から噛みつく。ボスは肘で弾くが、次の一匹が脇腹へ入る。血が落ちる。
広間の奥で残った盗賊が叫ぶ。だが通路は曲げられ、声は散る。連携は届かない。
巣の主は半歩だけ詰める。顎が振るわれ、刃が外れる。喉元に影が落ちる。
やがて広間は静まり、火が消える。
土蛇は血を舐め、スライムが足元を覆い、甲殻虫が壁へ戻る。巣は形を保つ。
人間は強い。連携し、狙いを定め、深く通す。だが巣の形がそれを削る。観察は正しかった。
遠くで灰森が鳴る。地下の脈が応じる。




