表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

8筋 魔王軍最高の筋肉を持つ男

魔王軍訓練場。

そこは今や、戦場ではなく筋肉の試練場と化していた。


鉄を担ぎ、地を踏み、汗を流す魔族たち。

魔王軍参謀ボウサンの指示のもと、全軍が筋トレに励んでいる。


その中で、一人だけ異質な存在がいた。


ダービル。

魔王軍最高の筋肉を持つ男。


鎧を脱いだ上半身は、彫刻のよう。

筋肉の一つ一つが、自己主張している。


「……勇者タケスケ・ウチト」


低く唸る声。


「貴様の筋肉が、世界を狂わせたと聞く」



街道。

竹助は、いつものように歩いていた。

神官が、慣れた距離で同行している。


そこへ。


「待て」


地鳴りのような声。


ダービルが、道を塞いだ。


「どちらの筋肉が上か――」

「分からせてやる」


神官が息を呑む。


「せ、戦闘に……?」


「違う」


竹助は、静かに言った。


「筋肉だ」



対決の場は、自然と広場になった。


武器はない。

魔法もない。


あるのは――筋肉。


「来い」


ダービルが、胸を張る。


次の瞬間。


マッフルポージング。


互いに構え、筋肉を最大限に誇示する。


「ハッ!」

「フンッ!」


筋肉が、盛り上がる。



周囲の魔族たちが、なぜか合いの手を入れ始める。


「ナイス上腕!」

「背中が割れてるぞ!」

「キレてる! キレてる!」


誰も止めない。

止められない。


筋肉同士が、会話していた。



「く、やるな!」

「だが、これで最後だ」


ダービル、渾身のモストマスキュラー


ポーズは完璧だった。

見栄え。

迫力。

威圧感。


だが――


竹助は、動かない。


「……?」


そして、ゆっくりと構える。


サイドチェストーーー。


一切の無駄がない。

力は内側で、静かに燃えている。


次の瞬間。


ふわりと、光が溢れた。


聖なる光。

筋肉から滲み出る、純粋な輝き。


「……まぶしい……」


ダービルの表情が、変わる。



光は、破壊しない。

押し潰さない。


ただ――

心を、洗った。


ダービルは、膝をついた。


「……俺には……」

「何が、足りなかったのだ……」


竹助は、静かに答える。


「見てくればかりを気にして」

「インナーマッスルがおろそかだったのさ」


沈黙。


「……なるほど」


ダービルは、笑った。


「勝てないわけだ」



彼は立ち上がり、深く頭を下げる。


「俺は……鍛え直す」

「見せる筋肉ではない」

「支える筋肉を」


竹助は、頷いた。


「それが、真理だ」



ダービルは背を向け、歩き出す。


その背中は――

敗北ではなく、進化への決意を背負っていた。


神官が、小さく呟く。


「……戦闘、ではなかったですね……」


「筋肉は、戦わない」


竹助は言う。


「高め合う」


遠くで、ダービルの声が響いた。


「次に会う時は……」

「呼吸から鍛えておく」


誰も、笑わなかった。


その日、魔王軍は知る。


――筋肉には、序列ではなく深度があると。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ