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6筋 魔王軍幹部ポウセン、筋肉に悟る。

魔王軍前線拠点。

血と鉄の匂いが染みついた広間で、一人の男が笑っていた。


魔王軍幹部・ポウセン。

切り込み隊長。

好戦的にして、実力主義。

これまで数多の街を落とし、上位冒険者をねじ伏せてきた男だ。


「筋肉の勇者だと?」


ポウセンは鼻で笑った。


「噂だけで強者扱いされる奴ほど、叩くと脆い」



街道付近。

魔王軍の先遣隊と、迎え撃つ冒険者たち。


「行くぞ!」


Aランク冒険者の剣が唸る。

魔法が飛ぶ。

連携も完璧だった。


だが――


ポウセンは、正面から踏み込んだ。


「遅い」


一撃。

剣ごと叩き落とす。


二撃。

魔法詠唱を、拳で中断させる。


三撃。

地面に、冒険者が転がった。


「これが現実だ」


ポウセンは、拳を鳴らす。


「筋肉だろうが勇者だろうが――」

「殴り合いなら、俺が上だ」


その時。


「下がれ」


低い声が、戦場を切った。



竹助が、歩いてきた。

神官が、少し後ろで息を呑む。


ポウセンは、即座に察した。


「……お前か」


「いかにも」


竹助は、静かに立つ。


「通りすがりの筋肉だ」



ポウセンは、にやりと笑った。


「いい体だ」

「だが、戦いは筋肉の量じゃない」


「知っている」


竹助は頷く。


「使い方だ」


ポウセンは踏み込んだ。


速い。

重い。

殺意に迷いがない。


だが――


当たらない。


「……?」


目の前にいるはずの竹助が、揺れる。


次の瞬間。


「何人いる……?」



竹助は、反復横飛びをしていた。


常人には追えない速度。

踏み込みと切り返し。

筋肉による、純粋な機動。


残像が、分身のように見える。


「魔法……じゃない……?」


神官が呟く。


「筋肉だ」


即答だった。



ポウセンは歯を食いしばる。


「舐めるな!」


全力の突進。


その瞬間――


竹助が、止まった。


拳を引き、

腰を落とし、

寸止めで突く。



――ズンッ!!!!


拳は、ポウセンに触れていない。


だが。


真後ろの小山が、消えた。


土砂が吹き飛び、岩が砕け、

風圧だけが、遅れて襲う。


ポウセンの頬を、風が裂いた。


「……」


彼は、ゆっくりと振り返る。


そこには――

存在していたはずの地形が、なかった。



拳を下ろした竹助が言う。


「今のは、当てていない」

「プロテインも、足りていない」


ポウセンは、理解した。


勝てない。

理屈ではない。

筋肉の格が違う。


彼は、拳を解いた。



「……魔王様」


静かに、空を仰ぐ。


「申し訳ありません」


そして、はっきりと言った。


「田舎に帰らせていただきます」


神官が、思わず聞き返す。


「……帰る、のですか?」


「ああ」


ポウセンは、妙に晴れやかな顔だった。


「鍛え直す」

「畑を耕し、山を越え、牛を担ぐ」

「まずは、基礎からだ」


竹助は、一度だけ頷いた。


「それでいい」



ポウセンは背を向け、歩き出す。


「次に会う時は……」


立ち止まり、振り返る。


「もう一度、挑んでもいいか?」


「構わん」


竹助は答える。


「筋肉は、逃げない」


ポウセンは、笑った。


その背中は――

敗者ではなく、再出発する者のものだった。


魔王軍は、この日知る。


――勇者は、討ち取る存在ではない。

――進路を、狂わせる存在だと。

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