筋5 山賊討伐 その筋肉、まだ使える
冒険者ギルドに、新たな依頼が貼り出された。
――街道沿いに出没する山賊団の討伐。
――被害多数。説得困難。
――可能であれば、生存者を確保。
掲示板の前で、神官が小さく息を呑む。
「……今度は、人相手です」
「戦闘になる可能性が……」
「問題ない」
竹助は依頼書を見つめ、静かに言った。
「筋肉で、語ればいい」
*
山賊の根城は、岩山に囲まれた砦跡だった。
荒れた焚き火。乱雑な武器。
鍛えられていない身体。
「止まれ! ここは――」
見張りの山賊が叫ぶ前に、竹助は一歩踏み出した。
「その肩」
低い声。
「使い方が、間違っている」
「……は?」
*
山賊たちが武器を構える。
「囲め!」
「殺せ!」
突撃。
だが――
竹助は、殴らなかった。
*
最初の男の剣を、指二本で止める。
次の男の斧を、上腕で受ける。
三人目の突進を、腹筋で受け止める。
「な……何だこいつ……!」
「力の入れ方が、雑だ」
竹助は、山賊の腕を取り、軽く捻る。
「ほら。肘は、こうだ」
ドサッ
山賊が崩れ落ちる。
*
数分後。
地面に座らされ、山賊たちは全員無力化されていた。
誰一人、重傷はいない。
ただ――
全員、息が上がっている。
「はぁ……はぁ……」
「な、何を……した……」
竹助は彼らを見下ろし、静かに言った。
「筋肉が、泣いている」
沈黙。
「お前たちは、力がある」
「だが、使い方を知らない」
山賊の頭目が、震えながら聞く。
「……殺さないのか……?」
「殺す理由がない」
即答。
「鍛え直せばいい」
*
竹助は、地面に石を並べた。
「まず、腕立てだ」
「回数は――」
山賊たちが身構える。
「……出来るところまで」
「……え?」
*
最初は、三回。
次は、五回
10回、20回、30回…。
最後は、誰も動けなくなった。
だが。
「……まだ、動ける……」
頭目が、震える腕で床を押す。
「ほう」
竹助は、初めて少しだけ、満足そうに頷いた。
「その根性は、悪くない」
*
日が暮れる頃。
山賊たちは、焚き火を囲んでいた。
武器は置かれ、代わりに――
「……これが、正しいスクワット……」
「背中……真っ直ぐ……」
「効いてる……効いてるぞ……!」
全員、真剣だった。
神官は、呆然とその光景を見つめる。
「……討伐とは……」
「更生だ」
竹助は言った。
「筋肉は、人を正直にする」
*
翌日。
山賊団は解散した。
代わりに生まれたのは――
街道警備・自主筋肉団。
ギルドへの報告書には、こう記された。
――戦闘なし。
――死者なし。
――筋肉、増量。
ギルドマスターは、報告書を読み、静かに呟いた。
「……討伐の定義を、見直す必要があるな……」
*
別れ際。
元山賊の頭目が、深く頭を下げた。
「……俺たち……生まれて初めて……」
「自分の身体を……信じられました……」
竹助は、背を向けて言った。
「忘れるな」
「筋肉は、裏切らない」
そして、最後に一言。
「プロテインが足りなくなったら……」
「ギルドを通せ」
誰も、笑わなかった。
その日――
最も危険だった山賊団は、最も安全な存在になった。
筋肉によって。




