筋4 ランクで筋肉は測れない
王都冒険者ギルド。
剣と魔法を生業とする者たちが集う、実力主義の殿堂。
掲示板には、整然とランク分けされた依頼書が並んでいる。
Fから始まり、E、D、C、B、A――
そして最上位、S。
そこへ、場違いなほど落ち着いた男が入ってきた。
竹助内人。
その後ろに、神殿の神官が付き従っている。
「え、ええと……こちらが冒険者ギルドです」
「本日は、勇者様をご紹介に……」
受付嬢は書類を見て、首を傾げた。
「勇者様なんですね!
何ランクなんですか?」
神官が口を開こうとした瞬間――
ゴォォォン!!
外が、赤く染まった。
*
「山火事だ!!」
誰かが叫ぶ。
王都近郊の山が燃えている。
強風。延焼。最悪の条件。
「水魔法部隊、出るぞ!」
「風魔法で延焼を止めろ!」
「Bランク以上、現地へ!」
冒険者たちは即座に動いた。
統率の取れた、プロの動き。
神官は青ざめる。
「ゆ、勇者様……これは……!」
「問題ない」
竹助は外へ出た。
*
現地。
炎は獣のように山肌を舐め、黒煙が空を覆っている。
水魔法が飛ぶ。
蒸気が上がる。
だが、火勢は衰えない。
「くそ……魔力が足りない!」
「まだ奥が……!」
その時。
竹助が、前に出た。
「……?」
冒険者たちが一斉に見る。
「下がれ」
低く、静かな声。
「風向きは、理解した」
竹助は、足を踏み込む。
腰を落とし、背筋を伸ばす。
正拳突き。
ただ、それだけだった。
*
――ドンッ!!!!
音が、遅れて来た。
拳から放たれたのは、熱を押し潰す拳圧。
空気そのものが叩きつけられ、炎を真正面から殴り飛ばす。
火が――消えた。
一瞬で。
燃焼に必要な酸素が、根こそぎ吹き飛ばされたのだ。
「……え?」
「……今の……何だ?」
残ったのは、静寂と、焦げた地面だけ。
竹助は拳を下ろす。
「鎮火完了。
やはり筋肉こそ至高」
*
誰も動けなかった。
やがて、神官が震える声で言った。
「ゆ、勇者様……」
「今のは……魔法、ですか……?」
「違う」
即答。
「筋肉だ」
冒険者たちの価値観が、音を立てて崩れた。
*
ギルドに戻る。
報告を受けたギルドマスターは、深刻な顔で腕を組んでいた。
「……状況は理解した」
「勇者殿の実力は……規格外だ」
「では、ランクは?」
受付嬢が問う。
沈黙。
ギルドマスターは、ゆっくりと首を振った。
「……付けられん」
「Sランク、以上では?」
「違う」
彼は、重く言った。
「……筋肉だ」
ざわめき。
「この男は、依頼を受ける側ではない」
「依頼そのものを消す存在だ」
神官は小さく呟いた。
「……神殿でも、同じ結論でした……」
*
ギルドマスターは、竹助を見て頭を下げた。
「勇者タケスケ・ウチト殿」
「当ギルドでは、貴方を――」
一瞬、言葉を探し。
「**特別ランク筋肉**として登録します」
「構わん」
竹助は頷いた。
「必要とあらば、呼べ」
神官が小声で聞く。
「……報酬は、どうされますか?」
竹助は、真顔で答えた。
「プロテイン」
その場にいた全員が、真剣に頷いた。
誰も、笑わなかった。
こうして冒険者ギルドは知る。
――この世界において、
――ランク制度は、筋肉の前では無力であると。
掲示板の最上段。
Sランク依頼のさらに上に、新たな札が貼られた。
《対応不可:筋肉案件》




