番外編 農業ギルド 「筋肉野菜の扱いを巡る会議」
王都・農業ギルド本部。
石造りの重厚な会議室には、王国中から集められた農業関係者が着席していた。
農業ギルド長。
穀物管理官。
市場監査官。
料理人代表。
家畜飼育主任。
全員、表情は硬い。
机の中央には、白布をかけられた“何か”が置かれていた。
ギルド長が咳払いをする。
「……本日の議題は一つ」
「“筋肉野菜”の取り扱いについてだ」
布が外される。
そこにあったのは――
仁王立ちの大根だった。
*
「まず、現状報告を」
市場監査官が立ち上がる。
「王都市場に流通した筋肉野菜ですが……問題が多発しています」
「包丁が通らない」
「煮ても柔らかくならない」
「切断面が異常に美しい」
料理人代表が深刻な顔で頷く。
「下処理に三倍の時間がかかります」
「スープにすると、妙にコクが出るのですが……」
「鍋の中で、野菜が沈まない」
会議室がざわついた。
*
次に家畜飼育主任。
「家畜の飼料として与えたところ……」
「牛が、翌日から肩回りが発達しました」
「……何ですと?」
「鶏が、羽ばたく前に屈伸をします」
「豚が、柵を押してきます」
沈黙。
ギルド長が額を押さえた。
「……農業の範疇を超えている……」
*
穀物管理官が慎重に発言する。
「しかし、収穫量と栄養価は、従来品の数倍です」
「少量で腹持ちがよく、満腹感が異常に長い」
「問題は……」
市場監査官が続ける。
「食後、無意識に背筋が伸びるという苦情が……」
全員、黙って頷いた。
誰も笑わない。
*
ギルド長は深く息を吸い、結論を出す。
「よろしい」
「筋肉野菜は――」
全員が固唾を呑む。
「特殊作物『強健系農産物』として分類する」
「用途は限定」
「流通量は管理」
「調理には、専用器具を開発する」
「……では、勇者タケスケ・ウチト殿には?」
ギルド長は、遠い目をした。
「……畑仕事の際は……」
「加減をお願いする」
*
会議終了後。
議事録の最後には、こう記された。
――筋肉野菜は、確かに優れている。
――だが、農業は筋肉だけで成り立つものではない。
――今のところは。
その日、農業ギルドは新たな教訓を得た。
「筋肉は、作物にも伝播する」
誰も、異議を唱えなかった。




