27筋 筋肉は裏切らない
最終衝突・臨界**
次の一撃は、
音を置き去りにした。
*
――ドン。
*
拳が触れた瞬間、
衝撃は爆発しなかった。
*
拡散した。
*
衝撃波は、
波紋のように世界を走り、
触れた場所すべてに
“理解”を残していく。
*
「……あ」
*
王都の一角で、
酒場の主人が呟く。
*
「……この配置……」 「……無駄が多い……」
*
机がどかされ、
椅子が並べ直される。
*
壁には、
即席の看板。
*
【王都第一筋力鍛錬所】
*
――ジムが、誕生した。
*
誰が指示したわけでもない。
誰が設計したわけでもない。
*
それなのに。
*
「胸の日と背中の日、分けよう」
*
「脚は……」 「……逃げるな」
*
自然と、
メニューが組まれる。
*
――辺境の村。
*
畑の横で、
農夫たちが集まる。
*
「耕す前に、
まずスクワットだ」
*
「腰、落とせ」
*
「可動域、全部使え」
*
鍬の代わりに、
自重トレーニング。
*
作物は、
育つ前から、
たくましくなった。
*
――学園都市。
*
魔法学の講義が、
中断される。
*
教授が、
黒板に書く。
*
【魔力効率=姿勢×筋発火】
*
学生たちは、
詠唱前に、
フォームチェックを始める。
*
「その詠唱、
体幹抜けてる」
*
「魔法、
腰で撃て」
*
――戦場。
*
魔王オーマと竹助。
*
五撃目。
*
――ドン。
*
この衝撃で、
全世界のフォームが、揃った。
*
腕立て伏せは、
深く。
*
スクワットは、
膝が前に出ない。
*
懸垂は、
反動禁止。
*
誰も教えていないのに、
誰も間違えない。
*
参謀ボウサンは、
膝をつく。
*
「……文明が……」
*
「……筋肉基準で……」 「……再構築されている……」
*
魔王オーマは、
息を吐く。
*
「……竹助……」
*
「……これは……」 「……戦いか?」
*
竹助は、
拳を下ろし、
静かに答える。
*
「……いいや」
*
「……共有だ」
*
六撃目。
*
――ドォン!!
*
世界中で、
掛け声が揃う。
*
「――ワン」
*
「――ツー」
*
「――スリー」
*
それはもう、
合いの手ではない。
*
文明の拍動だ。
*
魔王の、
超筋肉が、
震える。
*
限界ではない。
*
――完成してしまった。
*
魔王オーマは、
悟る。
*
「……なるほど……」
*
「……勝ち負けでは……」 「……なかったか……」
*
竹助は、
一歩、
前に出る。
*
最後の一撃。
*
――拳ではない。
*
手を、差し出す。
*
魔王オーマは、
その手を見る。
*
攻撃ではない。
防御でもない。
*
握手だ。
*
一瞬、
迷う。
*
だが――
笑う。
*
「……いい筋肉だ……」
*
「……お前もな……」
*
二人の手が、
重なる。
*
――ドン。
*
音は、
小さい。
*
だが、
結果は――
最大だった。
*
衝撃は、
外へではなく、
内へ向かって広がる。
*
そして――
*
バンッ!!
*
一斉に。
*
冒険者の鎧が、
弾け飛ぶ。
*
神官の法衣が、
消し飛ぶ。
*
トロールの装備が、
木っ端微塵になる。
*
元盗賊の服が、
なぜか一番派手に飛ぶ。
*
魔王軍の魔族も、
人間も、
全員――
*
全裸。
*
静寂。
*
風が、
吹き抜ける。
*
誰かが、
ぽつりと呟く。
*
「……あ」
*
「……やっぱり……」 「……こうなるよな……」
*
笑いが、
起こる。
*
最初は、
小さく。
*
やがて、
大きく。
*
世界中で、
笑いが起きる。
*
なぜなら。
*
誰も、
恥じていなかった。
*
筋肉が、
あったからだ。
*
魔王オーマは、
深く、
頭を下げる。
*
「……竹助……」
*
「……私は……」 「……負けた……」
*
竹助は、
首を振る。
*
「……いいや」
*
「……分かち合っただけだ」
*
二人は、
並んで、
空を見上げる。
*
筋肉で包まれた世界。
*
だが――
筋肉が、
支配していない世界。
*
人々は、
それぞれの場所で、
それぞれの筋肉を、
鍛え始める。
*
魔王と竹助も、
並んで、
スクワットを始めた。
*
「……次は……」 「……どこを……」
*
「……脚だな」
*
「……同意だ」
*
こうして。
*
筋肉は、
世界を救った。
*
だが、
君臨しなかった。
*
――筋肉は、
裏切らない。
*
竹助内人の筋肉の旅は、
まだ、続く。




