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筋3 荒れた畑に筋肉を

勇者に与えられた、最初の任務。

それは、あまりにも平凡だった。


「荒れた畑を……耕していただきたいのです」


依頼主は、神殿近郊の農夫だった。

魔物被害と日照りにより、畑は固く、ひび割れ、鋤も入らない状態になっている。


神官は、慎重に言葉を選びながら竹助を見た。


「……戦闘ではありません。力加減が重要な作業です」

「畑は……壊しては、いけません」


「理解している」


竹助は静かに頷いた。


「筋肉は、繊細だ」


農夫は少し安心した。



現地。

畑は確かに荒れていた。

土は固く、踏めば砂埃が舞う。


「ここを……耕していただければ……」


農夫が恐る恐る言う。


竹助は、畑の端に立った。

靴を脱ぎ、地面に足を下ろす。


「……準備運動は必要か?」


「え?」


次の瞬間。


タン、タン、タン、タン――!!


竹助は、畑の上で反復横飛びを始めた。


「え?」


農夫の声は、そこで途切れた。



竹助の足が着地するたび、

ドンッ、ドンッと低い衝撃音が響く。


だが、土は砕けない。

潰れない。

むしろ――


「……柔らかく、なっている?」


神官が呟く。


踏み込む角度。

反発を殺す着地。

筋肉による、精密な衝撃制御。


竹助の反復横飛びは、耕作そのものだった。


畑全体が均一に揺れ、

固く締まっていた土は、空気を含み、ふかふかに変わっていく。


「ば、馬鹿な……鋤より均一だ……」


農夫は震えていた。



数分後。

竹助は止まり、息一つ乱していない。


「終わった」


畑は、見事に耕されていた。

理想的な土壌。

水はけも、通気性も完璧。


「……す、すごい……!」


農夫は感動に目を潤ませ、急いで種袋を持ってくる。


「で、では……種を……」


農夫が畑に種を撒く。


その瞬間。


ズズズ……


土が、わずかに脈打った。


「……?」


芽が、出た。


早すぎる。


「ちょ、ちょっと待って……」


芽は茎になり、

葉が広がり、

一気に成長を始めた。


「えええ!?」



野菜が育つ。

だが――様子がおかしい。


大根は、腹筋のような筋が浮き出ている。

人参は、明らかに力こぶを作っている。

キャベツは、葉が重なり合い、大胸筋の隆起のようだ。


「……筋肉に、呼応している……?」


神官が呆然と呟く。


竹助は腕を組み、頷いた。


「種も、鍛えられたようだな」


最後に収穫されたカボチャは――

堂々とマッチョポーズを取っていた。


「グッ……」


見えないはずの力こぶが、確かに主張している。


農夫は、野菜を手に取り、しばらく沈黙した後、正直に言った。


「……すごいけど……」


全員が息を呑む。


「……使いづらいなぁ……」



切ろうとすると、包丁が弾かれる。

煮込もうとすると、煮崩れない。

何より、野菜がやたら自己主張してくる。


「俺は……食材だ……」

「調理前のストレッチは済んでいる……」


誰も、笑わなかった。


ただ、困惑していた。



竹助は畑を見渡し、静かに言った。


「過剰だったか」


「い、いえ! 収穫量は過去最高です!」


農夫は慌てて首を振る。


「ただ……次は……もう少し、自然な感じで……」


「理解した」


竹助は深く頷く。


「筋肉は、時に加減が必要だ」


彼は空を仰ぐ。


「プロテインが多すぎたのは……畑の方だったな」


その日、村は史上最大の豊作を迎えた。

同時に――


“筋肉作物”という、新たな農業問題が生まれた。

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