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24筋 筋肉の鼓動

合いの手、ひとつになる**

最初は、

バラバラだった。

声も、

リズムも、

意図も。

「あと1回だー!!」

「呼吸!!呼吸!!」

「肩、上がってるぞー!!」

誰もが好き勝手に叫び、

好き勝手に動き、

好き勝手に筋肉を信じていた。

だが――

次第に、

“ズレ”が消えていく。

不思議なことだった。

誰が合図を出したわけでもない。

誰が指揮を執ったわけでもない。

それなのに。

――間が、揃い始めた。

「……せーの」

誰かが、

そう言った。

だが、

それが誰だったのか、

誰も覚えていない。

「……ワン」

「……ツー」

「……スリー」

声が、

重なる。

音が、

重なる。

心拍が、

重なる。

冒険者の呼吸と、

神官の祈りと、

トロールの咆哮と、

元盗賊の掛け声が――

同じリズムで、震え始めた。

ドン。

ドン。

ドン。

それは、

足踏みでもなく、

太鼓でもない。

――筋肉の鼓動だった。

魔王オーマは、

その中心を見つめていた。

(……違う)

(これは、

士気でも、

信仰でもない)

(……もっと原始的で……)

(……もっと、合理的だ)

オーマの視界が、

歪む。

空気が、

粘度を持ち始める。

魔力でもない。

闘気でもない。

筋肉の圧だ。

「……ありえない……」

参謀ボウサンが、

震える声で呟く。

「個体が……」 「集団になって……」

「いや……」 「集団が……」

「ひとつの筋肉になっている……?」

その時。

誰もが、思った。

(……もう……) (余計なこと、言わなくていいな)

次の瞬間。

合いの手は――

一言になる。

「――張れ」

それだけ。

説明はない。

理屈もない。

だが、

全員が理解した。

「――張れ」

胸を。

背を。

脚を。

魂を。

「――張れ」

声が、

一つの線になる。

「――張れ」

世界が、

引き絞られる。

遠くの海で、

波が止まる。

山の獣が、

動きを止める。

風が、

息を潜める。

そして――

竹助の筋肉が、

静かに、応えた。

ギチ……。

音は、

小さい。

だが、

確かだった。

皮膚の下で、

何かが――

組み替わる音。

「……あ」

誰かが、

息を呑む。

「……筋肉の……」 「向きが……」

竹助は、

まだ立たない。

だが、

その背中は――

さっきより、広い。

魔王オーマは、

無意識に、

一歩下がっていた。

(……私が……)

(……後退した?)

信じられなかった。

超筋肉を得た自分が。

世界最強と呼ばれた自分が。

まだ、

攻撃は来ていない。

まだ、

技も出ていない。

それなのに。

――負ける準備を、

世界が始めている。

合いの手は、

もう叫ばない。

囁きでもない。

存在そのものになっていた。

「――張れ」

それは、

命令ではない。

祈りでもない。

事実だった。

竹助の、

指が――

動く。

床に、

しっかりと、

触れる。

筋肉が、

大地を、

掴む。

そして。

竹助は、

ゆっくりと、

顔を上げた。

その目は――

穏やかだった。

怒りはない。

焦りもない。

あるのは――

理解。

「……なるほど」

初めて、

はっきりとした声。

「……そういうことか」

魔王オーマの、

背筋を、

冷たいものが走る。

(……気づいた……)

(……筋肉の……)

(……“使い方”に……)

合いの手は、

もう必要ない。

全員が、

確信していた。

――次は。

竹助が、

“答える番”だ。

だが、

まだ。

まだ、

言葉は出ない。

それは――

次回のために、

取っておく。

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