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23筋 筋肉の向こう側

最初は、

ほんの一言だった。

「……筋肉、切れてない?」

それが、

すべての始まりだった。

戦場は、

静止していた。

魔王オーマは動かない。

冒険者も、神官も、トロールも、元盗賊も。

誰一人、次の一歩を踏み出せずにいた。

倒れているのは、

筋肉勇者――竹助内人。

立っているのは、

超筋肉を得た魔王。

勝敗は、

決したように見えた。

――だが。

「……胸、縮んでない?」

誰かが、

言った。

「呼吸、浅いぞー!」

「血、回せー!!」

「もっと、張れるだろー!!」

ざわ。

ざわざわ。

ざわざわざわ。

声は、

一方向ではなかった。

後方から。

側面から。

空から(なぜか)。

神官が、

杖を握りながら叫ぶ。

「筋肉は!」 「信仰だーー!!」

「大腿四頭筋を!」 「信じろーー!!」

トロールが、

意味も分からず、

だが魂で叫ぶ。

「グォォォォ!!」 (訳:まだいける!!)

元盗賊たちは、

完全にノっていた。

「はい、ラスト3回!!」

「止めるなー!!」

「反動使うなー!!」

「ネガティブを感じろー!!」

冒険者たちも、

気づけば叫んでいる。

「筋肉は裏切らなーい!!」

「関節、守れー!!」

「フォーム、意識ー!!」

――ドン。

誰かが、

その場で

腕立て伏せを始めた。

――ドン、ドン。

次々と。

腹筋。

スクワット。

ランジ。

カーフレイズ。

「な、何を……」

魔王軍の魔族が、

呆然と呟く。

だが、

その隣の魔族が、

静かに言った。

「……分からない」 「でも……」

「今、やらないと」 「筋肉に怒られる気がする」

――ドン。

魔王軍の兵士が、

腕立て伏せを始める。

魔法陣が、

床に浮かぶ。

だが、

唱えられているのは――

「……ワン……」 「……ツー……」

詠唱ではない。

回数だ。

空気が、

揺れる。

大地が、

鼓動する。

筋肉のリズムが、

戦場を支配し始める。

その中心で。

竹助の、

胸が――

大きく、膨らんだ。

「……」

誰かが、

息を呑む。

「……来るぞ」

合いの手が、

ひとつに、

まとまり始める。

「せーの!!」

「筋肉――!!」

「信じろ――!!」

世界が、

それに呼応する。

遠くの村で、

農夫が鍬を止める。

「……なんだ?」 「急に……」

農夫は、

鍬を置き、

腕立て伏せを始めた。

王都で、

貴族が、

会議を中断する。

「……理由は分からん」 「だが……」

「今は、スクワットだ」

学者が、

ペンを落とす。

「理論が……」 「筋肉に……」

「追いつかない……!」

そして、

戦場。

竹助の、

目が――

ゆっくりと、開く。

合いの手が、

爆発する。

「きたああああ!!」

「筋肉、起きたーー!!」

「まだ、足りるぞーー!!」

竹助は、

まだ立たない。

だが、

笑った。

小さく、

だが確かに。

「……」

「……みんな……」

声は、

かすれている。

だが、

届いた。

魔王オーマは、

その光景を、

黙って見ていた。

(……これは……)

(戦い、ではない)

(……儀式だ)

(……筋肉の……)

祭りだ。

そして。

竹助は、

ゆっくりと、

膝を立てる。

まだ、

覚醒はしない。

だが。

誰もが、

理解していた。

――次に来るのは、

“限界”ではない。

――“超越”だ。

合いの手は、

止まらない。

筋肉は、

もう一段階――

先へ行こうとしていた。

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