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22筋 筋肉に失礼だろ

ざわめき――合いの手という名の反撃**

竹助は、

倒れていた。

大地に、

仰向けに。

拳は、

まだ――

握られている。

沈黙。

誰も、

声を出せない。

魔王オーマは、

数歩距離を取り、

その姿を見つめていた。

(……終わらせられなかった)

(倒したはずなのに)

勝者のはずの魔王の胸に、

奇妙な感覚が残る。

――空虚。

その時。

「……あー」

間の抜けた声が、

戦場に落ちた。

全員が、

そちらを見る。

元盗賊の一人だった。

筋トレに目覚め、

今は腹筋の割れを誇りにしている男。

彼は、

頭をかきながら、

言った。

「……竹助さんさ」 「今日、追い込み甘くなかった?」

「……え?」

神官が、

思わず声を漏らす。

冒険者の一人が、

慌てて言う。

「お、おい……」 「今はそういう場面じゃ……」

だが。

元盗賊は、

真顔だった。

「いや」 「これは言っとかないと」

「筋肉に」 「失礼だから」

――ざわ。

別の元盗賊が、

続く。

「確かに」 「いつもより張りが足りない」

「今日は大胸筋の日じゃなかったのか?」

「下半身、置いてきた?」

ざわざわざわ。

冒険者たちが、

困惑する。

「……何を……」

だが、

次の瞬間。

ベテラン冒険者が、

ぽつりと、

言った。

「……筋肉」 「逃げてないか?」

その一言で。

空気が――

変わった。

神官が、

震えながらも、

口を開く。

「……た、確かに……」 「筋の輝きが……」

「……切れていない……?」

誰かが、

言う。

「パンプ感……」 「足りなくないか?」

「血流……」 「もっと回せるだろ……?」

「呼吸が浅いぞー!」

合いの手は、

徐々に、

増えていく。

だが。

それは、

嘲笑ではなかった。

応援だった。

魔王は、

その光景を見て、

眉をひそめる。

(……何を、している?)

(戦場だぞ……?)

だが。

魔王は、

理解してしまう。

(……違う)

(これは……)

(……筋肉の言葉だ)

竹助の胸が、

わずかに、

上下する。

「……」

冒険者の一人が、

叫ぶ。

「ほら!」 「腹圧、抜けてるぞー!!」

「胸、張れー!」

「肩甲骨、寄せろー!」

「笑顔忘れるなー!!」

もはや、

戦場ではない。

筋トレ現場だ。

魔王軍の兵士が、

戸惑いながら、

呟く。

「……なんだ……?」 「この……」

「……懐かしい……?」

別の魔族が、

無意識に、

腕立て伏せを始める。

「……あれ」 「身体が勝手に……」

――ドン。

また一人、

スクワットを始めた。

「……脚が……」 「熱い……」

波及する。

筋肉活動が。

魔王は、

気づく。

(……世界が……)

(……竹助を……) (……支えている……)

その時。

竹助の、

指が――

ぴくりと、動いた。

合いの手が、

一瞬、

止まる。

そして。

誰かが、

小さく、

だが確かな声で言った。

「……ほら」 「筋肉、聞いてるぞ」

竹助の、

口元が――

わずかに、上がる。

まだ、

立たない。

まだ、

覚醒しない。

だが。

世界は、

確実に――

同じリズムで呼吸を始めていた。

筋肉は、

孤独ではない。

それを、

誰もが――

理解し始めていた。

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