21筋 超筋肉の実力
魔王オーマは、
呼吸を整えていた。
深く、
静かに。
だがその胸の奥では、
筋肉が――
咆哮していた。
*
(……行ける)
(今なら)
(――押し切れる)
*
魔王は、
地を蹴る。
*
――ドンッ!!
*
その一歩だけで、
空気が裂ける。
魔力は、
もう感じられない。
魔王オーマは今、
筋肉だけで存在していた。
*
竹助は、
構える。
だが――
*
「……っ」
足が、
わずかに遅れた。
*
魔王の拳が、
竹助の肩に、
直撃する。
*
――ゴォンッ!!
*
竹助の体が、
大きく、
横に吹き飛ぶ。
*
「……ッ!」
地面を転がり、
岩にぶつかる。
*
「勇者ッ!!」
叫びが、
あちこちから上がる。
*
魔王は、
追撃を止めない。
*
「……これが」
魔王は、
走りながら言う。
*
「私の」 「全てを捧げた筋肉だ」
*
次の一撃。
膝。
*
――ドンッ!!
*
竹助の腹部に、
深く、
沈み込む。
*
「……ぐっ」
声が、
漏れる。
*
竹助の体が、
くの字に折れ、
宙に浮く。
*
そのまま――
*
拳。
*
――ズドンッ!!
*
背中から、
叩き落とされる。
*
地面が、
陥没する。
*
冒険者の一人が、
呟く。
「……立てるのか……?」
*
竹助は、
ゆっくりと、
身を起こす。
*
だが。
*
肩が、
下がっている。
呼吸が、
乱れている。
*
「……」
魔王は、
竹助を見下ろす。
*
(……効いている)
(確実に)
*
魔王の拳が、
再び――
振り下ろされる。
*
――ドォンッ!!
*
今度は、
ガードの上から。
*
竹助の腕が、
弾かれる。
*
「……っ」
*
連打。
一発一発が、
聖筋肉を削る。
*
――ドン! ドン! ドン!
*
竹助は、
耐える。
だが。
*
「……!」
膝が、
地に――
触れた。
*
その瞬間。
世界が、
静まり返る。
*
神官が、
震える声で言う。
「……膝を……」
*
元盗賊が、
拳を握る。
「……まだ、倒れてない」 「けど……」
*
魔王は、
拳を止めない。
*
「……立て」
魔王は、
さらに踏み込む。
*
肘。
*
――ガァンッ!!
*
竹助の側頭部を、
掠める。
*
視界が、
一瞬――
白くなる。
*
(……まずい)
(これは……)
*
竹助は、
自覚する。
*
(……ボロボロだ)
*
血が、
口元から流れる。
筋肉が、
悲鳴を上げている。
*
だが。
*
(……それでも)
*
竹助は、
拳を、
握り続ける。
*
魔王は、
息を吐く。
*
「……どうした」 「筋肉の勇者よ」
*
「まだ」 「語り足りないのでは、なかったか」
*
竹助は、
ゆっくりと、
顔を上げる。
*
目は、
まだ――
死んでいない。
*
「……ああ」
*
「語ってるさ」
*
「筋肉が……」 「悲鳴を……」
*
「……上げてる」
*
魔王の目が、
わずかに揺れる。
*
(……限界か?)
*
魔王は、
最後の追撃に入る。
*
拳を、
振り上げる。
*
――ドンッ!!
*
その一撃で。
*
竹助は、
完全に――
倒れた。
*
地面に、
仰向けに倒れ、
動かない。
*
沈黙。
*
冒険者たちの顔が、
青ざめる。
*
神官が、
膝をつく。
「……世界の……終わり……」
*
魔王は、
拳を下ろしたまま、
動かない。
*
(……勝った?)
*
いや。
*
魔王は、
確信できなかった。
*
なぜなら。
*
倒れた竹助の胸が――
まだ、上下している。
*
呼吸が、
続いている。
*
(……終わっていない)
*
魔王は、
ゆっくりと、
歩み寄る。
*
「……立て」
再び、
呟く。
*
その言葉は、
敵に向けたものではない。
*
同じ場所に立つ者へ
向けた――
敬意だった。
*
その時。
*
誰かが、
小さく、
言った。
*
「……筋肉……」 「……切れてるよ……」
*
誰の声かは、
分からない。
*
だが。
*
その一言が、
静まり返った世界に――
小さな、波紋を広げた。
*
まだ、
終わりではない。




