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18筋 世界最強の筋肉、並び立つ

その日。

空が、重かった。

雲が低いわけではない。

雷が鳴っているわけでもない。

ただ――

張り詰めていた。

決戦の地は、

王国と魔王領の境界に広がる、

何もない平原。

かつては戦争のために整地されたが、

今はただの空白。

――世界が、答えを待つ場所。

集まった者たちは、

皆、言葉を失っていた。

冒険者。

神官。

元盗賊。

トロール軍団。

魔王軍。

敵も味方もなく、

ただ立会人として。

その中央に。

二つの存在が、

ゆっくりと歩み寄る。

一人は――

竹助内人。

普段と何も変わらない。

軽く肩を回し、

首を鳴らし、

足踏み。

「……今日は」 「湿度、高いな」

神官が、震えながら呟く。

「そんな話をする場面では……」

もう一人は――

魔王オーマ。

マントも、

王冠も、

装飾魔具もない。

あるのは――

鍛え抜かれた肉体。

魔力の波動すら、

意図的に抑え込んでいる。

二人が、

止まる。

距離、十歩。

その瞬間。

――ズン

大地が、沈んだ。

誰かが、息を呑む。

(……並んだ)

冒険者の一人が、思う。

(体格が……)

竹助は、人間としては大柄。

だが、魔王と比べれば、

ほんのわずかに小さい。

――にもかかわらず。

(……同じ“重さ”だ)

誰もが、

同じ感覚を抱いた。

魔王が、口を開く。

「……筋肉の勇者」

声は、低く、静か。

竹助は、首を傾げる。

「ん?」 「通りすがりの筋肉だが?」

場が、

わずかにざわつく。

魔王は、

その反応に――

小さく、笑った。

「……聞いている」 「お前は、そう名乗るのだったな」

「筋トレは?」 「今日も、してきたか?」

唐突な問い。

神官が、めまいを起こす。

「魔王様……!」

竹助は、真顔で答える。

「当然だ」 「起きてから」 「三種目はやってきた」

魔王の目が、

わずかに見開かれる。

「……ほう」

(この状況で) (それを“当然”と言うか)

魔王は、

一歩、前に出る。

竹助も、

一歩、踏み出す。

ドン

足音だけで、

空気が震える。

参謀ボウサンが、

喉を鳴らす。

(数値化できない……)

(理論に落とせない……)

魔王は、

竹助を、まっすぐに見る。

「私は」 「お前と、争いたくはない」

ざわっ、と空気が揺れる。

竹助は、

少しだけ、目を細める。

「……奇遇だな」 「俺もだ」

一瞬。

緊張が、

緩む――

次の瞬間。

魔王の背後で、

魔族の一人が、叫ぶ。

「魔王様ッ!!」

その声に、

魔王の表情が、変わる。

ほんの一瞬。

だが――

決意に切り替わった。

「……だが」

魔王は、

拳を握る。

筋肉が、

きしむ。

「私は」 「魔王だ」

「お前と戦うことが」 「我が軍の不安を、払うのなら」

「――全力で、行こう」

竹助は、

大きく息を吸う。

「いいだろう」

そして。

にい、と笑う。

「俺の筋肉も」 「ずっと」 「お前と話したがっていた」

その瞬間。

――ドンッ!!

二人の筋肉が、

同時に膨張する。

魔法ではない。

変身でもない。

力を、解放しただけだ。

地面が、

ひび割れる。

観戦していた冒険者の一人が、

思わず叫ぶ。

「……誰か」 「防御魔法を……!」

神官が、叫び返す。

「無理です!」 「これは……」 「筋肉です!!」

二人は、

構える。

型も、

流派もない。

ただ、

殴るための構え。

魔王が、言う。

「筋肉の勇者よ」

「この一戦で」 「世界最強を、決めよう」

竹助は、

拳を合わせる。

パンッ

乾いた音。

「知らないのか?」

竹助は、

真っ直ぐ、魔王を見る。

「筋肉に――」 「順位はない」

次の瞬間。

二人が、

同時に――

踏み込んだ。

――世界が、

初めて、衝撃に備えた。

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