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16筋 筋肉の答え合わせをしよう

魔王城の空気は、重かった。

魔力の濃度が高いからではない。

結界が不安定だからでもない。

――筋肉だ。

城全体に、異様な筋緊張が走っていた。

「……おかしい」

魔王軍幹部ブガンは、腕を組んだまま唸った。

「最近、魔王様……」 「魔法を使わなくなってないか?」

その言葉に、周囲の魔族たちがざわめく。

「確かに……」 「詠唱、聞いてない」 「昨日なんて、瞑想じゃなくて……」

「――スクワットだ」

誰かが、ぽつりと言った。

沈黙。

魔王オーマは、

玉座の間に姿を見せなくなっていた。

代わりに目撃されるのは――

・城の地下でのデッドリフト

・魔力遮断空間でのアイソメトリック

・重力魔法を自分にかけてのランジ

どれも、地味で、

苦しく、

意味が分からない行為だった。

「俺たちは、魔王軍だぞ?」

魔族の一人が、声を荒げる。

「魔法で世界を支配してきた!」 「筋肉なんて……」 「勇者の余興だろう!」

その瞬間。

彼の背後で、

若い魔族が小さく震えた。

「……でも」 「水晶、見ましたよね?」

場が、静まる。

水晶。

あの――

何もしていない男。

「……あれを見て」 「何も感じなかったやつ、いるか?」

誰も、答えない。

「……俺は、怖かった」

別の魔族が、震える声で言う。

「攻撃されてないのに」 「威圧もされてないのに」 「なのに……」

「……逃げたくなった」

魔王軍は、強い。

それは事実だ。

だが彼らは、

理屈で強さを理解してきた。

魔力量。

詠唱速度。

術式構築能力。

努力すれば、

積み上げれば、

必ず届く――

そう信じられる「強さ」。

しかし。

水晶の中の筋肉は、

その全てを――

無言で否定した。

「……だからって」

ブガンが、歯を食いしばる。

「魔王様が」 「勇者に、頭を下げる必要は……」

「下げてない」

低い声が、響いた。

玉座の間の扉が、

ゆっくりと開く。

そこに立っていたのは――

魔王オーマ。

だが、いつもと違う。

マントは外され、

装飾魔具もない。

あるのは――

張り詰めた肉体だけ。

魔族たちは、言葉を失った。

筋肉が――

違う。

以前より太いわけではない。

だが、密度が異常だった。

まるで、

筋肉一つ一つが

意志を持っているかのよう。

「……魔王様」

ブガンが、膝をつく。

「我々は……」 「不安なのです」

「分かっている」

魔王は、即答した。

「私は」 「敗北を感じた」

ざわっ、と空気が揺れる。

「水晶越しに」 「何もしていない男に」 「筋肉で、負けた」

魔族たちの顔が、歪む。

屈辱。

混乱。

恐怖。

「だから、鍛えている」

魔王は、静かに言う。

「逃げるためではない」 「屈するためでもない」

「――届くためだ」

「ですが!」

若い魔族が、声を張り上げる。

「魔王様が、鍛えても……」 「それでも、敵わなかったら……!」

魔王は、彼を見る。

その視線は、冷たい。

だが――

逃げていない。

「ならば」 「私は、戦う」

その一言で、

場の空気が変わった。

「魔王様……!」

「しかし」

魔王は、続ける。

「それは」 「私の意思ではない」

魔族たちが、息を呑む。

「私は」 「筋肉の真理を知りたいだけだ」

「だが」 「お前たちが」 「それを許さないなら――」

魔王は、玉座に手を置く。

その瞬間。

ズン

城全体が、揺れた。

魔法ではない。

覇気でもない。

筋肉の圧だ。

「私は」 「魔王として」 「お前たちの不安に、応えよう」

その言葉は、

宣言でも、命令でもない。

覚悟だった。

魔族たちは、悟る。

――逃げ場はない。

魔王は、

自分たちのために。

自分の誇りを、

犠牲にしようとしている。

「……分かりました」

ブガンが、頭を下げる。

「魔王様が」 「戦うなら……」

「我々も、見届けます」

魔王は、目を閉じる。

(……すまないな)

(私の探求に) (付き合わせることになる)

だが、その胸の奥で。

筋肉が――

静かに、震えていた。

水晶の向こうの存在を、

思い出すように。

こうして。

魔王オーマは、

自ら望まずして――

竹助内人との対決へと、押し出された。

それは、

戦争ではない。

征服でもない。

――筋肉の答え合わせだった。

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