筋2 神殿は鍛えてあるのか
神殿奥。
勇者のみが立ち入ることを許された「測定の間」。
巨大な魔法陣が床一面に刻まれ、中央には歴史ある**神代測定水晶**が鎮座していた。
数百年にわたり、勇者や英雄の能力を測り続けてきた、神殿の至宝である。
神官長は、緊張した面持ちで竹助を見つめていた。
「通常であれば、ここで貴方様の能力値を数値化します」
「筋力、耐久、敏捷、魔力、加護適性……世界の理に基づいた、絶対的な指標です」
「なるほど」
竹助は静かに頷いた。
「だが、一つ確認しておこう」
「は、はい?」
「この水晶……鍛えてあるか?」
神官長は言葉を失った。
*
「では……水晶に手を」
神官長の声が震える。
竹助は一歩前に出て、そっと水晶に手を触れた。
――瞬間。
ゴォン……!
低く、重い振動音。
床の魔法陣が光り始める。
「反応が……速すぎる……?」
筋力値の表示欄が、急激に上昇していく。
【筋力:120】
【筋力:350】
【筋力:890】
「!? ちょ、ちょっと待ってください!?」
数値は止まらない。
【筋力:999】
【筋力:測定不能】
「そ、測定不能!?」
神官長が叫ぶ。
耐久、敏捷も同時に跳ね上がる。
【耐久:測定不能】
【敏捷:測定不能】
魔力の欄だけが――
【魔力:0】
沈黙。
神官の一人が、恐る恐る口を開いた。
「……バグ、でしょうか?」
「違う」
竹助が即答した。
「筋肉は、嘘をつかない」
*
次の瞬間、水晶が悲鳴を上げた。
ピキ……ピキピキ……!
表面に走る無数の亀裂。
「ま、まずい! 測定を中止しろ!」
神官長が叫ぶが、遅かった。
竹助の筋肉が、無意識に応えてしまったのだ。
「……?」
本人は首を傾げただけだった。
だが水晶は耐えられなかった。
ドンッ!!
鈍い破裂音とともに、神代筋測水晶は粉々に砕け散った。
衝撃波が神殿を走り、柱が軋み、天井から砂埃が降り注ぐ。
「神殿が……!」
「壁に亀裂が!」
「床が沈んでいます!」
阿鼻叫喚。
だが竹助は、落ち着いていた。
「安心しろ」
彼はゆっくりと床に片膝をつく。
ぐっと全身に力を込める。
次の瞬間、崩れかけた天井が――止まった。
「な……!?」
「押し返している……!?」
「人間が……神殿を……支えている……!?」
竹助の筋肉が、建造物そのものを支えていた。
「神殿も、鍛えれば持ったはずだ」
神官長は、涙目で叫んだ。
「だ、誰が神殿を鍛えるのですか!!」
「知らないのか?」
竹助は真顔で答える。
「負荷をかけなければ、強くならない」
*
数分後。
神殿は半壊で踏みとどまった。
瓦礫の中で、神官長は呆然と呟く。
「……もはや、ステータスという概念が通じません……」
「当然だ」
竹助は立ち上がり、埃を払う。
「数値は、筋肉を理解するには小さすぎる」
神官長は、震える声で宣言した。
「本日をもって……勇者タケスケ・ウチト様の能力値は――」
「記録不可。危険につき再測定禁止とします……」
「賢明だ」
竹助は頷いた。
「プロテインが足りていないのは、水晶の方だったな」
神官たちは、誰一人として笑わなかった。
ただ真剣に――
この世界の常識が、音を立てて筋肉に敗北した瞬間を、目撃していた。




