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筋2 神殿は鍛えてあるのか

神殿奥。

勇者のみが立ち入ることを許された「測定の間」。


巨大な魔法陣が床一面に刻まれ、中央には歴史ある**神代測定水晶ステータスクリスタル**が鎮座していた。

数百年にわたり、勇者や英雄の能力を測り続けてきた、神殿の至宝である。


神官長は、緊張した面持ちで竹助を見つめていた。


「通常であれば、ここで貴方様の能力値を数値化します」

「筋力、耐久、敏捷、魔力、加護適性……世界の理に基づいた、絶対的な指標です」


「なるほど」


竹助は静かに頷いた。


「だが、一つ確認しておこう」


「は、はい?」


「この水晶……鍛えてあるか?」


神官長は言葉を失った。



「では……水晶に手を」


神官長の声が震える。

竹助は一歩前に出て、そっと水晶に手を触れた。


――瞬間。


ゴォン……!


低く、重い振動音。

床の魔法陣が光り始める。


「反応が……速すぎる……?」


筋力値の表示欄が、急激に上昇していく。


【筋力:120】

【筋力:350】

【筋力:890】


「!? ちょ、ちょっと待ってください!?」


数値は止まらない。


【筋力:999】

【筋力:測定不能】


「そ、測定不能!?」


神官長が叫ぶ。


耐久、敏捷も同時に跳ね上がる。


【耐久:測定不能】

【敏捷:測定不能】


魔力の欄だけが――


【魔力:0】


沈黙。


神官の一人が、恐る恐る口を開いた。


「……バグ、でしょうか?」


「違う」


竹助が即答した。


「筋肉は、嘘をつかない」



次の瞬間、水晶が悲鳴を上げた。


ピキ……ピキピキ……!


表面に走る無数の亀裂。


「ま、まずい! 測定を中止しろ!」


神官長が叫ぶが、遅かった。


竹助の筋肉が、無意識に応えてしまったのだ。


「……?」


本人は首を傾げただけだった。


だが水晶は耐えられなかった。


ドンッ!!


鈍い破裂音とともに、神代筋測水晶は粉々に砕け散った。

衝撃波が神殿を走り、柱が軋み、天井から砂埃が降り注ぐ。


「神殿が……!」


「壁に亀裂が!」


「床が沈んでいます!」


阿鼻叫喚。


だが竹助は、落ち着いていた。


「安心しろ」


彼はゆっくりと床に片膝をつく。


ぐっと全身に力を込める。


次の瞬間、崩れかけた天井が――止まった。


「な……!?」


「押し返している……!?」


「人間が……神殿を……支えている……!?」


竹助の筋肉が、建造物そのものを支えていた。


「神殿も、鍛えれば持ったはずだ」


神官長は、涙目で叫んだ。


「だ、誰が神殿を鍛えるのですか!!」


「知らないのか?」


竹助は真顔で答える。


「負荷をかけなければ、強くならない」



数分後。

神殿は半壊で踏みとどまった。


瓦礫の中で、神官長は呆然と呟く。


「……もはや、ステータスという概念が通じません……」


「当然だ」


竹助は立ち上がり、埃を払う。


「数値は、筋肉を理解するには小さすぎる」


神官長は、震える声で宣言した。


「本日をもって……勇者タケスケ・ウチト様の能力値は――」

「記録不可。危険につき再測定禁止とします……」


「賢明だ」


竹助は頷いた。


「プロテインが足りていないのは、水晶の方だったな」


神官たちは、誰一人として笑わなかった。

ただ真剣に――


この世界の常識が、音を立てて筋肉に敗北した瞬間を、目撃していた。

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