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番外編 神官、筋肉に救われた日

――私は、神官である。

幼い頃から神に仕え、祈り、祝詞を唱え、

神の奇跡を疑ったことは一度もなかった。

だからこそ、最初に彼を見たとき、

私は心の底から思ったのだ。

「筋肉=異端」だと。

あの日。

神殿に現れた転生者――竹助内人。

筋肉の塊。

魔力反応なし。

スキル欄は空白。

私は内心、ため息をついた。

(またか……神の恩寵を理解できぬ者が)

それでも、儀式は儀式だ。

私は淡々と、ステータス測定を始めた。

結果を見た瞬間、

私は言葉を失った。

職業:聖筋肉

「……そんな、職業……聞いたことが……」

声が震えたのは、驚きではない。

恐怖だった。

理解できないものを、

私は本能的に拒絶した。

そして――

神殿は、崩壊した。

正確には、

竹助が動いただけで、耐えられなかった。

神の御前。

神に捧げられた柱。

神を讃える天井。

すべてが、音を立てて崩れていく。

私は床に伏せ、

瓦礫から頭を守りながら、こう思った。

(罰だ……) (これは、神の怒りだ……)

だが。

瓦礫が、私に降り注ぐことはなかった。

顔を上げると、

竹助が立っていた。

瓦礫を、

大胸筋と背筋で受け止めながら。

「動くな」

落ち着いた声。

「プロテインが足りてないだけだ」

……その瞬間だった。

神の名を唱えても、

祈りを捧げても、

奇跡を待っても――

何も起きなかった私が、助かっていた。

それから私は、

何度も彼の背中を見た。

山火事を拳圧で止める背中。

畑を反復横飛びで耕す背中。

魔族と、トロールと、

言葉なき対話を交わす背中。

彼は一度も、

神に祈らなかった。

だが――

誰一人、見捨てなかった。

私は、祈りながら、迷い始めた。

(神は……) (この人を、どう見ているのだろう)

獣王との戦い。

彼が、巨体を抱き締めたあの瞬間。

破壊ではなく、

征服でもなく、

受容。

私は、涙が止まらなかった。

そのとき、ようやく理解した。

私は、信仰を守っていたのではない。

理解できないものから、目を背けていただけだ。

神は、疑わなかった。

救いを、拒まなかった。

疑っていたのは――

私自身だった。

今、私は知っている。

世界が震え、

神の名すら届かぬとき。

私は、叫ぶだろう。

迷いなく。

祈りではなく、確信として。

***

「私は、神ではなく――」

「筋肉を、疑ったのだ!!」

***

それは、

私が初めて選んだ、

信仰の言葉だった。

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