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13筋 2つの筋肉の衝突

魔王城・地下訓練場。


重たい鉄が、床に落ちる音が響く。


参謀ボウサンが組み上げた、

科学的・理論的に最適化された筋トレメニュー。


高負荷。

高回数。

回復時間すら計算された、容赦のない鍛錬。


「む、無理です……!」

「魔王様、これは拷問では……!」


周囲の魔族たちが悲鳴を上げ、床に倒れていく。


だが――


魔王オーマは、黙々と鉄を持ち上げていた。


筋肉が、応えている。



……?


魔王は、ふと動きを止めた。


参謀ボウサンが魔王に目を向ける。


「どうかされましたか?」



昔の私なら、分からなかったかもしれない。

だが――今の私なら、分かる。


「……どこかで」


胸に手を当てる。


「二つの、巨大な筋肉が……衝突している」


一つは、間違いない。


筋肉勇者・竹助内人。


では、もう一つは――


魔王の筋肉が、疼く。


筋トレのしすぎか?

いや、違う。


……あぁ、そうか。


「お前が、戦っているのか」


かつての好敵手。

野性の王。


獣王ケモーノ。


魔王は、静かに鉄を置いた。


「……生きていたか」



――戦場。


大地が、裂ける。


獣王ケモーノと竹助の激突は、

すでに戦いという概念を超えていた。


拳と拳が触れるたび、

衝撃波が森を吹き飛ばす。


技ではない。

型でもない。


筋肉そのものの、ぶつかり合い。



周囲では、別の戦いが続いていた。


トロールが、盾となる。

巨体で仲間を守り、獣兵の突進を受け止める。


元盗賊たちが、矛となる。

鍛え上げた体幹で突き進み、獣王軍団を押し返す。


冒険者たちが、支援する。

魔法、回復、補助。


号令はない。

指示もない。


筋肉が、理解している。

筋肉が、人種を超えて、1つにしていた。

――筋肉連携。



だが、戦場の中心。


そこでは、

心と筋肉の激戦が続いていた。



獣王ケモーノ。


「……筋肉に、勝てれば」

「もう、何もいらぬ」


咆哮と共に、拳を振るう。


「筋肉を――」

「全て、否定する」


その一撃は、

野性の誇り。

敗北の記憶。

魔王への劣等感。


全てを、叩きつける拳だった。



竹助は、受け止める。


「……これまで感じた、どの筋肉よりも強い」


拳を交え、

体をぶつけ、

筋肉と筋肉が語り合う。


「俺の筋肉が、歓喜している」

「感謝する」


静かな声で、言う。


「お前のおかげで――」

「俺の筋肉は、より真理に近づける」



戦いは、激化する。


だが――

異変は、獣王の体に現れ始めていた。


裂ける筋繊維。

軋む関節。

呼吸は荒く、血が滲む。


だが、それは――

竹助の攻撃によるものではない。


竹助の筋肉に、触れ続けた結果。


完成された鍛錬の筋肉に触れ、

獣王の野性の筋肉が――悲鳴を上げていた。



それでも、ケモーノは止まらない。


体は、ボロボロ。

精神は、すり減り。


それでも。


「否定する……」

「否定、するのだ……!」


筋肉を、

世界を、

自分の敗北を。


否定するためだけに、立ち続ける。



竹助は、理解していた。


言葉は交わさずとも、

拳に触れずとも。


心の悲鳴が、

筋肉を通して、伝わってくる。



獣王ケモーノは、立ち止まった。


大きく、息を吸う。


「……これで、最後だ」


全身の力を、かき集める。


野性。

誇り。

怒り。

後悔。


全てを、

最大奥義として束ねる。


「受けろ……!」

「獣王ケモーノの、全てだ!!」



竹助は、一歩、前に出た。


構えない。

避けない。


「……良いだろう」


静かに、だが確かな声。


「お前の、その想い」

「俺の――」


腕を広げる。


「ありったけの筋肉で、応えよう」



衝突。


否――


受容。


竹助は、獣王の全てを受け止め、

その巨体を――優しく、抱き締めた。


衝撃は、なかった。


破壊も、なかった。


ただ――

筋肉が、包み込んだ。



獣王ケモーノの力が、抜ける。


「……あぁ……」


初めて、

その声は、穏やかだった。


「……否定、せずとも……」

「よかった、のか……」


竹助は、何も言わない。


ただ、抱き締める。



野性は、敗れたのではない。

否定されたのでもない。


受け入れられた。


獣王ケモーノの意識が、静かに落ちていく。


その表情は――

戦士ではなく、

一匹の獣として、安らいでいた。



遠く離れた魔王城。


魔王オーマは、目を閉じる。


「……終わったな、ケモーノ」


筋肉が、静かに、弔意を示した。



戦場に、風が吹く。


筋肉は、争いを生み。

そして――


理解へと、至った。

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