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12筋 野性を超えた筋肉

獣王ケモーノは、覚えている。


かつて――

魔王オーマと、真正面からぶつかり合った日のことを。



炎。

雷。

闇。


あらゆる魔法が飛び交う中、

ケモーノは純粋な肉体で応じた。


牙で裂き、

爪で裂き、

咆哮で大地を震わせた。


あの日、確かに互角だった。



だが、時が経った。


魔王は――

強くなりすぎた。


魔法は洗練され、

戦術は完成され、

力は、次元を越えた。


ケモーノは、気づいた。


「……届かぬ」


いつしか、

真正面から戦うことはなくなり、

距離を置き、

森に戻った。



それでも――

獣は、獣として誇りを失わなかった。



そんな折だ。


獣王の耳に、

信じがたい報告が入る。


「魔王軍が……」

「筋トレを、始めたとのことです……」



――沈黙。


獣王ケモーノの瞳が、細くなる。


「……は?」



筋トレ。


その言葉が、

ケモーノの神経を逆撫でした。



魔王オーマ。

あの、世界最強。

魔法の化身。


その魔王が――

筋肉を、鍛える?



「ふざけるな」


低く、獣王は唸った。


「魔法に溺れた者が」

「今さら、肉体に縋るだと?」



そして、理解する。


魔王軍が警戒している存在。


――筋肉の勇者。


竹助内人。


魔法なし。

スキルなし。

筋肉のみ。



「……笑わせる」


ケモーノは、立ち上がった。


その体躯は、

山よりも大きく、

森そのものだった。



「筋肉など」

「獣王軍団で、滅ぼしてくれる」


獣王の一歩で、

大地が割れる。



前線。


人間軍。

トロール軍。

筋トレ軍団。


三軍が踏ん張る戦場に――

影が、落ちた。



空が、暗くなる。


雲ではない。

翼でもない。


存在感だ。



「……来たか」


竹助は、空を見上げる。


そこに降り立ったのは――

獣王ケモーノ。


野性の極致。

本能の完成形。


筋肉は、鍛えられてはいない。

だが――


生まれながらに、完成している。



獣王と、勇者。


視線が、交わる。


言葉は、ない。


だが――

二人の筋肉が、確かに反応した。



ケモーノは、思う。


(これが……)

(魔王を怯ませた、筋肉か)


竹助は、思う。


(野性……)

(プロテインの概念が、存在しない筋肉)



獣王が、吼える。


世界が、震えた。


「来い、人間」

「筋肉など、幻想だと教えてやる」



竹助は、ゆっくりと構える。


「……いいだろう」


拳を握る。


「俺の筋肉と、お前の筋肉」

「どちらが上か――確かめよう」



野性 vs 鍛錬。


筋肉の真理を賭けた対峙が、

今――始まる。

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