12筋 野性を超えた筋肉
獣王ケモーノは、覚えている。
かつて――
魔王オーマと、真正面からぶつかり合った日のことを。
*
炎。
雷。
闇。
あらゆる魔法が飛び交う中、
ケモーノは純粋な肉体で応じた。
牙で裂き、
爪で裂き、
咆哮で大地を震わせた。
あの日、確かに互角だった。
*
だが、時が経った。
魔王は――
強くなりすぎた。
魔法は洗練され、
戦術は完成され、
力は、次元を越えた。
ケモーノは、気づいた。
「……届かぬ」
いつしか、
真正面から戦うことはなくなり、
距離を置き、
森に戻った。
*
それでも――
獣は、獣として誇りを失わなかった。
*
そんな折だ。
獣王の耳に、
信じがたい報告が入る。
「魔王軍が……」
「筋トレを、始めたとのことです……」
*
――沈黙。
獣王ケモーノの瞳が、細くなる。
「……は?」
*
筋トレ。
その言葉が、
ケモーノの神経を逆撫でした。
*
魔王オーマ。
あの、世界最強。
魔法の化身。
その魔王が――
筋肉を、鍛える?
*
「ふざけるな」
低く、獣王は唸った。
「魔法に溺れた者が」
「今さら、肉体に縋るだと?」
*
そして、理解する。
魔王軍が警戒している存在。
――筋肉の勇者。
竹助内人。
魔法なし。
スキルなし。
筋肉のみ。
*
「……笑わせる」
ケモーノは、立ち上がった。
その体躯は、
山よりも大きく、
森そのものだった。
*
「筋肉など」
「獣王軍団で、滅ぼしてくれる」
獣王の一歩で、
大地が割れる。
*
前線。
人間軍。
トロール軍。
筋トレ軍団。
三軍が踏ん張る戦場に――
影が、落ちた。
*
空が、暗くなる。
雲ではない。
翼でもない。
存在感だ。
*
「……来たか」
竹助は、空を見上げる。
そこに降り立ったのは――
獣王ケモーノ。
野性の極致。
本能の完成形。
筋肉は、鍛えられてはいない。
だが――
生まれながらに、完成している。
*
獣王と、勇者。
視線が、交わる。
言葉は、ない。
だが――
二人の筋肉が、確かに反応した。
*
ケモーノは、思う。
(これが……)
(魔王を怯ませた、筋肉か)
竹助は、思う。
(野性……)
(プロテインの概念が、存在しない筋肉)
*
獣王が、吼える。
世界が、震えた。
「来い、人間」
「筋肉など、幻想だと教えてやる」
*
竹助は、ゆっくりと構える。
「……いいだろう」
拳を握る。
「俺の筋肉と、お前の筋肉」
「どちらが上か――確かめよう」
*
野性 vs 鍛錬。
筋肉の真理を賭けた対峙が、
今――始まる。




