11筋 獣王軍団(野性の筋肉)
獣王軍団は、止まらなかった。
森が、動く。
山が、迫る。
獣の咆哮が重なり、地平線の向こうから――
圧倒的な物量が押し寄せてくる。
狼兵。
熊兵。
角を持つ突撃獣。
翼を持つ斥候。
知性は低い。
だが――野性の筋肉が完成されすぎていた。
*
「左翼が突破される!」
「南門も持たない!」
「トロール部隊、押し返されている!」
人間軍とトロール軍は、必死に耐えていた。
だが、防衛線は各地で悲鳴を上げている。
数が、足りない。
*
「……来たか」
竹助は、状況を一瞬で把握した。
「全員、下がれ」
神官が叫ぶ。
「む、無茶です! 勇者様一人では――」
「問題ない」
竹助は、腰を落とす。
クラウチングスタート。
地面に指先をつけ、
太腿と体幹の筋肉を――完全に連動させる。
竹助は、静かに言った。
「筋肉で応えよう」
*
ドンッ!!
炸裂音。
竹助の姿が、消えた。
*
次の瞬間――
南門。
崩れかけた城壁の前。
獣兵が振り下ろした爪の前に、
竹助が立っていた。
拳圧。
ドォン!!
衝撃波だけで、獣兵が後方へ吹き飛ぶ。
*
次。
左翼。
倒れかけたトロール兵を、肩で支え、
そのまま反復横飛びの要領で獣兵を薙ぎ払う。
*
次。
後方の避難民。
崩落する瓦礫を、
大胸筋で受け止める。
「動くな。プロテインが足りてないだけだ」
*
竹助は、戦場を駆け続けた。
高速移動。
防御。
救助。
だが――
*
「……くっ」
初めて、竹助の額に汗が滲む。
筋肉は、裏切らない。
だが――数は、正直だった。
守り切れない箇所が、増えていく。
*
その時。
遠方から――
地鳴りのリズムが、聞こえてきた。
ドン、ドン、ドン。
一定。
揃っている。
行軍だ。
*
獣兵の背後から、声が響く。
「おうおうおう!!」
「スクワット、怠ってねぇか獣ども!!」
砂煙の中から現れたのは――
かつて盗賊と恐れられた男たち。
だが今は違う。
全員、背筋が伸び、
体幹が締まり、
動きに一切の無駄がない。
筋トレ軍団。
*
「お待たせしました、兄貴!!」
先頭の男が叫ぶ。
「更生後、毎日欠かさずやってます!」
「腕立て! 腹筋! 懸垂!」
「盗みは捨てた!」
「残ったのは――筋肉だけだ!!」
*
彼らは、獣王軍団へ突っ込んでいく。
だが、無謀ではない。
連携。
呼吸。
フォーム。
筋肉行軍。
獣兵の突進を、
正しい姿勢のスクワットで受け止める。
爪を、
上腕二頭筋で絡め取る。
*
竹助は、その光景を見て――
静かに、頷いた。
「……よく鍛えられている」
*
人間。
トロール。
元盗賊。
三つの軍勢が、並び立つ。
数は、まだ足りない。
だが――
筋肉の質が、揃った。
*
獣王軍団の進軍が、
初めて――止まった。
竹助は、前に出る。
「よし」
拳を握る。
「ここからは――反撃だ」
戦場に、再び筋肉の鼓動が鳴り響く。




