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10筋 筋肉こそ友情なり

王国北方。

地響きと共に、トロール軍団が進軍していた。


巨体。

分厚い皮膚。

棍棒を担いだ異形の群れ。


城壁の上で、冒険者たちは即座に判断する。


「トロールだ!」

「討伐対象!」

「殺せー!」


魔法が詠唱され、弓が引き絞られる。


だが――


「待て」


低く、確かな声が割って入った。



竹助が、前に出る。


神官が息を呑む。


「ゆ、勇者様……トロールですよ……?」


「だからだ」


竹助は、軍勢を見渡す。


「様子が、おかしい」



トロールたちは、突撃してこない。

隊列は乱れ、足取りは重い。

何より――


戦う覚悟の筋肉をしていない。


「……逃げている筋肉だ」


竹助は、理解しかけていた。



次の瞬間。


竹助は地面を踏みしめ、

両腕を広げた。


ドンッ!!


拳圧でも、衝撃でもない。

ただの――存在感。


空気が張り詰め、

冒険者たちの足が、止まる。

トロール軍団も、足を止めた。


両軍の間に、静寂が落ちた。



竹助は、一歩前に出る。


「トロール王」


指を差す。


「出てこい」



トロール軍団が、ざわめく。

やがて、ひときわ大きな影が前に出た。


トロール王。

王冠も言葉もない。

あるのは、歴戦の筋肉だけ。


「……グゥ……」


言葉は、ほとんど発せられない。


「問題ない」


竹助は、腕を組む。


「言葉はいらない」



二人は、向かい合った。


空気が震える。


次の瞬間――

自然と、腕相撲の体勢に入っていた。



ギギギギ……!!


地面が、沈む。

筋肉が、唸る。


トロール王は、全力だった。

誇り。

恐怖。

守るべき仲間。


全てを、腕に込めている。


竹助も、全力だった。



数秒後。


ドンッ!!


勝負は、決した。


竹助の手が、ゆっくりと、確実に――

トロール王の腕を、倒した。


沈黙。



竹助は、息を整え、言った。


「……理解した」



彼は、トロール軍団を見渡す。


「お前たちは、負けて逃げてきた」

「根城を――」

「獣王軍団に、追われたな」


トロール王は、ゆっくりと頷いた。


「……グゥ」


それは、肯定だった。



「もう、いがみ合う必要はない」


竹助は、拳を差し出す。


「敵は、別にいる」


トロール王は、一瞬だけ迷い――

その拳を、強く握り返した。



握手。


人間と、トロール。

種族を超えた、筋肉の接続。


冒険者たちは、誰一人、武器を振るわなかった。


神官は、震える声で呟く。


「……同盟……ですか……」


「違う」


竹助は言う。


「友情だ」



その日、王国史に新たな一文が刻まれた。


――人間とトロールは、

――筋肉によって、同盟を結んだ。


遠くで、獣王軍団の影が蠢く。


だが、恐れはなかった。


筋肉こそ、友情なり。

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