9筋 筋圧の前では、誇りも脱げる
王都冒険者ギルド。
最上位ランクの席に、一人の男が座っていた。
ザッコス。
若くしてAランクに到達した、エリート冒険者。
最新鋭の魔導装備を身に纏い、常に完璧な姿でいることを信条としている。
彼は、噂を聞いて鼻で笑った。
「筋肉? 笑わせるな」
「魔法と装備こそが、力の本質だ」
*
その日、ギルド訓練場に竹助が現れた。
神官が同行している。
ザッコスは、立ち上がった。
「貴様が勇者か」
「筋肉が自慢のようだな」
竹助は、落ち着いて答える。
「通りすがりの筋肉だ」
「くだらん」
ザッコスは剣を抜く。
「筋肉など、まやかし」
「俺の装備は、竜の鱗と魔導合金で作られている」
「圧力も衝撃も、完全に制御できる」
周囲の冒険者が、固唾を呑んで見守る。
*
「来い」
ザッコスが踏み込む。
同時に、魔力が装備を巡る。
防御結界、衝撃吸収、反動制御。
完璧な準備。
だが――
竹助は、動かない。
「……?」
ザッコスが剣を振り下ろした、その瞬間。
竹助が、一歩踏み込んだ。
殴らない。
触れない。
ただ――
筋圧。
*
――ボンッ!!
空気が弾けた。
次の瞬間。
「な……!?」
ザッコスの鎧が、耐えきれずに悲鳴を上げる。
胸当てが割れ、
肩当てが弾け、
魔導ベルトがちぎれる。
「ま、待て――!」
装備が、次々に――
自壊していく。
*
最後に残ったのは。
――ザッコス本人。
全ての装備が、筋圧に耐えられず破れ去っていた。
沈黙。
風が、通り抜ける。
「……」
誰も、笑わない。
ザッコスは、青ざめた。
「お、俺の……装備が……」
「鍛え方が、足りなかったな」
竹助は、静かに言う。
「装備も、筋肉と同じだ」
「外側だけでは、意味がない」
*
ザッコスは、膝をつく。
「……俺は……」
「強いと思っていた……」
「間違ってはいない」
竹助は頷く。
「だが、頼りすぎた」
彼は視線を外し、言葉を添えた。
「プロテインが足りていないのは……」
「装備の方だった」
*
神官が慌てて外套を差し出す。
「ど、どうぞ……!」
ザッコスはそれを受け取り、震える声で言った。
「……もう一度……」
「基礎から、鍛え直す……」
竹助は、背を向ける。
「それでいい」
*
その日、冒険者ギルドに新たな注意書きが追加された。
――勇者タケスケ・ウチトと対峙する際、
――装備の耐久保証は無効。
ザッコスは
「まずは自分を鍛える」と再出発した。
誰も、笑わなかった。
筋肉は、嘘をつかない。




