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3. たぬきと廃墟へお引越し!ただし野宿はお勉強時間とする!


 幸福たぬきが引っ越し先を見つけてきた。

 神に見棄てられていない、神の見ている土地で、しかも周りにヒトがいない場所。

 昔何かしらの戦場でヒトが撤退して忘れられたところだろうと。

 街としてはボロボロだが、隠れ住むには最適。

「引っ越しねえ。いつするの? あ、この前教えてもらった魔法、正しく使えているか見てもらっていい?」

 目が少し良くなる、種火をつける、清らかな水を両手一杯に出す、皮膚の表面の傷を少し早く治す、などの魔法はわたしでも使えるので教わったら使えるようになった。今はもう少し難しいものを習っている。ヒトに換算すると5歳児レベルだそう。

 魔法ってやっぱり理論なのねえという感想だ。イメージひとつで魔法は出せない。お勉強尽くし。つくづくわたしに優しくない世界だ。

「引っ越しは今日だ。少しずつ移動していく。ぼくの見立てではひと月はかかる。しゅっぱーつ!」

 そこから毎日移動と野宿。屋根のない場所ででかいたぬきのきんたまベッド。食べ物は周囲の食べられる植物をなんとか見繕う。雨の日は木の下で雨宿り。合間に魔法の勉強を見てもらう。あと付近の地域のヒトが使う現地の言語も幸福たぬきから習う。


 ふた月はかかった気がする。

 無事に着いたその先は、予想していたがガレキの山。

 昔起こったらしい戦争の惨事がそのまま残っている。

 ヒトの影がないことを充分に確かめた。

 比較的屋根が残っている建物に不法侵入する。今日からここがわたしたちの家だ。

 たぬき曰く、匂いが変わっただろう? と。全然わからない。穢れだとか神の目だとか異世界人にはわからないものなのだろうか。

 昔は畑だっただろう場所を探し、納屋っぽいところにあるタネを幸福たぬきに見てもらう。食物になりそうなタネは片っ端から撒いていく。何か成るまでは、廃墟に取り残された保管食糧で食べられそうなものを食べる。

 井戸のようなものは枯れていた。代わりに用水路のような川を見つける。

 この廃墟の街で、穢れの匂いが落ちるまで、また幸福たぬきとままごとの開始だ。

 朽ちかけているキッチンを見つけて、幸福たぬきに使い方をひとつずつ教わる。

 冷蔵庫モドキ、オーブンモドキ、コンロモドキ。魔法を組み合わせて動かすものもいくつもある。見ただけでは使い方がわからない。壊れている器具でおままごと。たぬきがまるふわなおててで使い方の見本を見せてくれる。ちょっとほっこりする。

 この地域の言語の習得は難しい。日常会話なんていつできるようになるだろう。カタコトでも単語が話せるようにならないと。

 わたしと幸福たぬきが最初から話せているのは幸福たぬきの特性だから。幸福たぬきは願いの主と意思疎通ができるようになっている。願いを持つ知性のある生き物はヒトとは限らないからだ。四足歩行の動物でもコミュニケーションが取れる種なら、願いの主になれる。

「それって、お腹を今すぐ満たしたいっていう願いの主なら、たぬきが晩御飯にならない?」

「ならないんだなー! なぜならば、その幸福たぬきが叶えられる範囲内の願いしか約束をかわせないから。願いはある程度の下限と上限がある。実現できるかどうかのジャッジが入るんだ」

 いろいろと引っかかるところは多い。

「誰のジャッジが?」

「誰?!! 誰だろうなー。ぼくたちの無意識かもしれない」

 幸福たぬきは幸福たぬきのコトワリで生きている。

「じゃあさ、植物が願いの主になることはあるの? 植物も根っことか化学物質でおしゃべりするよね」

「ありうるけどない! もちろんぼくらはがんばれば植物ともコミュニケーションが取れる。でも植物って基本的に自力本願なんだ。『雨を降らせてほしい』とは願わず、『雨が降ったらもっと伸びなきゃ!』くらいにしか思わないみたいでさー。願いの主には最もなりにくい」

 それはそうかもしれない。でも受粉の媒介してほしいなーとかはあるんじゃないか? でもそれは幸福たぬきに望むものではないのかしら。

「まあ、猯子さんみたいな二足歩行のヒトが多いかな! 常に悩みや願いを持っている生き物はヒトだから」

 幸福たぬきのコトワリは面白い。

 廃墟での生活も慣れてきた。

 休憩のときは相変わらずなんちゃってハーブティーを淹れている。森で採っていたものとは異なる種類の葉っぱだけど。ルーティンワークは心を落ち着かせる。

 屋根があるとはいえ、壁は穴あき放題なので、夜はたぬき巨きんたまのベッドを継続している。身体を冷やすと命を落としかねないのでね。背に腹は変えられぬ。もちもち触感に虜になりつつある。

 魔法も使える種類が増えてきた。数字を使わないで算数をしているみたいな難解さ。それでも現地のこどもよりは習得が早いと言われた。異世界特典なのか、内包する魔法力はヒトとして高いらしい。習得できる範囲も広いだろう、あと、内包する魔法力の高い子がほしい異性からモテるだろうとのこと。

 言語は現地語で日常もできる限り話す。話しまくる。詰まったら幸福たぬきに教えてもらってすぐに使う。その繰り返し。

 わたしはいつか日本語を忘却してしまう日が来るのだろうか。

 故郷に帰りたいなあと思うのは、流行りだった歌を口ずさんでいるときに歌詞が思い出せないとき。会社は二度と行かなくてもいいかな。

 シャワーは浴びたい。でもこっちでもシャワーに似たものがあるらしいので街に行ける日を楽しみにしている。

「幸福たぬきさん、穢れの匂いが取れるのはいつですか?」

「あとー、半年かな?!」

「わかりました。ありがとうございます」

 現地語の丁寧語から学んでいるから口調が固いらしい。外世界語のニュアンス難しい。

 街に行けるようになったとして、どうやってお金を稼ぐか。

「魔法ができればできるほど稼げる職があるよ。特に魔法戦争の傭兵は随時募集中」

 いいや、戦うのとか無理。

「後方支援はいくらでも! 魔法力が多ければ魔法弾薬に力を注ぐのにピッタリ」

 いやヒトを殺す武器に携わるのも無理。

「それじゃあ、お嫁さんになる?」

「幸福たぬきさんの?」

 わたしなんかをもらってくれるの?

「二足歩行は二足歩行と結婚するんだろー! 魔法戦争ばっかりやってるからいつでも人手不足。こどもは生まれた分だけ金をもらえるから多夫多妻婚も重婚もできるし、するのが常識。ただし養う側は養えるだけの数まで!」

 養ってもらうのかあ。それならいいかな。

「花嫁修行よろしくお願いします」

「もう毎日やってるよ!」

 家事って苦手。でも仕事しなくていいなら家事はできる。逆に、仕事があると家事ができない。

 わたしは共働きの夫婦とかなれないタイプなのかな。だから結婚、できなかったのかな。あっちでは。


わーいフィクションだフィクションだフィクションだあいすき!

たぬきと外世界語でおままごとをしたいヒトは星を押してありますよね?!

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