表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

創立祭明け2日目:容疑者②委員長バルザス


その日の昼休み。


シェリアーナはカティナとトリスタンと共に教室棟の屋上でランチを広げ、今朝のナバールとのやりとりを共有していた。


ちなみにトリスタンには、昨日シェリアーナがカティナに話した内容を伝えてもいいと伝えてあった。

そのため彼も、シェリアーナが自分を介抱してくれた人物を探していることを知っている。

――キスされてしまった、ということも含めて。


「そっか、ナバールじゃなかったんだ。」

「なんかそんな気はしてた。俺の記憶でも、シェリアーナが倒れたとき、ナバールはただその場で様子を見てるだけだったのを覚えてるよ。」


シェリアーナはトリスタンが言ったように、ナバールが自分のことをじっと眺めている様子が容易に想像できた。彼は自分にしかできないことは率先してやるが、他人に任せられることには決して余計な手を出さない男だ。


「ああ、本当誰なんだろ。あ、100パーセント無いとは思うけど、トリスタンじゃないよね?私を運んで側についててくれたの。」

「残念ながら。薄情な奴で申し訳ないけど、俺も後片付けのあとカティナと一緒に帰ったから保健室には寄ってない。それに、いまのところ俺がお姫様抱っこするのはカティナだけ。」

「あーはいはい。」


カティナもトリスタンの発言に突っ込むわけでもなくフフ、と微笑んでいる。

はい、お熱いことで。


「でも本当に誰なんだろうな。誰も覚えてないってのが気味悪いって言うかなんていうか。シェリアーナの両親とは言葉も交わしたのに、覚えてないんだろ?」

「そうなの。父さんも母さんも、二人とも確かにその人と会話したらしんだけど、どんな人だったのかどうしても思い出せないって言うんだよ。変だよね。」

「やっぱり誰かの魔法なのかも。普通だったら先生の誰かがシェリーを運んでいきそうなもんじゃない?それにもし生徒に運ぶのを任せたとして、親が来るまで責任をもって生徒に付きそうはずでしょ?でも、先生も教室の戸締りした後、私たちと一緒に帰っていったのよね。アリア先生がグダグダで、バルザス先生に肩貸して貰ってたの覚えてるもの…。なんていうか、私たちみんな、なにかの魔法にかかってたとしか思えないんだけど。」

「みんなの記憶をかく乱する魔法とか?そんな魔法あったかな?」

「俺らが知らないだけかもしれないぞ。」

「でもそこまでして…」


シェリアーナは言葉に詰まり、お弁当を食べる手を止める。


(……そこまでして、私を介抱したかった?なんで?)


動きが止まったシェリアーナを見て、カティナがスプーンをババンとシェリアーナの方に向ける。


「一つわかったことは、その人はシェリーのことがめちゃくちゃ好きってことね。」

「はあ!?」

「だって独占欲の塊じゃない。それにキスまでしてくるなんて、普通好きじゃなきゃしないでしょ。」

「そうなると容疑者は大分絞られてくるんじゃないか?クラスの男子から彼女持ちの奴を除くと、委員長、ナバール、ティラント、それから参加してなかったけどアスティの4人だけだ。」

「アスティは外してもいいんじゃない?さすがに侯爵家の警備の目を搔い潜ってまで、わざわざ顔見せに来るなんてこと、万が一にもなさそうだし。」


シェリアーナはいつでも優しく微笑んでいるアスティの顔を思い浮かべながら、彼を容疑者から除外することを提案する。


アスティは、由緒ある侯爵家の三男で、Aクラスの中でも最も身分が高い。

本人は身分に関係なくクラスメートと分け隔てなく接しているが、家の者たちは彼が平民と親しくすることを快く思っていないらしい。そのため、今回の打ち上げも父親の猛反対にあい(ちなみに創立祭当日も家族は誰ひとり見に来なかったらしい)、必死に説得を試みたものの、結局最後まで許可は下りず、彼は泣く泣く参加を諦めることになった。


「確かに…家では何をするにも監視の目があるって言ってたし、色々と無理があるかもね。じゃあアスティは無しで。」

「じゃあ残るは委員長、ナバール、ティラントの3人か。」

「あ、ナバールも今朝の感じだと嘘をついてるようには見えなかったから、ナバールも違うと思う。」


完全にシェリアーナの主観ではあるのだが、もしナバールが運んでくれた張本人だとすると、今朝の時点で「わかっちゃった!?そうそう、僕だよ、僕!」とかめちゃくちゃに主張してきそうなもんである。


「じゃあ委員長かティラントのどっちかか…」


「うーん、ティラントと私はお互い友達としか見てないし、片付けの後は帰ったって言ってたし、委員長も保険医を探しに行ってて途中までいなかったんでしょ?委員長も片付け後はみんなと帰ったって言ってたし。それに委員長は隣のクラスのナルシアさんに夢中だからな…もし運んでくれたり様子を見に来てくれてたとしても、キスなんてして来ないよ。」


シェリアーナが委員長とティラント、どちらとも違うのではないかと口にするも、「たとえ片付け後に帰ったとしても、あとでシェリーの様子を見に保健室まで戻ったって可能性もあるでしょ。シェリアーナのことは自分が何とかする!って魔法でみんなを撹乱してシェリーを保健室まで運んで、その後しれっと教室に戻る。後片付けを手伝った後、みんなと一緒に帰ったふりをして、こっそり一人で保健室まで戻った。そしてシェリーの両親が迎えに来るまで、そばで付き添ってあげた。うん、これだわ。」と、強引な推理を展開されてしまった。


さらにカティナはトリスタンに視線を向け、確かめるように問いかける。


「ねえトリスタン。二人のどっちかが実はシェリーのこと好きだった、とか聞いてたりしない?二人と恋バナくらいしたことくらいあるでしょ。」


「んー俺ら個人的に深い話しするほど仲良くないし、それに、たとえ知ってたとしても、ここでばらしたりしないから。」


「それもそうか。」


ティラントも委員長も、誰とでも仲良くできるタイプで、特別トリスタンと親しくしているというわけではなかった。

それにトリスタン自身も口が堅く真面目な性格だ。たとえ二人からシェリアーナへの想いを打ち明けられていたとしても、そのことをこの場で明かすような真似はしないだろう。


シェリアーナは頭を切り替え、別の線から手がかりはないかと思考を巡らせる。そして、「あ」と気付いたことを口にする。


「ていうか、みんなの記憶があやふやなのって本当に魔法だったのかな?そうだとしたら、私の両親や先生たち含め、あの場にいた全員に精神魔法をかけたってことになるよね?それって相当な魔力の持ち主じゃないと無理じゃない?それこそ教師レベルでもないと。」


「でも、貴族の場合、潜在的に魔力量多いじゃん。」


「まあ、それはそうなんだけど…」


一般的に、貴族のほうが潜在的な魔力量は平民のものよりもずっと多い。

それは昔、魔力量こそがすべてとされた時代の名残で、当時は魔力の強い者同士を結婚させるのが貴族の習わしだったためだ。


「じゃあ、その人物を貴族に限定したとすると、委員長は対象外じゃない?彼って実家は魔法具を扱う立派な商家だけど、平民でしょ?」


「確かにそうだったね。で、残るティラントだけど、彼は私より魔力量少ないよ。しょっちゅう魔力回復薬飲んでるもん。」



「「「…」」」



三人が揃って押し黙る。

該当者が誰もいなくなってしまった。



「ま、まあ魔力消費が少ない魔法だとか、魔法じゃなくてもなんかしら記憶操作の魔道具使ったとか、実は何の小細工も無しにみんなが覚えてないだけとか、いろんな可能性が考えられるし、ね?」

「うんうん、カティナの言う通り。とりあえず容疑者を絞るためにも、委員長とティラントの二人に確認してみたら?もしかしたらどっちかが当たりかもしれないし。」

「二人とも絶対に違うと思うんだけど…まあ、一応、今日タイミング合えばどっちかに確認してみるね…。ほんと、違うと思うけど…」


シェリアーナは全く気乗りしない様子で言いながら、ランチの残りを急いで食べた。





そしてその日の放課後。


「ねえ、委員長。今日って学校委員会がある日だっけ?」


ソワソワした様子で足早に教室から出ていこうとする委員長を、シェリアーナが声をかけ呼び止めた。


学校委員会とは、おおむね月に1回の間隔で生徒会役員と各学級委員が一堂に集まる会議のことだ。生徒会からの報告事項を学級委員に伝えたり、逆に各学級からの要望や意見を出し合ったりする場でもある。


「うん、そうだよ。なんか委員会に伝達事項でもある?」

「ごめん、ない。なんか…委員長が嬉しそうだなーなんて思って、聞いてみただけ。」


本当は打ち上げの件について話を聞くつもりだった。が、急いでるところ呼び止めてまでする話ではない。

シェリアーナは適当なことを言って誤魔化したつもりだったのだが、


「わかる!?そうなんだ、今日は待ちに待った学校委員会の日!理由つけてナルシアさんに話しかけることができる貴重な日なんだ!もう今朝から彼女に会えると思うと嬉しくて嬉しくてソワソワしっぱなしなんだよー。今朝マフィンも焼いてきたんだ…彼女、食べてくれるかな?」


委員長は本当に嬉しさでいっぱいだったようで、キラキラと高揚した表情でシェリアーナに自分の気持ちを語ってきた。

彼の手にはキレイにラッピングされたマフィンが見える。


(今朝焼いた…ということは、委員長の手作りなのか。マジか。)


「う、うん、美味しそうだし貰ってくれるんじゃない?」


委員長は彼女からいつも軽くあしらわれてると聞いてたので、軽々しく食べてくれるとは言わないことにした。けれども、委員長にはシェリアーナのその発言も好意的に捉えてくれたようだ。


「美味しそうに見えるなら良かったよ〜!あ、俺、身だしなみ整ってる?女子から見てどこも変じゃない?」


「いつも通り、イカつくてかっこいいよ。」


見た目はガチムチで魔法よりも斧か大剣が似合いそうな委員長だが、言動は完全に恋する乙女である。


「よし、準備万端だー!それじゃ彼女の隣の席をキープしなきゃだから、急いで行ってくる!じゃ、また明日!」


「いってらっしゃーい。また明日ー」


ひらひらと手を振り、慌ただしく去っていく委員長を見送る。



(うん、聞くまでもない。委員長だけは、絶対に、無い)



こうして、シェリアーナが確認すべき人物は残すところあと1人となった。

続きは今日の夜更新。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ