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創立祭明け2日目:容疑者①ナバール

「え、キスされた!?誰に!?え、なんで!?」

「しっ!」


放課後、カティナはいつも彼氏のトリスタンと一緒に帰っているのだが、今日は彼に用事があるとかで遅くなるらしく、シェリアーナと一緒に下校していた。


せっかくカティナと二人きりになったのだから、彼女にそれとなく自分が運ばれたときのことを話してみた。ところが、シェリアーナの予想以上にカティナが驚いたため、思わず彼女の口に手をあてた。


「ごめん、今の話、まだ誰にも内緒でお願い。私もなんでかは知らない。ベッドの上ではほとんど意識なかったから…でも、確かにここに誰かの口が押し当てられたんだよね。」


シェリアーナはそう言って自分の唇を指で押さえる。


「それは…キスでございますな。」


カティナは動揺しているせいか、喋り方がおかしなことになっている。


「うん、そうなの。あれはまごうことなきキスだった。」

「なんか、シェリーってばまるで他人事のように冷静だね。」

「だって誰にされたかわかんないし。」


逆にその誰かがわかってしまったら、こんなに冷静ではいられない気がする。

感情のままに相手になぜなぜどうしてと詰め寄ってしまうだろうと容易に想像がついた。


「でも、朝に言ってたとおり、私を含め誰もシェリーが運ばれたところ見てないんだよね…男子もそうだったじゃない?他に考えられるとしたら、先生か、それか警備員さんかしら?うわ、やだ、それって完全にセクハラ、というか犯罪…警備員さんとかおじいちゃんだし。」

「いや、運ばれてた時に服が見えたんだけど、たぶん制服のブレザーを着てたと思うんだ。だから、大人じゃなくてクラスの誰かだと思うんだよね。」

「ああ、それなら良かった。いや、良くはないか。それで、他に思い出せそうなことはある?」


カティナに質問され、シェリアーナはうーんと悩む。その瞬間、そういえば……と思い出した。


「そうだ、匂いだ。なんか懐かしいような匂いがした。」

「懐かしい?」


なんて言ったらいいのだろうか。

嗅いだことがある匂いで、どちらかというといい匂い。


「なんていうか…昔嗅いだことがあるような…どんな匂いかっていうと、説明が難しいんだけど…」


「香水かな?うちのクラスで男子生徒で香水をつけてそうなのって、ナバールくらいじゃない?」


「ああ、確かに。でも香水の匂いじゃないような…それにさ、ナバールって私のこと運べると思う?いつも人に物をもって貰うか、魔法で何でも済ませちゃうような男だよ。」


貴様、俺様、ナバール様である。彼の隣国での地位がどれほどのものか知らないが、時折見せる常識外れな部分は、どこの王族なんだと言いたくなる。


「そうね…物理的に抱きかかえて運ぶくらいなら、魔法を使って浮遊させてそう。でも物の浮遊魔法ってまだ簡単なものしか習ってないし、シェリアーナを運べるかどうかは微妙なところかも。まあ、一応本人に確かめてみたらいいんじゃない?」


「そう、だね…」


ナバールが私を運べたとして、キスなんてしてくるだろうか?

いつでも自分が一番な彼に、私が女性として好かれる要素なんて、あったっけ?





「おはようナバール。ちょっといい?」


翌日、ナバールが登校したタイミングで彼に声をかけた。彼はいつも友人たちに囲まれているため、中々二人きりになれるチャンスがない。そのため、シェリアーナはいつもより早めに登校し、校門前で彼が来るのを待ち伏せしていた。


「おはよー。ん?何、どうしたのシェリーちゃん、僕のこと待ち伏せしてた?あ…もしかしてこの前ショット飲ませて潰しちゃったことへのお礼参り?ごめん、この通り謝るから、許して。」

「お礼参りって…どこのヤンキーだよ…そんなんじゃないから。それに別に怒ってないし。じゃなくて、そんな長くならないから、ちょっとこっち来てくれない?」

「うん、よくわかんないけど、体育館裏とか、人気の無いところじゃないならいいよ。おーこわ。」

「だから違うってば。」


シェリアーナは、身震いのふりをして揶揄ってくるナバールを引き摺りながら、教室棟裏の静かな庭まで足を運んだ。そして、早速話を切り出した。


「単刀直入に聞くけど、ナバールって、打ち上げのとき、私のこと保健室まで運んでくれた?」

「え?僕?」


シェリアーナが尋ねた内容に対し、ナバールは心底驚いた顔をした。

そして、おもむろに腕まくりをし、彼の男子にしては細い腕をシェリアーナに向けて言う。


「ほら見て。僕のこのしなやかな腕で、シェリーちゃんを持ち上げれると思う?知っての通り、僕はペンより重い物は持たない主義なんだ。」


ナバールは袖を整えた後、なぜか得意げに、やれやれ、といったポーズを取ってみせた。


いや、わかってはいた。彼にそんな腕力も気概もないことを。


「だよね。うん、知ってた。」

「でもなんで?」

「いや…ただ、その人にお礼をいいたくて。重いのに…酔っ払いの私をわざわざ保健室まで運んでくれたんだし…それに、ずっと付き添ってくれてたらしいし…」


半分本音で半分嘘だ。

お礼も言いたいが、どちらかというと、シェリアーナは自分にキスしてきた意図について問いたかった。


「ふーん?」


何故か含みのある表情をしてシェリアーナの方を見てくるナバール。


「なに。何か文句ある?」

「べつにー。シェリーちゃんでもそんな顔することってあるんだね。」

「どういう意…「あ、そろそろ予鈴鳴っちゃうよ、急ごっ。」


シェリアーナの言葉を遮るようにして、ナバールは踵を返し、教室へ戻ろうとする。

シェリアーナはうまくはぐらかされたと思いながらも、教室へ駆けていくナバールの背中を追った。





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