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後日談5.魔獣狩り合戦

「やっと着いた!」


目の前に広がる、深く壮大な鬱蒼たる森。


シェリアーナたち二年Aクラスの生徒は今、学園の外――

獰猛な魔獣がうようよと生息する、グレジア領の端まで遠征に来ていた。


二年Aクラスの魔法科では、年に三回、実地授業が行われる。

その内容は、魔獣の生息地へ赴き、教師から渡されたリストに記された魔獣を討伐していくというものだ。


魔道具の使用は、事前に配布されたもの以外は禁止されており、生徒たちは皆、自身の魔法のみで戦うことを強いられる。


実地授業の場所は毎回決まっておらず、その時期に魔獣被害に悩まされている領地へ生徒が派遣される。

学園の訓練であると同時に、領地の助けにもなる、実益を兼ねた授業だった。



やっと辿り着いた遠征の地に、いつになくシェリアーナはやる気に満ちた声を上げた。


「いよいよだねー! あー楽しみ!」


そんな彼女とは対照的に、隣のカティナは、どこかげんなりした様子で前を見据えている。


「シェリー、めちゃくちゃワクワクしてそうだね……。私は今日という日が、憂鬱で仕方なかったんだけど」


「何言ってるの! こんなふうに自由に魔法を使えるチャンス、滅多にないんだから。楽しまないと」



そう、今日は待ちに待った、遠征授業の日なのだ。


憂鬱そうなカティナには悪いが、自分としては、テンションが上がって仕方がなかった。


「そんなふうに思ってるの、きっとシェリーだけだよ……」


そんなことはないだろうと周囲を見渡すと、カティナの言葉は、あながち間違いでもなさそうだった。


「うわ、今回の討伐レベル、高くない? この小さいドラゴン型のやつとか、俺らで倒せるの?」

「下手したら、死ぬんじゃないか?」


クラスメートたちが「ヤバい」と、配布されたリストを覗き込み、次々とぼやく。


リストに載っている魔獣は、全部で六種類。今回の討伐対象だけが記されている。もちろん、生徒のレベルに合わせて選ばれたものだ。


もっとも、リストにない高レベルの魔獣も、この森には数多く生息している。だが、そうした相手と遭遇した場合は、速やかに撤退するよう指示されていた。


授業で討伐するのは、あくまでリストに載っている種類のみ。たとえ低級の魔獣であっても、むやみに狩ることは固く禁じられていた。


不安を口にする生徒たちに、ティラントが気を楽にするよう声をかける。


「今回も、リタイア笛と逃げ隠れ帽子が支給されてるんだから、命の心配はいらないだろ」

「それもそうだけど……」

「やれそうなやつから狩っていこうぜ」

「そうだな……」

「これが終わったら、グレジア領の美味い飯が待ってることだし。俺はそれを楽しみにして頑張る」

「! たしかに!」


彼の言葉により、クラスの空気は、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


そこへ委員長が、リストを上の方に掲げながら、

「もし一人じゃ不安という人は、誰かと一緒に組んでねー。無理しないようにしてください」

と、全員の様子を気にかけながら声をかけて回っていた。



「シェリーは、もちろん単独で突っ切るんでしょ?」


カティナに声をかけられ、「うん!」と大きく頷きを返す。


「ちょっと奥の方まで行ってみるつもり。カティナはどうする? 一緒に行く?」


「私はやめとくよ。トリスタンについていって、協力して狩っていくわ」


「ん、了解」


友達といえど、このあたりの付き合いはあっさりしている。

自分としても、周りを気にしなくていい分、単独で動けるほうがありがたかった。


「それじゃあ、みんな準備はいいかい!?」


現場監督のアリア先生が、大きな声で開始前の激を飛ばす。


「口を酸っぱくして言うけど、自分の身を守ることを最優先に!

ダメだと思ったら、すぐに支給したリタイア笛を鳴らして、救援を待つこと! いいね!?」


「はい!」


一同、やる気は十分だ。なんだかんだ言って、このクラスの面々は、お祭り騒ぎが好きなのだ。


「期限は日暮れまで!

それまでに、狩って狩って狩りまくってきな!

それじゃあ――魔獣狩り授業、開始!」


――そうして、この日の授業は幕を上げた。





この授業に勝ち負けはない。

ただ魔獣と対峙し、しのぎを削りながら自分たちの魔法を磨くことに主眼が置かれている。


対象に遭遇しなければ、それはそれで構わない。

だがその場合、サポートの教師が生徒の元を巡回し、まだ一体も討伐していない生徒を対象の魔獣のもとへと誘導する。


自由度は高いが、決してサボれない授業なのだ。


「まずは探知魔法だよね」


やみくもに歩き回っても、無用な魔獣と遭遇するだけだ。

リストにある魔獣の居場所を探知で割り出し、一気に畳みかける。

それがシェリアーナのいつものやり方だった。


(早く……あれを使いたい)


この前の授業で習った、爆発系の攻撃魔法。

授業でやったときは必要最小限の威力で試したのだが、一度でいい、あれを思いっきりぶっ放してみたかった。


シェリアーナが最初に狙いを定めたのは、大きな鳥型の魔獣だった。

小さな子供なら丸呑みにされてしまいそうな大きな(くちばし)を持ち、脚には鋭い爪を備えた、好戦的な魔獣である。


まれに人里に現れては、人間を襲うこともある。そうした雑食性の害獣であるがゆえに、討伐対象となっていた。


(ただ、慢心はするな)


対象が大きければ大きいほど、こちらも威力のある魔法を、遠慮なく使える。

もちろんその分、相手も一筋縄ではいかない。


前回の遠征でも興奮していた反面、心のどこかで緊張を抱えていた。

今回も同じだ。


いくら授業でリストに載っている魔獣たちの生態を学んだとはいえ、机上の知識と実物とでは、まったく違う。

実際に対峙したときは、環境、双方のコンディション、感情――そのすべてが、教科書に載ってないような想定外の連続となる。



シェリアーナは、躊躇うことなくことなく探知魔法で探り当てた反応のもとへ移動する。

道なき道を、足を取られないよう注意しながら、しかし音を立てぬよう静かに進んでいく。

やがて、どこか湿った空気が、いつの間にか肌に纏わりついていることに気付いた。

川でも近くにあるのかと思ったが、辿り着いた先は、大きな湖の畔だった。


そこで、水を飲み、羽を休めているターゲットを見つける。

事前に学んでいた通り、身体の大きな成獣だが、幸いにも単独で休んでいるようだった。


(お休みのところごめん。不意討ちさせてね)


シェリアーナは対象をしっかりと見据え、一歩踏み出す。

そして、相手と視線が交わる前に、躊躇うことなく魔法を展開した。



シェリアーナは、ほくほくしていた。


さっきの大きな鳥型の魔獣を一発で仕留め、しかもちゃっかりその魔獣の光る羽根まで手に入れていたのだ。


(思わぬお小遣い稼ぎになったなぁ)


魔獣の一部は専門店に持っていくと、わりと良い値で買い取ってもらえる。

魔法科の学生にとって、実地授業で懐を肥やすことは暗黙の了解だった。もちろん、このことは教師も公認である。


嬉々として、さらに最奥へ足を進めていたそのとき、茂みの奥からかすかな音が聞こえた。


魔獣かと思い、シェリアーナは咄嗟に音のした方を振り向き、緊張とともに魔法を放つ構えを取る。

けれど、彼女の警戒は空振りに終わった。


「あれ……? シェリーちゃん?」


「ナバール!」


意外な人物に遭遇し、シェリアーナは思わず声を上げた。


「シェリーちゃんにこんなとこで会えるなんて。もしかして、ドラゴン種狙い?」


自分の方こそ、こんな最奥でナバールに会うとは思っていなかった。

手頃な魔獣を数匹倒したら、残り時間は適当に過ごす――そんなイメージだったのだ。

(というか、前回はそうしたと本人が言っていた)


「そうだけど……

ナバールはどうして? 迷子にでもなったの?」


「まさか。僕がそんな間抜けに見える?

僕もドラゴン種狙いだよ」


彼の口から出た言葉に、シェリアーナは耳を疑った。


「え? ナバールが!? ドラゴン種を!? なんでまた……」


「ここのドラゴン種、鱗が綺麗なんだってー。アクセサリーにでもしようかと思って!」


「誰も一緒じゃないの?」


「うん、僕一人だよ」


「……」


呑気に言っているが、ドラゴン討伐はそんなに甘くない。

リストに載っているのは小型の個体だが、それでもシェリアーナですら、単独で互角に戦えるかは未知数だ。


ましてや、魔法の授業すべてで平均点ど真ん中を取っているナバールが、一人で討伐できるとは到底思えなかった。


「――一緒に行く?」


気づけば、声をかけていた。

ここで一人で行かせたら、彼が大怪我をするのは目に見えている。


「え? いいの? やったー。シェリーちゃんが一緒なら、僕何もしなくていいかもね」


「ちょっとくらい、一緒に頑張ろうとか言ってよ……」


さすが、俺様ナバール様である。

他の人ができることなら、自分の指一本動かそうとしないのだから。


「ほらほら、あっちだよ。時間なくなっちゃうから、早くいこーよ」


「はいはい」


自然な動作で手を引かれ、二人で道なき道を進んでいく。


最初は彼のことが心配だったけど――

実際には、ナバールが先導してくれるおかげで、道を切り開いてくれるから歩きやすい。


それに、探知魔法を使っている素振りもないのに、まるで場所を知っているかのように迷いなく進んでいく。


(なんか……頼もしいじゃん)


普段、つかみどころのない彼だが、最近は今まで見えなかった一面を知ることが増えていた。


ドゥランと三人で旧校舎にいるとき、ナバールは時折、ドゥランの生徒会の仕事に助言をしている。

そのときは決まって、いつものふざけた調子はなりを潜め、まるで年長者のような威厳ある振る舞いを見せるのだ。


――そういう一面を見るたびに、どれが彼の本当の顔なのか、わからなくなる。


「そろそろかな……気配が濃くなってきたね」


「確かに、ひりつく感じがしてきたかも」


魔力の気配が濃い。

今の一瞬、背筋がぞくりとしたのは、きっと気のせいではない。


「で、潜んでるのはたぶん小型ドラゴンに間違いないと思うんだけど、どういう作戦にする?

シェリーちゃんが特攻かますの?」


「え、やっぱ私が先行? ……別にいいけど。

リストには弱点も何も書いてないから、この間習った特大の爆発魔法でいけるかな……」


さっき倒した大型の鳥型魔獣は、雷撃系に弱いという弱点があった。

そのため雷撃を放ったところ、一発で仕留めることができたのだ。


けれど今回は、リストに何も書かれていない。


弱点なし。


正直、どの系統で攻めればいいのかも未知数だった。


それでも、とにもかくにも――習ったばかりの新しい魔法を思いきり試したい。

結局、深く考えずにそれを使うことにした。


「いいねぇ。じゃあ後ろから応援してるね!」


「いや、ちょっとはサポートしてってば」


「ピンチになったら、さすがの僕も動くよ」


つまるところ、ピンチになるまで彼は動く気はないらしい。


呆れた目をナバールに向けるが、彼はそんな視線など気にする様子もなく、身体を前に向けたまま歩みを進めた。

やがて茂みの前で止まり、ゆっくりと顔だけこちらを振り返る。


「――いた。残念ながら、向こうもこっちに気付いてるね」


ナバールの隣までそっと移動し、茂みの向こうを覗き込む。

そこには、青く美しい鱗を持つ小型のドラゴンが、こちらをじっと見据えていた。


思わず、ゴクリと息を呑む。

視線が交わるだけで、そのオーラに圧倒されてしまう。


小型とはいえ、ドラゴン種は頭がよく、非常に厄介な存在だと学校で教わっていた。

頑丈で、魔法耐性も高い。


学生ごときに討伐できるのかは疑問だが、こうしてリストに載っている以上、

そこまで高レベルな個体ではないのだろう。


「よし、じゃあ――仕掛けるわ」


「がんばれー」


緩い声をかけ、完全に応援に回ったナバールのことは、一旦考えないことにする。

これから仕掛けるのは特大の攻撃魔法だ。巻き込む可能性もあるが、悪いが知ったことではない。


自分は魔法の詠唱というものが、いまひとつ理解できない。

そんなものがなくても、指先に魔力を乗せ、自分の言葉で命令すれば、その通りに魔法は発動してくれるのだ。


『目標は目の前の小型ドラゴン。鱗が薄そうな胸を狙って爆発して』


腕を大きく振り上げる。

そしてドラゴンの胸を指さすように、そのまま素早く振り下ろした。


その瞬間――

凄まじい爆発音とともに、爆風が巻き起こった。

地面が揺れ、木々が大きくしなる。


(気持ちいい~っ!!!!)


授業でやったときとは違う。

格段に大きな威力に、思わず爽快感に包まれる。


しかも、爆風に煽られて前は見えないが、確かな手応えがあった。


「ナバール、一発で仕留めちゃったかも!」


彼のほうをくるりと振り返り、とびきりの笑顔を向ける。


けれど――


ナバールは、今までにないほど驚いた顔で目を見開き、こちらを見て叫んだ。


「シェリーちゃん、危ないッ!!!」


え、と思って振り返ると、ドラゴンの鋭い爪が、すぐ目の前まで迫っていた。


全く終わってなどいなかった。

向こうは無傷で、怒り狂った様子でこちらに反撃を加えようとしている。


すべての動きが、スローモーションのように見えた。


咄嗟に防御魔法を身体に展開し、衝撃に備える。

本能で感じた恐怖に、目をぎゅっと閉じた。


しかし――

その衝撃は、一向にやってこない。


「油断しすぎ」


(え……)


目を開けると、ドラゴンの動きがぴたりと止まっていた。

顔のすぐそばにある爪は、自分に届く気配がない。


慌てて後ずさりし、ドラゴンから距離を取る。

すると背後から、ナバールに片腕で抱き寄せられた。


体重が彼にかかり、もたれかかるような体勢になる。

それでもナバールは、びくとも動かなかった。


彼はもう片方の手をドラゴンに向け、ぎゅっと握り込んでいる。


「拘束魔法、三分しかもたないけど、どうする? 続きやる?」


頭上から顔を覗き込まれ、思わず口をぱくぱくさせた。


「こ、拘束魔法って、魔獣に効くんだっけ?」


口から出たのは、彼が使っている魔法のことだった。

対人用に開発されたこの魔法が、魔獣にも有効だなんて聞いたことがない。


「効いてるんだから、効くんじゃない?」


「ええー……」


(なんだ、その強引な考えは)


けれど彼の言う通り、ちゃんと動きを止めている。

理屈ではなく、確かに効いているのだろう。


「うーん、正直、自信ない。だって、さっきの特大魔法が、たぶん私の一番大きな攻撃魔法だったから」


こういうとき、強がるのは命を縮めるだけだ。

自分の力量と相手の力量を正確に見極めることこそが、長く生き残る術だと思っていた。


ナバールはにこりと頷き、口を開いた。

きっと、リタイア笛か逃げ隠れ帽子を使おうと言うのだろう――そう思ったのだが。


「わかった。じゃあ、代わるね」


「へ!?」


予想と違う答えに、思わず間抜けな声が出た。


ナバールはシェリアーナから体を離すと、拘束魔法を維持したまま、動きを止めているドラゴンへと近づいていく。


『頭を垂れよ』


彼の口から、聞き慣れない言語が放たれた。

森の空気が、震える。


シェリアーナには、彼が何と言ったのか理解できない。

おそらく、彼の母国語であるザイアス語で何かを呟いたのだろう。


ナバールは、拘束魔法を維持していた手をゆっくりと開く。


その途端――


ドラゴンが、その場で頭を地面へと下げた。


彼はなおも続ける。


『鱗をくれるなら、見逃してやろう。

この国の者は、おまえをまた討伐に来るかもしれん。

もっと奥へ――もしくは、ザイアスへ逃げろ』


シェリアーナには、目の前の光景が

まるで物語の一場面のように思えた。


魔法を行使する青年。

その前で服従の姿勢を見せる野生のドラゴン。


青年の顔は、まるでドラゴンを従える王のようで――


瞬きもせず食い入るように見つめていると、

ドラゴンが「きゅる」と一鳴きした。


そして長い首を背中へ向ける。


その様子を見て、ナバールが振り向いた。


「背中の鱗、一つくれるってさ。やったね!

シェリーちゃん、取っていいよ」


「え、私がっ!?」


「うん、貴重だよ~こんな経験」


確かに貴重だ。

だが、その貴重なチャンスを自分に譲ってしまっていいのだろうか――。


「早く早く。彼女の気が変わらないうちに」


「あ、メスなんだ……」


緊張感に欠けるのか、シェリアーナは変に怯えることもなく、ドラゴンへゆっくりと近づいた。

そして鱗を一つ、そっと取る。


その際、「さっきはゴメン」と謝るのも忘れない。


シェリアーナが鱗を手にしたのを確認すると、ナバールが再びあの言語でドラゴンに声をかける。


『ありがとう。もう行っていい』


ドラゴンは、大きめに「きゅるる」と一鳴きすると、翼をバサッとはためかせ、そのまま森の奥へ飛び去っていった。


二人でその姿を見送ると、羽ばたきで巻き起こった風は止まり、森には一瞬、静寂が訪れた。


「よし、そろそろ時間だね。さっさとスタート地点に帰ろうか」


隣にいるシェリアーナを見下ろし、ナバールはもう用はないとばかりに歩き出そうとした。


「え、待って。その前に……今の、何?」


ドラゴンは去った。さあ帰ろう――ではない。


なぜあのドラゴンがナバールの言うことを聞いたのか。

そもそも、彼が喋っていたのは魔法だったのか。


何もかもがわからない。


シェリアーナはナバールの服の裾を引っぱり、前に進もうとする彼を引き止めた。説明してもらうまで帰る気はない、という意味を込めて。


ナバールはシェリアーナを見下ろし、口元に手をあて、やや困ったようにして言った。


「何って、鱗をちょうだいって言っただけなんだけど」


「それはなんとなくわかったんだけどさ。

え、それって……誰でもできるものなの?」


自分で聞いておきながら、答えはもうわかっていた。


「まさか! ――ま、僕だしね!」


いつものナバールの口癖。


そしてシェリアーナも、いつもの返しを口にする。


「そうだね……ナバールだもんね……」


項垂れながら、彼の服の裾を離す。

すると、代わりにまた、手を繋がれてしまった。


「よし、じゃあ戻ろう」


「待って、もう一つ。これ、忘れないうちに返しておくね」


繋がれていない方の手で、先ほど剥いだ鱗をナバールの前に差し出す。

青い綺麗な鱗は、木々や空の色を反射してか、不思議なグラデーションを描いていた。

硬く、それでいてこれまで触れたことのない手触りをしている。


「ん、あげる」


「なんで?」


間髪入れずに、シェリアーナの口から疑問が飛び出した。


「もともと、シェリーちゃんにプレゼントしようと思って、こんなところまで来てたんだよ。

渡す手間が省けて良かったよかった」


ハハっと笑うナバールだが、そんな大層なプレゼントを貰う謂れはない。

しかも、自分はドラゴン討伐に全く役に立たず、自分の命すらナバールが助けてくれたのだ。


「もらえないよ! ドラゴンにお願いしたの、ナバールだし……

私、何もしてないし……

あ、お礼言うの忘れてた。助けてくれてありがとう」


「ふふっ、どういたしまして。

僕に恩を感じてくれたのなら、貰って?

売っぱらっちゃってもいいし、アクセサリーにするのもいいし、そのまま飾ってもいいし。

好きにしてくれていいから」


口では軽く言っているが、シェリアーナを見る彼の赤い瞳は、真剣そのものだった。


「――売るなんてもったいないことできないよ。

このままの形で、家のどこかに飾らせてもらうね」


「うん! 良かった。ここまで来た甲斐があったなぁ」


嬉しそうに破顔し、繋いだ手をブンブン振るナバールに、

シェリアーナは顔を伏せた。


(これは、まずい……顔が熱い)


少しばかり――


いや、かなり。


胸が高鳴っている理由が、何故なのか。

自分でも説明がつかなかった。

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