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後日談3.仕返し

昼休み、カティナはシェリアーナを探して、旧校舎へ続く廊下を歩いていた。


つい先程、担任のアリア先生から

「もしシェリアーナを見つけたら、職員室に来るよう伝えてほしい」と言付けを預かったのだ。


ちょうど昼食を終え、教室で手持ち無沙汰にしていたところだった。

一緒にご飯を食べていた彼氏のトリスタンは、本を返しに行くと言って図書室へ向かってしまった。


教室に残る理由はない。

カティナは旧校舎へ足を運ぶことにした。



最近、シェリーは生徒会のドゥランと親しくしている。

これまでまったく接点のなかった二人が、どんな経緯で仲良くなったのかはわからない。


シェリーに尋ねても、いつも言葉を濁されてしまうからだ。

それでも最近は、ほぼ毎日と言っていいほど、昼になるとドゥランがシェリーを迎えに来るのが定番になっていた。


二人はいつも、昼になると教室を出て、どこかへ行ってしまう。

シェリーにそれとなく尋ねたところ、旧校舎の備品庫で、一緒にごはんを食べているのだと教えてくれた。


どうしてそんな埃っぽい場所で、と思ったが、旧校舎は普段ほとんど人が来ない、いわば穴場だ。

きっと、静かに二人だけの時間を過ごしたくて、わざわざそこまで足を運んでいるのだろうと納得した。


そして――備品庫といえば、シェリーがよくそこで見かけていたという猫のことを思い出す。



"幻の猫"、はっちゃん。



『備品庫に行ったらいるんだよ!はちみつ色のキレイな毛並みの美猫様!あーカティナにもあの猫様の毛並みの素晴らしさを感じて欲しいわ!』


シェリーは備品庫に行くたびにこんなことをしょっちゅう言っていたが、クラスの誰も――それこそシェリー以外の全員――学校のどこでもその猫の姿を見たことはなかった。


みんなからは「幽霊猫だ」「イマジナリーフレンドじゃない?」などと散々言われていたのだが、一度、シェリーが制服に猫の毛をつけて教室に戻ってきたことがあった。

それ以来、自分は、“幻の猫”はちゃんと実在する猫なんだと信じるようになった。

最近はシェリーの口からはっちゃんの名前をパタリと聞かなくなってしまったのだが、元気にしているのだろうか。




久しぶりに足を踏み入れた旧校舎は、しんと静まり返っていた。

とはいえ、カティナ自身は数えるほどしかここへ来たことがない。創立祭の準備で備品庫に何度も足を運んでいたのは、備品担当のシェリーのほうだ。


旧校舎の一階には、普段は備品庫として使われている教室がいくつも並んでいる。

古めかしい扉はどれも施錠されている様子はなく、中には開け放たれたままのものもあった。


Aクラスが創立祭で使用していた教室は、廊下の一番奥にある。

おそらく――いや、きっと、シェリーはいつもそこでドゥランと過ごしているのだろう。


カティナは迷うことなく、廊下の奥の教室へと足を進めた。





「く、くすぐったい……ねぇ、そろそろ……」

「いえ、まだ足りません」


カティナが教室の手前まで来たとき、聞き覚えのある声と、もう一人――男子生徒の声が耳に入ってきた。


その声に、かすかに甘い雰囲気を感じ取り、思わず足を止める。



(これは……)



シェリアーナは、ドゥランとは恋人同士ではないと、きっぱり否定していた。

しかし、静かな教室で二人きり――そう思わずにはいられない状況である。


ほんの少しの好奇心から、カティナは魔法を展開した。

それは、半径五メートル以内に限られるが、目的とする対象を、障害物に遮られることなく透かして見ることができる魔法だ。



通称、のぞき見魔法である。



(どれどれ……)



あの恋愛に対する興味が爪の垢程もないシェリアーナが、もしドゥランとイイ感じになっていたら……


ドキドキする胸を押さえながら、カティナは目を凝らした。


すると⋯⋯予想をはるかに超える光景が、彼女の目に飛び込んできた。



教室の窓際で、ドゥランは壁を背に、足を広げて座っている。

その足の間に、シェリーが座り、後ろからぎゅっと彼の腕に抱きしめられていた。


しかも――ドゥランは、その整った顔をシェリーの首筋に埋めているではないか。



「!!!!!!」



あまりの衝撃的な光景に、カティナは力が抜け、へなへなと床に座り込む。

魔法も、自然と解除された。


(ななななに今の光景?え⋯⋯あれで付き合ってないっていうの?うそでしょ!?)


邪魔はしたくない。

したくはないのだが、先生からの言付けもある。

それに、何より、もっと近くで二人の関係性を確かめたかった。


カティナは勇気を振り絞り、少し隙間が空いた扉の前までやってきた。

そして、大きく息を吸い込み、勢いよくその扉を開ける。


「シェリー、邪魔してごめん……!」


突然やってきたカティナに、二人は驚いた表情で彼女を見上げる。先ほど覗き見したとおりの、密着した状態で。


「カティナ!?」


シェリーはそう言うと、慌てて彼の腕の拘束を解いて、こちらへと駆け寄ってきた。


「ど、どうしたの?何かあった?」


自分が二人の抱擁を目撃したせいか、シェリーの声が動揺でちょっと上擦っている。


「アリア先生が、職員室に来てほしいって……あ、見つからなかったって言っておこうか!?」


気を利かせてそう申し出るカティナに、シェリアーナはすぐに答えた。

「え、いいよ。今から行ってくるわ。わざわざ伝えに来てくれて、ありがとうね!」


そう言うと彼女は、そそくさと荷物をまとめてドゥランの方を振り返り、

「ごめん、ドゥラン。またね」

と言い残して、備品庫を出て行ってしまった。


残されたのは、ドゥランと自分の二人。


正直言って、彼とは互いにほとんど面識がない。

けれど、はっきりさせておきたいことがあった。

そこで、同じく荷物をまとめて出ようとしている彼に、思い切って尋ねてみた。


「ドゥラン君とシェリーって、付き合ってるの?」


シェリーからは否定されていたが、実は……なんてこともあり得る。

ほぼ毎日、さっきのようにイチャついているのだとしたら、むしろそうであってほしかった。

しかし――


「いえ、シェリーさんとはそんな関係じゃありません」


ドゥランは、いつも通り表情をぴくりとも変えずに、そう言い切った。


その返答に、カティナは眉をピクリと動かし、すぐさま苦言を呈した。


「えっと……付き合ってないのに、ちょっと距離感おかしくない?」


「いえ、いつもあんなもんです。いつも私がシェリーさんに抱きしめられたり、身体を撫でたり、匂いを嗅いだりしてくるので、さっきはその"仕返し"をしていただけですよ」


「お……おおん、そうなの……」


シェリーってば、何て積極的なの!と、カティナは驚きで不思議な返答をする。


ちなみに、彼女は気付いていない。

さっきのドゥランの言葉には、「猫の」という枕言葉が抜けていたことを――


カティナは頭を抑えながら、ドゥランに小さく呟く。


「……わかってると思うけど、あの子めっちゃ鈍いから、ほどほどにしてあげてね……」


カティナの言葉に、ドゥランは一瞬考え込む。

そして、ぽつりと「善処します」と言った。


いつもは硬い表情のドゥランだが、そのときの彼には、わずかな柔らかさが滲んでいた。



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