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創立祭明け4日目:共犯者とその秘密


「どういうこと?」

「最初、ドゥランが、シェリーちゃんを運ぶって申し出たんだ。彼、Aクラスで女子たちに引き留められてたからまだ教室にいたんだよね。」

「でも、Cクラスのダルカス先生に、自分が連れて行くから大丈夫と言われて、断られてしまいました。」

「それで、なんかドゥランが複雑な顔してたから『認識阻害の魔法使って、連れ出しちゃえば?』って唆したんだ。」

「私はナバールさんの言葉に背中を押され、認識阻害魔法を展開して、あなたを保健室に運びました。」


…いや、そこまでして生徒会としての職務を全うしたいのか?

シェリアーナとしてはその辺のドゥランの心境は理解し難いのだが、それは置いておくとして…


「なるほど。で、それで認識阻害魔法を使ったから、誰が運んでいったかは記憶が曖昧になった…でも、それだけじゃ説明がつかないよね?」


ドゥランが使った魔法では、他者の行動を制御することなんてできないのではないだろうか。

彼の説明では、"自分の姿を見たものの記憶が曖昧になる"というものだったはず。

それなのに、カティナもティラントも、自分が運ばれたことを()()()()()()()、安心して後片付けをはじめた。そして何故か様子を見に行くこともなく、真っ直ぐ家に帰ってしまった、と言っていた。


「もしかして、みんながシェリーちゃんの様子を見に行かないで、帰っちゃったことを気にしてる?」

「あ、うん…」


みんなが帰ってしまったことに拗ねているわけではない。

ただ、カティナたちは後片付けを終えるやいなや、まるで何かに取り憑かれているみたいに真っ直ぐ家へと帰ってしまったという。

それがどうにも不思議で、まるであの場の全員が、何かしら別の魔法にかかってしまったかのように思えた。


「あれはねー、僕の魔法。みんながシェリーちゃんを忘れて帰った訳じゃないから安心して。ドゥランがシェリーちゃんと教室を出たあと、僕がみんなに暗示をかけたんだ。"シェリーちゃんは保健室に運ばれました。付き添いも不要です。安心して帰ってね。"ってね。それで、ドゥランは誰にも邪魔されることなく、保健室までシェリーちゃんを運ぶことができましたとさ。ちゃんちゃん。」


ティラントが『何故かシェリーは保健室に運ばれたっていう共通認識が出来てた。それで何故か様子も見に行かないでみんな真っ直ぐ家に帰った。』と言ってたが、それらは全てナバールの仕業だったと?


「暗示魔法って…私ら習ったっけ?」

「ま、僕だからね!そこはドゥランの認識阻害の魔法を転用させて貰ったんだよ。あれも暗示の一種だからさ。先生たちにも効いてほんと良かった~」

「うん、ナバールだもんね…」


ナバールはなんでもかんでも「僕だからね!」で済ませる癖がある。

彼が実はドゥラン並みに規格外な行為をしていたことを、シェリアーナは「ナバールだし」と深く考えないことにした。


「でも、なんでそこまでして私のこと運びたかったの?普通に重いし酒臭かっただろうし、先生が運んでくれるっていうなら任せときゃ良かったのに…。」


シェリアーナが素朴な疑問を口にすると、ドゥランもナバールもきょとんとした顔で彼女を見る。


「シェリーちゃん…」

「あ、ごめん、さっき生徒会の仕事だからって言ってたか。」

「…」


それほどまでに生徒会の者として生徒一人に責任を持ってるとか、色々ぶっ飛んでる部分はあるが、やはりドゥランは真面目な人なのだとシェリアーナは思う。


「ほんと、改めてありがとう。生徒会の見回りも残ってたと思うのに、付き添いまでしてくれて…」


「いえ。」


短く返事をしたドゥランは、ナバールにちらっと視線を送った。


「運んだのは私ですが、ずっと付き添ってあげていたのはナバールさんです。保健室で彼と交代した私は、生徒会館に戻りました。」


「え?」


シェリアーナはドゥランに向けていた身体を、隣にいるナバールへと向き直す。


どうせいつもの調子で「うんうん、僕がやってあげたんだよ!」と恩着せがましいことは言ってくるかと思いきや、意外なことに、腕を組んで「あー…」とドゥランにバラすなよ、とでも言いたげな目線を向けている。


「…ドゥランは生徒会の見回りの途中だったしさ、交代してあげようかと思って。親御さんが迎えに来るまで、グースか寝てるシェリーちゃんに僕が付き添ってたんだ。あの部屋、超酒臭かったな…」


珍しくテンションが低い。きっと思い出したくもないくらい匂いがキツかったんだろう。


「なんかごめん…じゃあ私の両親が平謝りしてた相手って、ナバールだったんだね…。ああ、本当、私色んな人に迷惑かけてるな。もうお酒は飲まない、ダメ、絶対。」


「そうだね。」「そうですね。」


シェリアーナは二人には申し訳なさを感じつつ、ようやく、犯人がわかってスッキリした気分になっていた。


キスの件も、深い意味があったわけではなく、猫に噛まれただけ。ついでに自分にしか見えない幽霊猫とまで言われたはっちゃんの正体もわかった。


「ドゥランさん、お時間頂きありがとうございました。このあと生徒会の仕事があるって言ってましたよね、時間大丈夫ですか?」

「実は過ぎてます。」

「え、言ってよ。早く行きなよ。」


生徒会館まで遠いのに、なぜこんなにものんびりしてるんだこの人は。

ドゥラン本人よりも慌てる様子を見せるシェリアーナに、ナバールが教室の奥を指差して言った。


「そこの棚の裏、転移式があるんだよね。それで生徒会館まで一瞬で着くから、余裕こいてるんだよ。」


「そのとおりです。でも、そろそろお暇しないとダンテさんに本気で絞められちゃうんで、もう行きますね。」


ドゥランはそう言うと教室の奥へと移動を始める。そして、転移式があるであろう棚の前で振り返り、シェリアーナに向かって告げる。


「私、昼休みのほとんどは猫してるんで、また遊んで下さい。蒸しパンはノーマルなものが好きです。あと、頭よりお腹を撫でられるほうが実は好きです。では。」


シェリアーナが返事を返す前に言いたいことだけ言って、彼の姿が消えた。



「…頭より、お腹撫でられるのがいいの…?」

「餌付けの効果ってすごいねぇ。めちゃくちゃ懐かれてるじゃん。」


本当に彼の言うとおりだ。

せっせと餌付けした結果、また遊んで下さいと人間の彼に言われてしまった。


「じゃあ、僕らもそろそろ行こっか。お腹空いたよ。」

「あ、そうだね。付き合ってくれてありがと。ランチおごるよ。」

「ええ、やったー!太っ腹!シェリーちゃん最高だね!」





「そういえばさ、ナバールって三年になったら会長に立候補するつもりだったの?」


カフェテリアに向かうまでの間、シェリアーナは先程のドゥランとの会話の中で、気になっていたことをナバールに確認する。


彼が一年のときから、三年になってからの会長を目指していたなんて、聞いたことがなかった。


「うん、そうだよ。」

「初耳だったんだけど。」

「だって聞かれてないしね。」

「そうだよね、聞かれてないもんね…」


シェリアーナは遠い目をしつつ、思っていたことを言う。


「でも、ちょっと意外かも。お祭りごとは進んで参加するけど、生徒会とか学園のためっていうようなものに興味ないと思ってた。」

「興味のあるなしに、将来のために、やっといて損はないかなーって。だって、学校牛耳れるくらいじゃなきゃ、国なんて纏められないじゃん?」


ん?どこかで聞いたセリフだな…


「ナバール」

「なに?」

「生徒会の仕事ってどんなだと思ってる?」

「王様の仕事と比べたら、子供の遊戯みたいなもんなんじゃない?」


やはり、どこかで聞いたぞ、これ。


シェリアーナは強烈な既視感に襲われる。

そして自身が考えついたことへの確信を得たくて、さらに質問を続ける。


「ちなみに、ダンテ会長とはいつ知り合いになったの?私らが入学したとき留学中でいなかったって話だったよね。」

「彼は幼馴染みたいなもんなんだよ。小さい頃から、よく()()()()に外交で遊びに来てたからねー。でも、短期留学するなら、僕が向こうにいるときにしてほしかったよ〜。僕がせっかくこっちの学校に入学したってのに、入れ違っちゃってねぇ。」


ダンテ会長はこの国の第二王子。彼とは幼馴染らしい。


「さっき将来のためって言ってたけど、」

「ああ、うん、将来のため。一応宣伝しとくと、うちの国、色んな国の移民が興した歴史の浅い国だから、考え方がみんな違って刺激的だよー。自由が売りだし、実力主義だから身分差もほとんどないし、宗教も文化も人種も様々で面白いし、魔法もここと体系が違ってて新鮮だと思うよ〜。ね、シェリーちゃんも、将来は絶対こっちで就職しなよね。その前に、来年は一緒に生徒会しようねー。」

「…」


ニッコニコの笑顔で矢継ぎ早に告げられたのだが、シェリアーナの思考は、ドゥランに、猫です、とカミングアウトされたとき以上に混乱を極めていた。


「えと、ナバールって、王子様?」

「はは、そうだね。」

「聞いてないんだけど。」

「だって聞かれてないし。」


そうだった。彼は自分の利にならないことは、聞かれない限り答えないんだった。


「でもさ、これ、まだ秘密なんだ。」


彼はにこりと笑みを浮かべてシェリアーナに視線を向けたが、すぐに残念そうな表情に変わり、歩みを止めた。


「だから、ごめんね。『備品庫を出てから今までの記憶は忘れて』ね?」


普段魔力には鈍感なシェリアーナだが、今自分の隣にいるナバールからは凄まじい魔力が溢れ出ているのを感じた。


経験したことがない魔力の渦にのまれ、混乱を極めていたはずのシェリアーナの頭が次第にクリアになっていく。


頭にあるのは、「あー今日のランチ何食べようかな?」ということだけ。


気付けば、なぜかシェリアーナは廊下で立ち止まっており、ナバールが彼女の顔を覗き込んでいる。


「あ、れ?ごめん、ぼーっとしてた。そうだ、何食べたい?」

「やっぱり日替わりかなぁ!毎日メニューが変わるから飽きないよねー」



二人はのんびりと他愛もない話をしながら、旧校舎を後にした。



あと2話くらい

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