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創立祭明け4日目:理由と謎の解明

その後、同じ一年Sクラスのビクターとマグノリアンに声をかけ、無理やり巻き込むことにした。

最初は難色を示されるかと懸念していたのだが、二人も自分と同じくそろそろパンク寸前だったらしく、二つ返事で協力してくれることになった。


そこから授業の合間の隙間時間や昼休憩を利用し、自分たちのわかる範囲で現状の生徒会タスクをすべて洗い出して、一覧にまとめた。

すると、出るわ出るわ、不要なタスクの数々。


なぜこの作業にメンバー全員が必要なのか、なぜこの時間に見回りをしないといけないのか、なぜ生徒会の範疇外の仕事まで引き受けているのか、なぜ、なぜ、なぜ。

業務管理は三年生の役員たちに全て任せていたのだが、きっと彼らも全て把握出来ていなかったに違いない。


しかも、それらのタスクに割り当てられてる担当を見ると、ビクター、マグノリアンの二人に比べ、自分が担当しているタスクの比重が圧倒的に多いことが判明した。

要領がいいのか悪いのか、振られた仕事は全てこなしていたのだが、まさか通常の三倍もの作業が、自分一人に割り当てられていたとは。その内容も、明らかに負担の多いものばかりだった。

それを見たビクターとマグノリアンからは、「前に相談してくれたとき、僕たちの方が大変だ、なんて言ってごめん」と素直に謝られてしまった。


けれど、自分たちの異常な忙しさは、こうして可視化しただけで簡単に改善できたことでもある。いかにリソース管理が杜撰だったかを、身に沁みて思い知らされた。


「一年生だからって、黙って従ってたツケだよねー。まあ、言ったところで聞いてくれる連中でもなさそうだけど。」と、ナバールさんからは言われてしまい、なんの反論もできなかった。


こういった現状の問題点と改善案をまとめ、会長に直談判に行ったのだが、自分たちの予想通り、資料を一瞥することも無く却下されてしまった。仕方なく、手続きに則り総辞職を要求し、会長選の再選挙を行うことになった。

裏ではナバールさんが、留学から戻ってきたばかりのダンテさんに、会長選に立候補してもらうよう交渉していた。


そしてジガルデ会長、ダンテさんの二名(他に立候補者がいなかった)で再選を行った結果――ダンテさんが圧勝した。

ナバールさんから聞いた話だと、どうやら、生徒たちも今の生徒会はやり過ぎだと、見えないところで不満が募っていたらしい。


そうして、自分とビクター、マグノリアンの三名はそのまま続投で、残りのメンバーは新しく会長となったダンテさんが指名したメンバーに総入れ替えとなった。

元メンバーからは「裏切り者」だのなんだのと散々言われたが、実際のところ、彼らがこちらの意見に耳を傾けようとしなかっただけの話である。結局、彼らは肩身の狭いまま卒業していった。


新しい生徒会では、不要と判断された悪しき伝統や業務が一掃された。業務は一人に負荷が集中しないよう、すべてペアで割り当てられた結果、確認の機会が増え、ミスも減少した。また、「メンバー同士が気軽に意見を交わせる場にしたい」との思いから、会長のダンテさん自らが率先して風通しの良い環境づくりに取り組み、今では和気あいあいとした雰囲気の生徒会へと生まれ変わった。



こうして、半分死んでいた僕は、息を吹き返すことができた。





「私も薄っすらと記憶あるんだけど、一年の時、突然今の生徒会長に変わったよね。あれ、裏で糸引いてたのナバールだったってこと?」


「ふふ、そうそう僕だよ、僕。もちろん、ドゥランや彼と同じ生徒会のビクター、マグノリアンにも協力して貰って、他にも色んな人を巻き込んだ結果でもあるけどね~」


一年の後半、朝シェリアーナが学校に登校すると、校内報があちこちで配られており、生徒会メンバーの半数以上が入れ替わったことが報じられていた。

シェリアーナは「ふーん、あ、会長代わったのね」と軽く受け止める程度(その前に会長選もやっていたはずなのだが、全く覚えていない)だったのだが…その頃からだろうか、生徒会自体が高潔な集団という雰囲気は変わらないものの、形式だけでなく、実際に頼りになる存在になったように感じられたのは。


(トップが変わるだけでこうも変わるものなんだな…)


「会長がダンテさんになってからは、ようやく私も学生らしい生活を送れるようになりました。ですので、ナバールさんは私にとって恩人なんです。おかげさまで、猫になって校内をお散歩できるくらいの余裕もできましたし。」

「僕に感謝だよねー。」


ナバールがうんうんと頷いているが、シェリアーナはそこに待ったをかける。


「まって!その謎がまだ残ってた!猫のくだりが今までの回想に全く入ってなかったんだけど、結局どういうことなの?」

「だから、ストレス発散です。」

「いや、それはわかったからさ…」


ストレス発散で、猫になる。なぜに。

…やはりハイレベルな人が考えることは、常人には理解しがたい。


「会長がダンテさんに代わって色々な業務が改善されたといっても、生徒会の仕事は相変わらず忙しいし、責任も重いです。さすがに休み時間を返上してまで、なんてことは無くなったのですが、やはり行事前は必然的に業務量も増えます。ああ、誰かの助けが欲しい、猫の手も借りたい、ああ、人間やめたい…そうだ、猫になろう。で、擬態の魔法を思いつきました。」


「あなたの思考回路どうなってるのさ。」


シェリアーナはもはや取り繕うことを忘れて、Aクラスのみんなに接する気安さでドゥランにツッコみを入れる。


「簡単に言うと、現実逃避ですね。どうやら、僕は一定のストレスを抱えると、魔法でどうにかしようとする癖があるようです。擬態魔法も適当に考えて自分なりに構築したものなので、正直細部は甘いと思いますが、なんとか猫の形をとることに成功しました。」


擬態魔法なんて習ったところでできない人も多いはず。

天才、怖い。


「けれども、猫というのは思いの外、目立ってしまうらしく、校内をうろついていると色々な人が構ってくるんですよ。それが煩わしくて…だから、猫になった上で認識阻害の魔法をかけるようになりました。」


「さっきから聞いてると、とんでもない魔力量を消費してる気がするんだけど…」


「そこは私、わりと無尽蔵なんで。」


「…」


もはやツッコむまい。


「それで、その二つの魔法を展開しながら、授業外の好きな時間、学校内を気ままにうろうろしたり、旧校舎でのんびり昼寝をしたりして楽しんでいたのです。会長にはすぐにばれてしまいましたが、散歩は見回り業務みたいなもんだから好きにしていいよ、と言われています。ナバールさんにももちろん見つかってしまいました。そして数か月前…あなたにも猫の姿を見られてしまった、というわけです。」


「はっちゃんに初めて会ったのって、創立祭の準備が始まったばかりのときだよね…。え、あのとき認識阻害の魔法、かけてたの?」

「はい。制御装置を外し、猫の擬態、認識阻害と私の全力で魔法を行使してたんですが…あなたに見破られ、率直に驚きました。」


全然、気が付かなかった。


シェリアーナは自分が魔法に長けていると自負していたが、魔力の気配には鈍感だった。

というより、全力を出してまで猫になって散歩したかったのか。


「シェリアーナさん、あなたは本当に、息をするするかのように魔法を操る。指の動きだけで魔力を操り、簡単な命令一つで魔法を行使する。ダンテさんは別格だとしても、ナバールさんもあなたも、相当な実力を持っていて、自分は生まれ持った才能の上に胡坐をかいてたということを実感させられました。」


「いや、私らの場合、正式に授業で魔法を習ってるからね?あなたの場合、独学で魔法構築してるんでしょ?こっちからしたらあなたのほうが規格外なんだけど。」


しかもSクラスの難解なカリキュラムをこなせる、魔法以外の実力もある。

トータルのスペックとしては、ドゥランの方がシェリアーナの何百倍も上だろう。


「で、それは置いといて。ニャンコの件なんですが、」


ドゥランは無表情のまま、両手を横に置く動作をする。

真面目な顔をして、動作や言動が要所要所でおちゃめな人である。


「あの猫になる擬態魔法、すこし、欠点がありまして。あの姿になると、猫本来の習性に引っ張られてしまうんです。例えば、必要以上に人間に警戒したり、かと思ったら餌をくれる人には自ら擦り寄っていったり…人間の理性でなんとか思いとどまっていても、『ま、いっか!いま猫だし!』と本能のまま行動してしまうことが、多々ありました。」


「あー…なんか、思い当たることがたくさん…」


はっちゃんの餌付けに成功してからは、彼の方からシェリアーナの足元に擦り寄って来てくれた。

手をクンクン匂ったり、身体をすりすりしたり、床の上のオヤツをガツガツ食べたり…確かに人としての理性があれば絶対やりそうにない行為である。


「もし、不快な思いをさせていたならすいません。」


「いや、猫に罪はないよ。寧ろ、こちらこそ猫吸いを許してくれてありがとうございます。」


あれは、控えめに言っても最高だった。できればまたしたい。

…はっちゃん以外の猫で。


「シェリーちゃん、創立祭の打ち上げの時のこと、ちゃんと聞いとかなくていいの?やたら気にしてたじゃない。」


今まで口を閉じていたナバールが、打ち上げの話を掘り返してきた。


(ああ、それ蒸し返しちゃう?終わったと思っていたのに…)


「ええと、みんなあなたが運んでくれたことを覚えてないって言ってたんだけど、それも認識阻害の魔法を使ったってこと?」

「はい、その通りです。ただ、あのときはナバールさんの力添えもありました。」

「ん?どういうこと?」

「僕は共犯者だったってことだよ、シェリーちゃん。」




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