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およそ一年前:彼の苦悩と解決策と②


「あの、一応、生きてます。」


「うわ!生きてた!なおさらヤバいね!ほとんど死にかけてない?大丈夫?保健室行く?」


「大丈夫です。体調は問題ないと思います。」


一年Aクラス、ナバール。


この学園のほとんどの生徒の顔と名前は憶えているので、彼のことも知っていた。

一年のAクラスは、何かと話題になる生徒が多く集まっているクラスだったが、その中でも彼はひときわ目立つ存在だった。

褐色の肌、黒く長い髪そして赤色の瞳と、この国では見かけない容姿を持ち、外見だけでなく、学年、性別、身分関係なく広い交友関係をもつ。

今まで彼と喋ったことはなかったが、ひどく明るい性格をしているようだ。


「君、一年の生徒会の子でしょー?確か…ドゥラン、とかそんな名前だっけ?いつも朝に校門のところで挨拶してるよね。僕はナバール、同じ一年生で、Aクラスだよ!いや、ほんと、君らえらいよね、よくやるよね~。ねえ、生徒会の人ってみんなマゾなの?なんかずっと忙しくしてるっていうか、いろいろ非効率っていうか、生徒置いてけぼりで生徒会だけ頑張って一人歩きしてるって言うか…あ、いつのまにかディスっちゃってる!悪気は、うん、ちょっとあるかも!ごめんね?」


なんだ、この人。

初対面の自分に、あまりに正直すぎやしないか。


それに…まだ認識阻害の魔法は継続しているはずなのに、なぜこの人は自分のことを認識できているんだ?


「あの…僕のこと、認識できるんですか?」


「ん?認識?なんで?ああ、よく見れば、なんか君の周りに変な魔法が展開してあるね!ふむふむ、ちょっと解析…」


彼は自分の周りをぐるりと歩き回り、全身をくまなく眺めてきた。そして、


「へえ!面白い、普通の認識阻害と違って、完全に姿を見せなくするわけじゃないんだ!?」

「えと、はい、その通りです。…ちょっと見ただけで、そんなことまでわかるんですね。」

「僕だからね!ああ、でもちょっと惜しいなぁ…これだと君より強い魔力を持ってる人には普通に見えちゃうからなぁ。バレたくないなら、変装とかしといたほうがいいんじゃない?あ、もしかしてかくれんぼでもしてるの?この年になっても楽しいもんね!かくれんぼ!」


変装。


いや、ここは学校だ。

隠密行動をしているわけではないし、そもそもこれまでこの魔法が効かなかった者はいなかった。はず。

自分は魔力に関してはこの学校で一番だと思っていたのだが、上には上がいたようだ。


「いえ。かくれんぼは、してないです。ただ、一人の、自分だけの時間が欲しかっただけで。」

「ふーん?魔法を行使しなきゃいけないくらい、自分の時間が無いってこと?」

「はい。全く。10分確保出来たら、その日一日は良い日だったなって思うくらい。」

「はは、やっばー。幸せの基準低すぎて笑っちゃう。」


ほんとう、なんなんだ、なんて明るい声でバカにしてくるんだ。


そう言えば、と腕時計に目を落とす。

いけない、いつの間にか、生徒会の仕事をしなければならない時間が迫っていたようだ。


「そろそろ行かないと…すいません、ここで僕と会ったこと、内緒にしてくれませんか。バレたら色々面倒なので。」

「え、まだ昼休憩あと20分も残ってるよ?いいじゃん、せっかくだから、もうちょっと休憩していきなよ。」


彼は自分の服を掴み、この場に引き留めてくる。

昼休憩はあと20分も残っている、ではない。

20分しか、残ってないんだ。


「いや、生徒会の仕事があるので。」

「ちなみにどんな仕事?」

「昼の巡回です。」

「よし、行かなくてよし!君一人くらいいなくても大丈夫大丈夫。」

「いや、そんなわけには」

「いいからいいから。あんな巡回なくてもいいくらいだよ。監視されてるみたいでいい気しないし。てか、僕から見ててさ、今の生徒会の人ら、異常だよ?さっきも聞いたけど、君もマゾなの?仕事中毒?学園のため!生徒のため!なんて言ってて、君らも生徒じゃん。ね、いま楽しい?」


楽しいわけないではないか。


「ぜんぜん。」

「うんうん、君は毒されてないみたいだねー良かった!今年の生徒会長は上に立つものとして失格だよ。仲間のこと、全然見えてないもん。君はこんな顔色悪いっていうのに、仕事させてるってことだよね?なんであんな人が選ばれちゃったんだろうねー。」


彼が言ったことは、ぜんぶ自分がずっと言いたかったことだった。頭の奥ではやめとけ、と思いつつ、口から本音がこぼれていく。


「…その通りです。彼は、周りが見えてない。それに、自分の考えに固執する…自分以外のものの意見に耳を傾けようともしない。あの人は…会長に向いていない。」


今の生徒会長は現在在籍する生徒の中で、一番身分が高い傍系王族でもあるリクシー公爵家のジガルデ。

学園を良くしようという気持ちはわかるのだが、伝統を重んじ、新しいやり方を嫌う。どれだけ効率が悪いことだろうと、今までのやり方に固執する。その癖生徒のためだなんだと、見回りであるとか校内各所への相談箱の設置であるとか、余計なことを提案して作業を増やす。


人として悪い人ではないのだが、上に立つような人では決してないと思う。仕事の割り振りもうまくないし、生徒会の一人一人が今どの業務を担当しているのかを把握しきれてない。なぜなら彼は全て自分が知らないと気が済まない性格で、その結果、彼自身が回ってないからだ。

彼自身がプレイヤーとして業務をこなしているのもよくない。管理に徹底するか、会長職を降りて他の役職で業務に振り切るかしたほうが、みんな幸せだと思う。

でも、自分を含めた1年はともかく、他の3年の役員は会長を妄信している変態集団だ。他の役員が会長になったところで、何も変わらないだろう。


そんな胸の内を、目の前の男に見透かされてしまったらしい。


「いやあ、ちゃんと異常さに気付いててよかったよ!3年の会長含む他の役員は変態の集まりだからほうっておくとして、君みたいな優秀な人が潰れていくところは見たくないんだよねぇ。ね、ここで会ったのも何かの縁だよ!君、今の生徒会の在り方、思いっきり変えたいと思わない?」


「思いっきり変える?どうやって?」


「罷免するのさ。ちょうど、隣国からダンテさんが帰って来るしね。」


彼がダンテさんと言ったのは、いま隣国に一年間の短期留学に出ているこの国の第二王子ダンテ殿下のことだろう。


学年としては自分たちの二つ上、三年のジガルデ会長と同じになるが、留学の関係で、戻って来たら留年して二年生として在学するらしい。自分が入学したときは既に留学に行ってしまったので、直接会ったことはない。

しかし、彼がいたら、確実にダンテ王子が会長に就いていたことだろう。身分のこともそうだが、彼は人格者として知られていた。


「罷免って、そんなことできるんですか。」

「うん、過去にも何回かあったみたいだよ?会長を罷免して、生徒会総辞職。やだな、君、一応生徒会なんだから制度くらい知っときなよー。年度途中の選挙のやり直しとか、めちゃくちゃ楽しいビッグイベントだよね!創立祭よりワクワクするな~。」


いや、ワクワクとか、お祭りごとと比べるのは何か違う気がするのだが。


「でも、あなたには…関係ないことですよね?何か、生徒会に思うことがあるんですか?」

「ん?さっきも言ったけど、ぼくは優秀な人が潰れていくところは見たくないんだよ。ぼくが3年になったら、生徒会長になるつもりだからね。今のうちに優秀な人には育ってて欲しいんだー」

「え」


この男、生徒会長を狙ってるのか。でもなぜ3年?


「今、なりたいとは思わないんですか?」

「ん、今?ああ、だってまだ1年だし、この学校のこともっとちゃんと知ってからじゃないと。それにダンテさんがいるうちはあの人が一番適任だと思うし。で、どう?今のままの生徒会でいい?」

「…良くないです。できれば、すぐにでも変えたい。」


初対面の人なのに、今日はするすると本心が出てくる。

まるで、この男に魔法をかけられているかのようだ。


「ああ、昼休みに話するには時間が足りないなぁ!放課後、見回りだーっていってここに来なよ。待ってるからさ。」


彼に差し出された手を、固く握り交わす。


――彼と出会ったこの日からだ。真っ暗で希望が見えなかった毎日に、初めて光が差したと感じたのは。


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