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創立祭明け4日目:自分のような一般人には理解できないこと



言ってることが上手く理解できず、一瞬思考を停止しかけたシェリアーナだったが、なんとか気を取り直してドゥランへと問いかける。


「…猫の、…あなた、ですか?」

「はい。会うたび、あなたに愛でて貰っていた、はちみつ色のニャンコです。あれ、私。」

「ニャンコ…」


目の前の無表情美人の口から出たとは思えない、可愛いらしい表現に、思わずシェリアーナの意識が持っていかれそうになる。

違う、ニャンコ発言はどうでもいい。


「えと、もしかして、『はっちゃん』?」


シェリアーナの呼びかけに、ドゥランがこくりと頷く。


「ははっ、ほんと良いネーミングだよね。僕、シェリーちゃんから最初この名前を聞いたとき笑っちゃったよ。はちみつ色の毛並みだからはっちゃんって、安直すぎるし、シェリーちゃんの残念なセンスが可笑しくてしょうがな、ぎゃっ」


シェリアーナは余計なことを言うなと、ナバールの足を力いっぱい踏んづけた。

彼が黙ったところで、ドゥランは話を続ける。


「あなたが私の頭を撫で、抱っこし、創立祭の日に至っては全身にキスされました。あれだけやりたい放題させてあげたんだから、じゃあ、私も、と。」

「待って待って待って、色々語弊がある。あれはキスじゃなくて、猫吸い!匂い嗅いだだけ!しかも、猫、猫に、だからね!?いや、あなたが猫だってことについても詳しく聞きたいんだけどさぁ!?」


あの美猫様の正体はドゥラン。


昨日の探知魔法の時点で薄々そんな気はしていたが、意識的に気付かないようにしていた気がする。

でも、言われてみれば、猫でも人間でも髪の色はどちらも同じ蜜色だし、動物でも人間でも、美形は美形だ。


(いや、待てよ)


はっちゃんがドゥランだったとして。


シェリアーナは猫とはいえドゥランに餌付けし、頭を撫でまくり、猫相手に色々愚痴を語り、猫吸いまでして全身を堪能していた。


(……羞恥で死ねる!)


それはドゥランの方も同じだろうに、なぜ彼はこんな涼しい顔をしてるんだろうか。


「僕は彼が『はっちゃん』って知ってたよ。」

「へ」


ナバールの急な告白に、身悶えしていた彼女は一瞬にして動きを止めた。


「はい、ナバールさんは既に私がニャンコであることをご存知です。ちなみに、この学園で私が度々猫の姿になっているのを知っているのは、ナバールさんを除けば、生徒会長ただ1人です。」

「少なっ」


そして、今日、シェリアーナもその正体を知る記念すべき3人目となったというわけだ。


「でも、なんで猫になってウロウロしてんの?」


シェリアーナは正直疑問に感じる。

なぜなら擬態化の魔法はとても高度で、魔力消費も多い。そこまでして猫に擬態するメリットはあるのだろうか?


「ストレス発散です。」


全くの無表情で彼の口から出た言葉は、とても人間らしいものだった。


「ストレス…溜まってるの?」

「それはもう。今はかなり落ち着いたんですが、一年の終わりに、生徒会の仕事が糞過ぎて、限界が来ていました。そこで猫にでもなりたいと思ったことが始まりです。」


猫の手も借りたい、でななく、猫にでもなりたい。


…ハイレベルな人が考えることは、シェリアーナのような一般人には理解できないんだろう、そうやってシェリアーナは無理やり自分なりの解釈をすることにした。

ちなみに、彼の口から出た糞とかいう汚い言葉は聞こえなかったふりをする。


「これから話すことは、ここだけの話にしてもらえますか。」

「え、あ、うん。」


どうやら他にはバレたくない話を今からしてくれるらしい。


「当時、生徒会のことでしんどくなったとき、一人になるために、よくこの旧校舎へと足を運んでいました。ここなら普段は人もあまりこないし、とても静かなので、心を落ち着けるのにぴったりでした。」


ティラントの話では生徒会の人は淡々と仕事をこなしてるって話だったけど、めちゃくちゃ苦労してるじゃないか。


「でも、私がここで休憩してることが、いつのまにか女子生徒にバレてしまい、ここに色々な人が集まってくるようになってしまいました。」


あ、きっとファンクラブにバレたんだな。

生徒会の人は追っかけファンがいっぱいいるから…人気者はつらい。


「ここはせっかく見つけた自分にとっての安穏の場所だったのに、また、逃げ場所がなくなってしまいました。他の場所も一緒で、居場所を見つけては誰かに発見され、ということを繰り返していました。そこで、私は認識阻害の魔法を使うことを思いつきました。これなら誰にも邪魔されず、ゆっくり休憩できると思ったので。けれども、この魔法、当たり前かもしれませんが、私より魔法レベルが高い者には通用しないんです。」


「いや、認識阻害の魔法って、2年のAクラスでもまだ習ってないよ。ドゥランさんって、魔法使いとしてかなり優秀なんじゃ…」


「でも、僕に見つかっちゃったんだよね〜。」


あはは、と笑うナバール。


そんなナバールにシェリアーナは驚きに目を見開く。

彼の姿を見つけたということは、高度な魔法を使うドゥランより、実力が上だという証拠だから。


「僕がたまたま旧校舎の備品庫に魔法具を取りに来たときに、膝を抱えて死んだような顔してるドゥランを見つけたんだ。彼、あまりに顔色が悪いから、最初は旧校舎に住みついた幽霊かと思っちゃったよ!今思い返しても、あれはちょっとひやっとしたなぁ。」

「はい、半分死んでましたから。」

「淡々と言うね…」


「でも、あのときナバールさんに会ってなかったら、いま私はここにいなかったかもしれません。学園を去っていたか、あるいは、人としての人生を終えていたか…あの頃は、それくらいに思い詰めていました。」



次から回想

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