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創立祭明け4日目:犯人はあの人で間違いない


生徒会館内に予鈴が鳴り響く。


しかし、応接室の二人はその音に何の反応も見せない。


「…」

「…」


しばらくの間、沈黙が続く。


シェリアーナは自分の魔法が失敗したとは思っていなかった。

彼女は自身が扱える魔法に関しては絶対的な自信があり、探知魔法の精度は先生のお墨付きである。


では、一体何故、猫…はっちゃんを探したはずが、魔法はドゥランを指し示しているのだろうか。


「あの」


先に沈黙を破ったのは、ドゥランのほうだった。

彼の声に、シェリアーナははっと我に返る。


「これ、いつまで光ってるんですか?」


キラキラと発光し続けているドゥラン。

光に目が慣れてきたとはいえ、いい加減眩しかったのだろう。


「あ、すいません。いま解除します。」


シェリアーナが右手で払う仕草をすると、ドゥランの周りを照らしていた光たちがフッと消えた。

その様子を見て、ドゥランは感情の乗らない声で呟く。


「…本当、息をするように魔法をお使いになるんですね。」

「あーまあ、これでも、一応Aクラスなんで。」


シェリアーナたちAクラスは魔法を専科に習っているのだ。ドゥランたちSクラスと違い、魔法は扱えて当然という認識だった。


「そういえば、予鈴が鳴っていましたね。」

「あ、そうでした。早く行かなきゃ、遅刻しちゃう。」


なにせ教室棟のある本校舎とここは距離が離れている。今から走って、なんとか間に合うかどうかといったところだろう。


「Sクラス近くでいいなら、転移式があるので転移可能です。こちらへ来てください。」


「転移式があるんですか!?」


転移式というのは、魔法陣が描かれた場所から場所へ移動できる魔法の一つである。この転移式というものは、設置するのに国に申請が必要であり、専用のライセンスを持った業者しか設置不可、メンテナンス不可となっている。初期費用もさることながら、維持費もそれなりの金額がかかるので、経済的に余裕のあるものか、学校などの大きな団体でしか利用されていない。まさかこの学園で、しかも生徒会の人間が使用しているなど、思ってもみなかった。


シェリアーナはドゥランと共に応接室を出ると、彼はそのすぐ向かいにある扉を開けた。すると、扉の先に二人くらいなら入るであろう狹い空間が、そしてその地面には、小さな魔法陣が描かれていた。


「この魔法陣は、生徒会メンバーにのみ、発動するように設定されています。」

「え。それって、私は使えないんじゃあ…」


話が違うではないか。そんなことなら、ここに来る前にダッシュで本校舎まで走ったのに。

遅刻確定であることに、シェリアーナは目に見えてガッカリした様子を見せるが、ドゥランはそんな彼女に首を横に振って見せた。


「いえ、生徒会メンバーの持っている()()も、きちんと転移するように出来ています。なので…ちょっと失礼します。」


「え」


ドゥランはシェリアーナの後ろに立つと、少し屈んで彼女の身体をヒョイと持ち上げ、そのまま横に抱き上げた。


「!?ちょっと!いきなり何するんですか!?おろして!」


ドゥランの突然の奇行に、シェリアーナは慌てふためく。

だが、そんな彼女とは対照的に、彼はどこまでも涼しい顔をしていた。


「忘れものは無いですか?」

「え、たぶん」


(いや、忘れものの確認どころじゃないんだけど、今どういう状況、これ?)


何の躊躇いもなくシェリアーナを横抱きにし、転移陣の中へと足を進めるドゥラン。シェリアーナは何度も「降ろして」と懇願するが、彼は耳を一切貸そうとしない。彼女はどうしていいか分からなくなり、持っているカバンをぎゅっと抱き締める。彼はそんな彼女の様子を見て、緊張しているようにでも見えたのだろう。


「怖がらくて大丈夫、転移は一瞬だから。」

「いや、そうじゃなくて…!」


(転移にびびってる訳じゃないから!)


シェリアーナは心の中で盛大にツッコミを入れながら、早く転移してくれと念じた。


「じゃあ行きますよ。しっかり僕に捕まって。」


自分から彼に触れるのには抵抗があったが、もし彼の言う通りにせず転移に失敗するのも困る。シェリアーナはドゥランに言われたとおり、片方はカバンを抱き締め、もう片方の手で彼のブレザーをそっと掴んだ。


それを合図に、ドゥランが何か呪文を唱え、同時に二人の周りの景色がグニャリと曲がり始める。


そのとき、シェリアーナは強烈な近視感に襲われた。

浮遊する感覚、鼻を掠める懐かしい香り。



それは創立祭のあの日の状況に、酷似していた。





「…ティラント、ちょっと。」

「ん?どした?」


休み時間、シェリアーナはティラントを呼んで教室の隅へと移動する。


「やっぱり、ドゥランだったっぽい。犯人。」


彼女は、他には聞こえないよう、小さな声でティラントの耳元に自身の予想を告げた。


「え!?本人に確認したのか!?」

「いや、そうじゃない。直接確認はしてないんだけど、今朝ちょっと色々あって…彼だって確信できた。昼休みになったら、また彼に会いに行って、ちゃんと確かめるつもり。で、悪いんだけど…一緒に付いてきてくれない?」

「朝に色々あったて…てか、それ、俺が付いてってもいいの?」

「うん、Sクラスに1人で行くのは心細いし、それに彼、何考えてるかわからないから二人きりは怖いんだよ…」





「着きました。」


そう言うと、ドゥランはゆっくりとシェリアーナを地面へと降ろす。


彼が言ったとおり、転移は一瞬だった。

生徒会館からの転移した先は、Sクラスの横にある屋上へと続く非常階段の踊り場。普段は立ち入り禁止の立て札が立てかけられており、生徒は出入りできない場所になっている。

まさか、こんな場所に転移式を設置していたなんて思いもしなかった。

おそらく、自分が知らないだけで、ここ以外にも学園のあちこちに転移先が設定されているのであろう。


「ここからAクラスまでは少しかかると思いますので、急いでください。」

「あ、はい。あの…ありがとう。」


彼に確認したいことは山ほどある。何なら文句だって言いたい。しかし、ここで引き止めると、確実に二人とも遅刻してしまう。

ドゥランに転移のお礼を言って、シェリアーナは階下にあるAクラスの教室へと急いだ。


そして、彼女はあることに気付く。


(ん?まて、私あの人に会ったのに、何も解決してないじゃん!)


打ち上げのときの話を避け、猫の件を確認した結果、余計な謎が増えてしまっただけである。

収穫と言えば、ドゥランから香った懐かしい匂い。

あれは確実に創立祭のときに嗅いだことがあるものだ。保健室へと運ばれたとき、そして――猫吸いをしたとき。


頭の中を整理しようにも、色々と情報が多すぎた。


けれども、確信したことが一つある。

あのとき私を運んでキスをしてきた相手は、間違いなくドゥランだ。





「二人で何話してんのー?僕もいれてよ!」

「!ナバール」


こそこそと二人で話すシェリアーナとティラントの元へ、何だ何だとナバールが間に割って入って来た。

シェリアーナは一瞬面倒だと思ったが、まあナバールなら害がないかとティラントと話していたことをそのまま伝える。


「昼休みに生徒会の人のところまで付いて来て欲しいってティラントに頼んでたところだよ。」

「生徒会?なんで?シェリーちゃん、何か相談事でもあるの?」

「ああ、シェリーが創立祭で倒れたときに、介抱してくれた人物を探してるんだ。ほら、みんな記憶がないって話してたやつ。そいつを見つけるために、生徒会のドゥランに相談しに行こうとしてるんだよ。」


ティラントが彼女に代わりナバールに説明をする。

本当は相談ではなく本人確認をしに行くのだが、余計な口は挟まないでおいた。


「まだ探してたの?もう創立祭から4日も経ってるけど。」

「4日経って、ようやく真相にたどり着けそうなの。」

「真相ねえ…。ね、それ、僕が付いていってもいい?」

「え、ナバールが?」


シェリアーナはティラントの方をちらりと見る。

彼女としては、ドゥランと二人きりにならないのであれば別にナバールであっても構わない。ちなみにカティナに付き添いを頼まなかったのは、今日の昼はトリスタンと二人で過ごすと予め聞いていたためである。


「俺はシェリーがいいなら、代わってやって構わないんだけど。」

「だって。ね、ね、いいでしょ、シェリーちゃん。僕と一緒にいこ。」

「ん、じゃあナバールにお願いしようかな。でも、なんも面白いことはないよ?」

「いいのいいの。で、ドゥランとは約束してるの?」

「ううん、してない。昼休みに押し掛けるつもりだった…だから付いて来て欲しかったってのもある。一人でSクラスに行くは緊張するから。」

「じゃあ、僕が連絡入れといてあげるね。」


言うや否や、ナバールは指先をくるんと回し、伝達魔法を展開する。伝達魔法とは、口頭で設定した宛先に、自分の声を届けることができる魔法である。音速で相手に届くため、急ぎの場面でよく利用されている。


『次のメッセージを2年Sクラスのドゥランまで届けること。ただし、このメッセージが聞こえるのは本人のみとする。"はぁい、ドゥラン。昼休み、旧校舎の備品倉庫まで来てね。絶対だよー約束だよー"。』


「よし、完了。あ、待ち合わせ場所、勝手に旧校舎の倉庫に設定しちゃったけど、良かった?」

「うん、ありがと。ていうか、ナバールって、ドゥランと知り合いなの?」

「そうだよ。知らなかった?」


知らなかった。ずいぶん砕けたメッセージを送ったものだと、シェリアーナは不思議に思ったが、どうやら知り合いだったらしい。

ナバールは顔が広いので、生徒会の人と繋がりがあるのも頷ける。


「じゃあ昼休みになったらすぐに向かおうか。時間を伝えるの忘れちゃったけど、彼なら寄り道せずさっさと来てくれるんじゃないかな。」

「わかった。」


いつの間にか、ナバール主導になっている気がしないでもないが、彼のおかげでSクラスに突撃せずに済んだので良しとする。


ドゥランに会ったら、まず何を尋ねるべきか…今朝の二の舞になるのだけは、なんとしても避けたい。

シェリアーナはふうっと息を吐き、胸の奥で小さく決意を固めた。




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