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創立祭明け4日目:新たな謎が生まれる

短めなので、本日2話目。



ドゥランの案内で、シェリアーナは自分には無縁だと思っていた生徒会館の中へと足を踏み入れた。


建物の中は彼女の期待を裏切らず、なんとも豪華な造りとなっていた。絨毯張りの廊下に、見るからに高そうな装飾品の数々。飾られている絵画は学園周辺の景色で統一されていた。


一階の奥にある応接室に入り、革張りのソファーに腰を下ろしてドゥランと向かい合って座る。


「本来ならお茶でも淹れるところなんですが、時間が無いので…申し訳ありません。」

「どうぞお構いなく。」

「ありがとうございます。では、お話を伺う前に、簡単に自己紹介しておきますね。私は生徒会で会計をしているドゥランと申します。2年Sクラスに所属しています。」

「私は2年Aクラスのシェリアーナです。よろしくお願いします。」


シェリアーナはドゥランと挨拶を交わしたことはあったが、互いに名乗り合ったことはなかった。

表情は乏しいものの、決して冷たいわけではない。言葉遣いのせいもあってか、丁寧で礼儀正しい人物という印象を受ける。


「それではお互い名乗り合ったところで、早速あなたのご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「はい、今日ここに来たのは、あることを確認したかったからなんです。」


同じ学年ではあるが、ドゥランが敬語を崩そうとしないため、自然とシェリアーナも敬語で返した。


「あること、ですか?」

「はい、それは…」


シェリアーナは話始めようとしたのだが、いざ本人を目の前にすると、中々言葉が出てこなかった。


『創立祭で私を介抱してくれたのはあなたですか?』

…たった一言、それだけのことなのに、どうしても口にできない。


(だって、もし『はい、そうです』って言われたらどうするの?そのあと『じゃあなんで私にキスしたの?』って聞く?私、ちゃんと聞ける?)


もし間違っていた場合、協力をお願いするだけなのだが、もし当たっていた場合、二人きりのこの状況で、キスの件を聞くのはかなり気まずいのではないか。


言葉を詰まらしたシェリアーナに、ドゥランは急かすでもなく彼女が話し出すのをじっと待つ。


少しの間沈黙が続いたあと、シェリアーナは、


「生徒会館で、猫を飼ってらっしゃるんですか?」


今、二番目に気になってることを口にした。


「…」


たっぷり間を溜めて話した割に、あまりに中身の無い内容だったためか、ドゥランは肩透かしをくらった様子を見せる。といっても、表情にほとんど変化は無いのだが。


「猫…ですか?」

「そう、猫です。」

「飼ってません。」


彼は少し食い気味に、間髪入れずに返事をした。


わざわざここまで来てしょうもないことを聞いてきた彼女に、早くお帰り頂こうと思ったのかもしれない。


しかし、シェリアーナは真剣だ。

先程確かに窓ではっちゃんを見たのだ。なのに、彼が取り尽くし間もなく否定してきたことが、彼女の勘に触った。


「嘘つけ。」


あ、しまった。


シェリアーナは思わず口に手をあてる。

つい、Aクラスの面々と喋ってるような感覚で、返してしまった。


「嘘ではないですよ。なぜそう思ったのか、理由を聞いてもいいですか?」


ドゥランはシェリアーナの言葉に気を悪くした様子もなく、彼女が質問した内容の理由を尋ねた。


「先ほど、窓際に猫がいるのを見かけました。珍しい毛並みの、とても綺麗な猫です。私はその猫を探して学校中を歩き回っていたのですが、偶然、会館の中にいるのを見つけました。あの子は、この会館で飼われている猫なのでしょうか。」

「なるほど…?」


実際は猫を探してここに来たわけではないのだが…話がややこしくなるので、シェリアーナはしれっと、それらしい嘘をつくことにした。


「残念ですが、ここで猫は飼っていません。もし私が嘘をついていると思うのなら、会館内を探して貰ってかまいません。」

「…」


ドゥランは猫を見てない、ここでは猫なんて飼ってないという。

――では、はっちゃんは彼の知らない間に、ただ建物の中へ入り込んでしまっただけということだろうか。

旧校舎に忍び込むくらいなのだから、その可能性は十分にある。


そしてそのことに、シェリアーナはひどく安堵した。


(良かった、はっちゃんはここで飼われていたわけでは無かったんだ)


しかし同時に、あの美猫様が生徒会の面々に見つかったら、誰かに貰われてしまうかもしれないという不安がよぎった。

なにしろ、とんでもない美猫様である。

猫好きの誰かが連れて帰ってしまう可能性は大いにあり得る。――それだけは、なんとしても阻止したい。

はっちゃんはシェリアーナのものではないが、いつか自分の家に迎え入れたいとまで思っていた。


(うん、探してもいいなら、探させてもらおうじゃないの。)


「ここで飼っていないということでしたら、勝手に紛れ込んでしまったのかもしれませんね…外に出られなくて困っているかもしれないので、会館の中を少し探させていただいてもよろしいですか?」


シェリアーナの言葉が意外だったのか、ドゥランは一瞬驚いた表情を見せる。が、すぐに元の感情の読めない顔に戻し「わかりました。では、他の部屋をご案内しますね。」と席を立とうとした。しかし、シェリアーナは彼に向けて首を横に振る。


「いえ、その必要はありません。」


シェリアーナは座ったまま右手を目の前にかざし、意識を手元へと集中させた――手っ取り早く、探知魔法を使うことにしたのだ。


生徒会館は小さいとはいえ、それなりの広さがある。

歩いて一つ一つの部屋を探していたら、あっという間に授業が始まってしまう時間になるだろう。

そんな手間も時間も、今の彼女には惜しかった。


シェリアーナの手元へキラキラとした粒子が集まり出す。ある程度光が集まったところで、彼女は呪文代わりの命令を口にする。


『この会館内にいる猫を見つけて。その猫は、私が過去に会ったことのあるものに限定します。』


シェリアーナの命令終了と同時に光が弾け、部屋から廊下に至るまで、ものすごい速さで光の粒子が会館中を照らしていく。しばらく目も明けられないほどの光が満ちた後、その輝きはシェリアーナの右手から一本の線のように収束していく。


光が落ち着いた頃、シェリアーナとドゥランは同時にゆっくりと目を開け……そして互いに顔を見合わせた。



「ん?」

「え?」



シェリアーナの手から延びる1本の光が、ドゥランの全身を照らし出している。


「…」

「…」


(これって…つまり、どういうこと?)



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