プロローグ
ふわふわとした微睡みの中、身体が宙に浮き、誰かの腕の中で運ばれていく感覚があった。
生徒たちの騒めきが、次第に耳から遠ざかっていく。
かろうじて薄く開けた目には、薄暗くてはっきりとは見えなかったものの、制服のブレザーのようなものが映った。嗅いだことがあるような、ないような――どこか懐かしい記憶を呼び起こすような匂いがする。
聞こえるのは、自分を抱きかかえているらしい生徒の、廊下を歩く足音だけ。
ガラッと扉を開ける音が響き、先ほどまでの匂いが、鼻を突くような消毒の匂いへと変わった。
やがて、そっと優しい手つきで、固く清潔なベッドの上へと身体を降ろされる。ご丁寧にも靴をゆっくりと脱がせ、シーツをかけてくれた。
そのとき、自分の意識のほとんどはすでに夢の中にあり、「親切な人、どうもありがとう」と心の中で思いながらも、声には出さずに眠りの中へと沈もうとしていた。
頭をゆっくりと撫でる感触がする。
それが大きな手であることが、頭越しにわかった。
ゆっくりと往復するその手つきは、まるで子どもを寝かしつけているように優しく、――ああ、もう意識がなくなる。そう思った矢先。
唇に、柔らかいものが押し当てられた。
その感覚を最後に、かろうじて残っていった意識は、とうとう夢の中へと旅立っていった。




