第1話
クラスではみんな男性アイドルの話ばかりでつまらない。
最近K-POPアイドルにご執心らしい。
私には何がいいのかさっぱりわからない。
まず男に興味がない。
私は女性アイドルグルー「light」を推している。
推しはlightの絶対的エース、藤澤ひかり(通称ひかりん)である。
「今は多様性の時代だから別に女性が女性アイドルを推したっていいよね。」なんて話は私の学校では全くもって通じない。
本当ならクラスで、「昨日の歌番組見た?!めっちゃ可愛かったよね!!」などという話をしたいものだ。
もしそんな話をクラスでしようものなら、次の日から半径2メートル以内から人がいなくなるだろう。
それだけ私のクラスでは、女性は男性を好きになるもの、男性アイドルを推すものという風潮が強い。
もっと推しについて語り合いたいのに、そんな簡単なことでさえ私のクラスでは難しいのだ。
1番推しについて語れる場所はどこだろうかと、私はいつも考えている。
今日も私は、部屋で「light」のライブ映像を見ながらそんなことを考えていた。
「遥香〜ご飯できたよ〜」
母の声が聞こえた。
lightのライブ映像を一時停止して、夕食を食べに行く。
今日のご飯はおそらくハンバーグだ。
学校から帰ったとき、母はひき肉を冷蔵庫から取り出していた。
「今日は遥香の好きなハンバーグだよ」
やっぱりとは思ったが、「知ってるよ」などと言うと母はびっくりするほど落ち込むので言わないでおく。
「美味しそう〜いただきまーす」
そう言って夕食を食べ始める。
「そういえば、今度東京で新しくできるアイドルグループのオーディションがあるんだって。遥香、また推しが増えちゃうんじゃない??」
「・・・」
「それだ!!!」
私は思わず大きな声を出してしまう。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
アイドルになれば、アイドルを好きな子たちと必然的に友達になれる。
絶対にアイドルについて語り合える!!
なんならひかりんにだって会えるんじゃない?!
「なに?急に大きな声出して」
「私、アイドルになる!!」
「そう。え、、えぇぇぇぇぇぇ?!!!!」
母の、あんなに大きな声を聞いたのは初めてだった。
その夜、遥香はアイドルオーディションについて調べ始める。
書類審査の締切までは約1ヶ月。
応募可能年齢は12歳以上18歳以下。
18歳の遥香とっては結構ギリギリの条件である。
「最年長か〜、、年下とやっていけるかな、、」
まだ書類審査すらも通っていないのに、アイドルになった後のことを考える。
「自己PR、特技、、、」
「ママに考えてもらえばいいっか」
自分が楽観的な性格なことは人に言われるまでもなくわかっている。
「もう12時じゃん」
「明日はひかりんが朝のテレビに出るから早めに寝ないとね」
オーディションのことは明日考えればいい。
「遥香〜は〜る〜か〜!!」
「起きなさい。今日はひかりん朝から見るって言ってなかった?」
どんなに寝ぼけ眼でも"ひかりん"という言葉には敏感に反応する。
「んん、、そうだ、ひかりん!!」
朝からとても大事なことをスルーしそうになっていた遥香は、自分のオタク魂はこんなものだったのかと、少し悲しくなりながらテレビをつけてひかりんがでるその時を待つ。
そして朝のニュース番組が始まり、「おはようございます!」という元気な挨拶とともに、番組がスタートした。
「8月20日水曜日、今日の"おはテレ"はあの人気アイドルグループ、lightの藤澤ひかりさんをお呼びしています!」
キャスターの振りでひかりんが登場する。
「きゃーーひかりーーーん!!!!」
いつでも推し活は全力、これが私のモットーだ。
「今日はお知らせがあって、きてくれたんですよね?」
そう言ってキャスターはひかりんに話をふる。
「そうなんです!!もうすでに告知されていると思いますが、新しくできるアイドルグループのオーディション開催日時が決定しました!!オーディション公式Webサイトに掲載しているので、ご確認の上、皆さんもぜひ応募してください!!!」
ひかりんが新しくできるアイドルグループについて話しているのを見て疑問に思った。
「なんでひかりんが説明してるの?」
オーディション公式Webサイトを思い出す。
「そういえば、あれってlightと同じ事務所だっけ?
てことは、絶対ひかりんに会えるじゃん?!!!」
ひかりんと同じ事務所とわかってより一層やる気になった。
「そして、今日は初公開のお知らせもあるので楽しみにしていてください!!」
「藤沢ひかりさんには8時50分ごろに、もう一度出演していただきます。それでは今朝入ったニュースです。今日未明・・・」
ひかりんの出演パートが終わり、通常のニュースパートへと移っていく。
「初公開のお知らせってなんだろう、、」
考えてもわからないことは考えないのが私だ。
きっぱり諦めた方が無駄な労力を使わなくて済む。
次のひかりんの出演まで約40分間。
特にすることもないので寝ることにする。
「30分後に目覚ましかけておけば大丈夫だよね」
ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴぴ、ぴぴ、ぴぴ、ぴぴぴぴぴぴ。
「ギリギリセーフ!間に合わないところだったよ〜」
危うく寝過ごしそうになりながらもなんとか起きることができた。
ひかりんの出演パートもそろそろ始まるだろう。
「ここで再び、藤澤ひかりさんをお呼びしたいと思います!」
キャスターが喋るのと同時にひかりんがカメラに映る。
やっぱり、ひかりんはとてつもなく可愛い。
「藤澤ひかりです!!テレビの前の皆さんに重大発表があります!新しくできるアイドルグループが私が所属するアイドルグループ"light"の後輩グループとしてデビューすることが決定しましたーーー!!」
遥香にとっては夢にまで見た展開である。
ひかりんと確実に会える。
「そしてグループ名も今日初公開となります!!
グループ名は、、、、」
──そのグループが、人生を変える、とても大切な存在となることをまだ遥香は知らない。